CREATIVES

あいまいを あいまいなまま 受け入れる

私は大学でデザインの研究をしています。
デザインは、課題解決を目的としており、客観的な視点や伝わりやすさが重要です。
一方で私は「インクのにじみ」や、「抽象画」「木漏れ日」など捉えにくいものや、「曖昧な言葉のやりとり」というものにどうしようもなく惹かれます。
曖昧なものは、「良さ」が個人の感覚に左右されますし、そもそも「分かりにくさ」が曖昧をつくっているため、デザインとは相性が悪いように思えます。
私は、「曖昧」をテーマにプロダクトや体験のデザインを研究し、論文と作品という形で発表したいと考えています。
卒業研究で、この内容を研究していく予定です。研究の中で、「曖昧」という人により感じ方が異なる対象を「客観的な視点で」「説得力のあるもの」として形にするために、年代も生き方も興味もバラバラの方々とお話をさせていただく環境が必要だと思いました。曖昧さを心地よく感じるか、不快と感じるかを示す「曖昧さ耐性」という言葉があるように、人によって曖昧さを快適だと感じるかには大きな違いがあると考えられます。私は曖昧さを個人の感じ方で完結するものではなく、曖昧さ耐性に限らずどのような人でも「曖昧なものを曖昧なまま受け入れる」ことを良いと感じることができる説得力のある表現の形を見つけ出すことを目標としています。そこで、本プログラムに応募させていただきました。

現時点まで、曖昧に関する分析を以下の5つの観点で行いました。
(1) 境界が無い/融け合っている
例:グラデーション、チームラボ ボーダレス、ユニバーサルデザイン
(2) 絶えず何かになっていく
例:木漏れ日、焼き物、わびさび
(3) 人により解釈が異なる
例:モナリザ、ito(カードゲーム)
(4) 同時に複数の要素をもつ
例:掛詞、曖昧な感情
(5) 不明瞭
例:京菓子、幽玄の美

各対象について分かったこと・気づきは以下の通りです。
・グラデーション
 色彩のグラデーションは、自然界に多く存在することや、視線を誘導し動きを感じさせる効果と、穏やかな変化による心理的な安定感を兼ね備えていることから人々を魅了すると考えられます。
 色彩に限らず「性はグラデーション」「季節の移ろい」という言葉が示すように世の中のほとんどのものはグラデーションです。一方で、人間は莫大な情報を処理して思考・判断できるようにカテゴリー化能力をもっているため、物事をカテゴライズしやすく、それによって物事をバイアスのかかった目でみてしまう事が多いです。曖昧なことを曖昧なまま受け入れられるようになれば、多様性に富んだ複雑で豊かな世界が見えてくるのではないかと考えます。(一部引用 https://dentsu-ho.com/articles/7310)

・チームラボ ボーダレス
 (アート・デジタル・テクノロジーなどを掛け合わせた作品に没入できるミュージアム)ここでは、アートは部屋から出て移動し、他の作品と関係し、影響を受けあい、他の作品と関係が無く、時には混ざり合います。これにより、アートは人間の特徴である「時間という概念をもつ」「意思を持って動く」「思考は固定されず混ざりあう」等の要素に近づけられています。よって、人間とアートとの境界があいまいになり、人間は新たな世界の認識を体験することができます。(一部引用 https://www.teamlab.art/jp/e/tokyo/)

・ユニバーサルデザイン:コクヨ「Madore」
 この作品は、公共施設で多くの人が快適に過ごせることを目的としてデザインされており、端の席のみ車椅子やベビーカーを寄せやすくなっている点が特徴です。車椅子の方の「特別な席を用意してもらうことが嬉しいとは限らない」という言葉を取り入れて考えられました。全ての席を全ての方に配慮したものにすることは困難であるが、このように少数派の方にとって必要な席と、その他の席の境界が曖昧になっていることで分断を避け、心地よく感じる方が増えるのではないだろうかと考えました。
(商品ページ:https://www.kokuyo.com/furniture/category/chair-sofa/lobbychair/madre/)

・焼き物 萩焼
萩焼は山口県萩市を中心に作られる400年以上の歴史をもつ陶器です。土と釉薬の収縮率により表面に細かなヒビがあるのが特徴であり、水分が浸透するため使い込むほどに器の色合いが変化します。その様子が「萩の七化け」と呼ばれ、わびさびを大切にする茶人たちに愛されてきました。

・モナリザ
モナリザの表情は人によって見え方が異なりますが、これは輪郭線を徹底的にぼかして描く技法「スフマート」により、表情を判断する要素が不足していることが原因であるそうです。鑑賞者の脳が欠けた情報を補完しようと働くため、見る人の心理状況によって感情が異なって見えるそうです。分からないからこそ惹かれる・議論を生む・曖昧な対象を通して自己を知ることができる面白さがあると感じました。

・ito
「価値観共有ゲーム」というキャッチコピーをもち、人気を集めたカードゲームです。1~100の数字が書かれたカードが1人1枚配られ、「無人島にもってきたいもの」などのお題に合わせて曖昧な表現で数字を伝え合います。感じ方や価値観といった比べようのないものを無理やり数値化して比較するという経験により、お互いの価値観の違いやその豊かさに気づくことができるという曖昧を活用した「体験のデザイン」であると考えました。

・掛詞
短歌などに使われている掛詞を、現代語訳するとその奥行が失われます。掛詞を使うことによって歌の作者と作者が見た景色とが重なり、作者の感じたことをより生々しく受け取ることができます。

・曖昧な感情
畏敬の念や、メランコリックなど、複数の感情が混ざり合い、本人もそれらを処理しきれていない状態である「曖昧な感情」は、人々の共感を読んだり、興味を引き出したりするため、物語では重要な場面で扱われることが多いのではないかと考えました。

・京菓子
京都は長く公家や武士、商人、職人など様々な階層の人が都に共存する場だったため、直接的な物言いは角が立ち、思わぬ争いを招く原因になりかねませんでした。生き抜く知恵としての「はっきり言わない」が、美的感覚へと結びつきました。京菓子は他の地域の和菓子と比べデザインが抽象的で対象が分かりにくいです。お茶の席では菓子銘は説明されず、何を表現しているのか様々考えを巡らせた後に菓子銘の確認をするという話を目にし、曖昧であることにより生まれる想像・想いを馳せることの喜びがあることを知りました。

・幽玄の美
言葉や形に表れない「奥深さ」「神秘的な陰翳」「余韻」に感じる神秘的な美意識です。神秘的と感じるのは、人間は「意味づけ」をしたがる性質をもつ一方で処理しきれない自然現象に出会った時、超自然的なものに意味づけたくなるためだそうです。

私はこれらの調べ学習から、曖昧とは
・世界には曖昧なものばかりであること
・曖昧なものに対して「カテゴリー化」「補完」「超自然的帰依」等の人間の様々な情報処理能力が働いていること
・適度なあいまいさは交流を生み、創造力をはたらかせること

を学びました。

今後はこれをもとに、実験やアンケート、試作を通して曖昧をテーマとしたプロダクトや体験のデザインを研究していきたいと考えております。
曖昧なものの中で何を対象とするか、どのような形に落とし込むのかはまだ定まっておりませんが、様々な方にご協力いただき、ご助言をもらい、意見を交わす中で決めていきたいと考えております。

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