テーマオーナー
小川浩平(研究者/東海国立大学機構)
小川先生からのメッセージ
私たちは長年、ロボットや人工物(エージェント)との対話を通じて「人とは何か」という問いを探求してきました。
しかし今、その問いの前提が大きく揺らいでいます。 昨今のAI技術の飛躍的な進展により、エージェントは急速に知性を高め、自律的に振る舞う存在へと変貌しつつあります。それはもはや空想の未来ではなく、自律的なエージェントと私たちが共存する世界は、すでに静かに始まっています。
気づかないうちに、じわじわと進むこの技術との融合は、私たちの社会構造だけでなく、内面にも作用します。ふと過去を振り返るとき、かつて自分が信じていた人間の姿と、現在の自分との間に、微かな、しかし確かなズレを感じることはないでしょうか。
そこで本テーマでは、あえて視点を未来へとジャンプさせます。 もし、エージェントと人間が深く共存する「未来の社会」から、「今」この瞬間を観たとしたら、未来の私たちにとって現代に生きる私たちは:
・どう振る舞うべきだった、と映るのでしょうか?
・何を創造すべきだった、と評価されるのでしょうか?
この「未来からの眼差し」を基にして、現在の私たちのアクション —すなわち「振る舞い」と「創造」—を根本から問い直す、活動、研究、そして作品を広く募集します。
ご提案いただく活動や作品が、変化の渦中にいる私たち自身、そしてそれを目にする鑑賞者にとって、より良い世界を構想し、未来を切り拓くためのヒントとなることを願っています。
プロフィール

2010年、はこだて未来大学 システム情報科学研究科 博士後期課程 修了。博士(システム情報科学)の学位を取得。2008年よりATR知能ロボティクス研究所研究員、2012年より大阪大学基礎工学研究科 助教、2016年より同大学 講師を経て、2019年より名古屋大学工学研究科 准教授。 ロボットやAI技術を基盤に、人と人工物との対話の研究に取り組む。 研究活動と並行してロボットを使ったアート作品も発表しており、Ars Electronicaや文化庁メディア芸術祭アート部門などで優秀賞等を受賞している。 また、HAI/HRI (Human Agent/Robot Interaction) の分野での研究活動を中心とし、TEDをはじめとする著名な国際会議での発表実績も持つ。
研究事例

アンドロイドU
人のような見かけを持ち、人の様に会話できるアンドロイドロボットを我々の社会に実装するためには、ロボットによる人らしい振る舞いの実装だけでなく、社会的に振る舞うロボットを人はどのような対象と見なすのかについて、考察を深める必要がある。本プロジェクトでは、女性型アンドロイドを飲食店やデパート、演劇など、人間の実社会で運用することを通じて、人らしい存在感をもつロボットの実用性について研究を実施し、ロボットと人の共存可能性を示した。

アンドロイド観音 Mindar
このプロジェクトは、400年の歴史を持つ京都高台寺にアンドロイドロボットを導入したものであり、ロボットが法話を行うという試みを通して、ロボットの表現力・対話力・動作技術を拡張する工学的研究として高く評価されている。また、伝統宗教と最先端技術の融合によって、テクノロジーが人間の精神生活や社会制度にどのように組み込まれていくのかという本質的な問いを、寺院という場で具体的に提示している点にも意義がある。

Telenoid
抽象的な見かけをもつ、遠隔操作型アンドロイドは操作者の存在間を伝達することができるか?という問いに対して、性別や年齢を感じさせない見かけを持つアンドロイド、Telenoidを開発し、これを用いた研究結果から、人の存在感は見かけや声の再現性だけではなく、対峙する人の想像により生じることが分かった。加えて、Telenoidを教育や介護などの現場において実際に運用することで、遠隔操作型アンドロイドの応用可能性を示した。