テーマオーナー
紀平真理子・齊藤弘久
紀平真理子
メッセージ
スーパーマーケットに並ぶ野菜は知っていても、その野菜が作られた土のにおいや感触、作った人の手を知っている人は多くないと思います。薪を切り出してエネルギーにしていた時代は移り変わり、水は、そばの川から汲むものから水道へ。食べものも、情報も、手元に届くまでのプロセスはどんどん見えにくくなっています。
一方、「手触り感」「身体性」という言葉は、よく耳にするようになりました。しかし手で触れることだけを指しているのではありません。実際にフィールドに足を運び、人に直接話を聞くとき、その場のにおいや音、相手のためらいや間が自分の身体の中に蓄積されていくような感覚。実験室で器具を扱い、アトリエで画材と向き合うときの感覚。つまりそれもまた「ふれる」ことだと思っています。
不可視化されているものを可視化しようとする。でも同時に、何でも可視化し効率よく理解しようとすることへの小さなためらいや抵抗、ささいなズレも大切にしたい。
あなたが「ふれた」ことで気づいた世界をもとにした活動、研究、そして作品を広く募集します。ご提案いただく活動や研究、作品を通じて、ふれることから離れつつある私たちへ、そして作品に「ふれる」鑑賞者へ、その経験や感覚が届くことを願っています。
プロフィール

紀平真理子
化学系メーカー、農業ライターなどを経て、2025年、名古屋大学大学院環境学研究科博士後期課程修了。博士(環境学)。同年より同研究科社会環境学専攻助教。専門は環境社会学・科学技術社会論。農業、漁業、環境をめぐる現場において、人と技術、自然、制度のあいだに生じる「ズレ」に注目し、映像やシミュレーションゲームを活用した方法論(Visual Problem Appraisal)や協働の状況を把握する手法(m-PULSP)の開発や実践に取り組む。著書に『ジャガイモ大事典』(分担執筆、農山漁村文化協会、2023年)など。2026年秋に博士論文をもとにした著書『カオスのままの協働デザイン——持続可能な農業に向けた技術開発の現場で——』(昭和堂)を刊行予定。
研究事例

視覚的問題評価法(Visual Problem Appraisal/VPA)の応用と実践
特定の原因を限定することが困難で、領域横断的に問題の枠組みが定まらず、単一の解決策が存在しない問題を「厄介な問題」と呼ぶ。こうした問題への対応を目的に、映像とシミュレーションゲームを組み合わせた視覚的問題評価法(Visual Problem Appraisal/VPA)を応用。浜名湖のアサリ減少を題材にツールを制作し、ワークショップを実施した。複数のステークホルダーへの映像を介した擬似的な聞き取りを通じて、問題を単純化せずに捉えるための要素を明らかにした。さらに、同一の映像を視聴した際にも、専門分野によって問題の「見え方」が異なることを実証。VPAが専門分野間の「隠れたフレーミング」を外在化する手法となりうることを示した。

m-PULSP(マルチステークホルダー参加型相互理解・学習持続可能性探索器具)の開発
農業や環境分野の持続可能性に資する技術開発では、農業者や研究者、行政、企業などの関係者が協働する。生物性土壌診断技術のコンソーシアムを対象に、ナラティブアプローチと共起ネットワーク分析を組み合わせた混合研究法によって、技術の完成度・不確実性・認識に関する関係者間の解釈のズレを可視化した。それらを手法として構築し、協働の状況をリアルタイムで把握するための手法としてm-PULSPを開発し、高機能バイオ炭など異なる事例でその有効性を示した。
齊藤弘久
メッセージ
「in TOUCH」という言葉と響きは、僕の中にいろいろなイメージを想起させます。そのうちの一つは、「お腹のなかにいる赤ちゃん」です。
人間にとって最も早く発達する感覚は、触覚です。我々は触れるという行為を通して、初めて世界と出会います。
ComoNe屋上のGREEN TERRACEに立ってみる、あるいはそうしている自分を想像してみてください。
何が見え、何が聞こえ、どんな世界が広がっていますか。
あなたはその世界のなかの誰と、何と、どの場所と、どんなふうにつながっていますか。
そのつながりのなかに、どんな感覚、感情、想い、願い、祈りがありますか。
そして、今のあなたに触れられない世界があるとしたら、そこに行ってみたいですか。
どうして、そして、どんな方法で。
今回のComoNeプログラムのテーマは、『ふれる』という、最も根源的な行為、感覚、世界との関わり方を捉え直す実験へのお誘いです。
皆さんからどんな実験をご提案していただけるのか、とても楽しみにしています。
プロフィール

齊藤弘久
名古屋大学未来社会創造機構Future Society Studio教授兼Co-Innovation University(CoIU)共創学部教授。20年強の海外生活の後、CoIU設立に参画し、2022年に家族と共に岐阜県飛騨市に移住。科学技術社会論を専門とする社会学者として、マインドフルネスとデザイン思考を実践しながら、社会全体のウェルビーイングを高めるイノベーションを創発できる大学の在り方を探求している。ComoNe屋上のGREEN TERRACEで、そよ風、鳥の声、太陽、土と芝生を感じながら瞑想をするのが趣味。
研究事例

戦争の記憶から平和を考える
大学院在学中に、東アジア歴史認識問題に関心を持ち、感情的記憶、アイデンティティ、社会運動、国内政治、国際関係などが、どのように絡まり合い、和解に向けた対話を阻害するのか歴史学的、政治学的、社会学的に分析。和解に向けた未来志向の対話を促進するために必要な措置を検討し、複数の論文と『The History Problem: The Politics of War Commemoration』(ハワイ大学出版会)を通して提言を発信。

内的変容と社会変革の関係性
自分自身の観想実践を通して、マインドフルネスがどのようにメタ認知やウェルビーイングを高めるのか考察しつつ、シンガポール経営大学の同僚たちとマインドフルネスを用いた教育介入を実施。帰国後は、東京大学、名古屋大学、CoIUなどで観想実践を教育に取り入れながら、『呼吸する学校―先生と生徒のマインドフルネスを育み、学び場にエネルギーをもたらす』(英治出版)の翻訳に携わる。