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曲げわっぱが日常に残る分岐点

その他
曲げわっぱは「良い道具」と言われながら、日常に定着しにくい存在でもあります。
作り手として関わる中で、使い続ける人がいる一方、使わなかった人や途中でやめてしまう人がいます。
その分かれ目には、価格や手入れの問題だけでは説明できない、もっと身近で個人的な判断があるのではないかと感じています。

本プロジェクトでは、曲げわっぱを初めて使う人と、使わなかった人・途中で使うのをやめた人の体験を同じ重さで記録し、「日常に残る分岐点」を探ります。
使う前に抱いていたイメージ、触れた瞬間の印象、実際の使い方、黒ずみやにおい、カビといった変化に直面したときの判断、
そして使われなくなった理由や続いた理由を、成功・失敗に分けず観察します。

また本プロジェクトでは、漆を「完成品を美しく仕上げるための職人の仕事」と、「使い手が道具との関係をつなぎ直すための行為」とに分けて捉えています。
職人には完成度の高い器をつくることに専念してほしい。
一方で、使い手が自ら手を入れながら使い続ける余地があることも、道具が日常に残る条件の一つだと考えています。
素人による塗り直しや手入れが、直す/手放す判断の分岐点としてどのように機能するのかも観察対象とします。

初期段階では数名を対象に、3ヶ月間で観察・記録・編集を行います。
なお、すでに使われなくなった曲げわっぱが十分に集まらない場合には、
現在使用されている曲げわっぱを対象に、使われなくなる過程や判断が生まれる瞬間を継続的に観察・記録する形に柔軟に切り替える予定です。

得られた記録は展示で終わらせず、冊子としてまとめます。これは結論を示す成果物ではなく、迷いや判断の過程を共有するための観察記録集です。
道具がどこで終わり、どこから再び始まるのか。その境界を他者とともに考えるきっかけをつくりたいと考えています。

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