ふだんぎ

若者はズボンをずらしているし、破れたパンツをはいている。
おかげで、この２０年以上、ぼくはブティックなんぞと言うところに行って服を買った事が無い。
２０数年前の服がちょうどやれて来て、今のルーズなファッション観のおかげで、さほどみすぼらしい感じは無い。
今から思えばあれもこれももまだ着れたのに、ちょっと表面の毛羽立ったのが無くなって素地の縦横の糸が見えてきただけで捨ててしまった。

一時代、二時代前には、客と会うような時にはキチンとしたファッションで出かけるというのが世間的にも通例だった。
国会議員などが背広にネクタイが礼節のある服だとかいってわざわざクールビズという名目で軽い服を公に着る事を決めている。
キチンとした服とは、ファッションではなく、「取り決め」なのだろうね。
あらゆる社会で、ファッションは各自の自由で着るとしたら、もっと楽しくて経済としても回り、各自の仕事の発想もバラエティーに富むのにと思う。

ぼくは仕事柄というか、もとから服とは動物の毛皮のように自分を現す毛皮を着る事だと思うから自分が一番リラックス出来る、あるいは行動や考えを一番発揮しやすい服を着て来た。

おしゃれのTPOというものがあるから、葬式に極端に派手な服を着ていこうとは思わないが、仕事の打ち合せなんかでも柄のシャツに、カジュアルなジャケットで向かう。
いわば年から年中普段着だ。

一般的に普段着が言ってみれば、おしゃれの基本だろうと思う。
いつも背広を着ている人が休日の行楽地などでなんだかちぐはぐなカジュアルウェアーを着ていると、まったくダークスーツだけ着ていれば済む生活なんだなーと思ってしまう。

この絵のモデルはさほど興味のもてる素材ではなかった。
いわばまったくの普段着的なファッション。
描いているうちに何となく穏やかな気持ちになる。
普段着のやすらぎ。普段着の着こなしが穏やかにさせるのだろう。

とはいえ、ぼくのように、その辺のものを無差別に着た普段着では決して無いが………。

【一沈】

和紙パネル　おおよそ、60×90cm　　墨