YouFab Global Creative Awards 2019 結果発表
2019年8月1日から10月31日まで開催されたYouFabグローバルクリエイティブアワード2019の最終結果を発表しました。
42カ国の285作品から20人のファイナリストが選ばれました。その中から、今年のテーマである「共生」を具現化した作品・活動が、大賞、第2回大賞、総合部門賞、学生賞、NextSTEAM賞(3名)の計7作品を発表します。
ファイナリストや詳細はYouFab Global Creative Awards 2019 結果発表サイトへ
グランプリには名和晃平氏デザインのトロフィーも授与
GRAND PRIZE
タイトル
Penta KLabs (sites spesific art project biennale- Semarang, Central Java, Indonesia)
Creator
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Judge’s comment: 若林恵(編集者)
「場所」というものほど人の態度や行動やマインドセットを大きく変えるものはないのかもしれない。ちょっとした何かの配置が、人と人の距離や関係を縮めたり、引き伸ばしたりする。「イノベーション」というようなものを仮に「社会をアップデートする力」とするなら、「場所」ほど、それに大きく寄与するものもない。といってもそれは建物という「ハード」をファブリケイトするという意味ではない。そこで「ファブ」られるべきは、最も広義な意味における「環境」だ。場所には多種多様な人や自然や文化やプロトコルなどが網の目のように交錯している。とかく固定化し固着してしまいがちな、その複雑系をいかにハックし、新しい出会いや関係性をつくりだすことができるのか。暮らしや社会をDIYしていくという永続的でゴールのない実験。「コンヴィヴィアリティ」ということばを本プロジェクトほど的確に表しているものは今回の応募にはなかったと思う。
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Judge’s comment: Leonhard Bartolomeus(Artist collective ruangrupa & Gudskul Ekosistem)
今年のYouFab大賞受賞者について特筆すべきことの1つは、テクノロジーが主要な媒体としてほとんど関与していていないということです。彼らが応募した《PentaKLabs》は「場所作り」プロジェクトであり、一般大衆、アーティスト、そしてその自然環境の3つの間を橋渡しするというアイデアを実現させています。Hysteriaは、技術の進歩よりもまず人間や環境のニーズに焦点を合わせることに注力しました。現地を訪問して人と話し一緒に時を過ごすというフィールドワークを行うことで、イシューを集め、それをアーティストが現地の人たちと一緒に育て上げられるようにします。《PentaKLabs》は、単に介入するだけでなく、人々がアーティストの知識をハッキングしたり、逆にアーティストが人々の知識をハッキングしたりすることができるようにします。それが将来双方にとって役に立つようになればとの期待を込めて。テクノロジーデバイスはありませんが、その共有性やコミュニティエンゲージメントの実践をコンヴィヴィアリティ —・テクノロジーと見なすことができます。これは今後数年間注力すべきテーマであり、その上で私たちは、人類とその環境を再び結びつける授かり物としてのテクノロジーの活用に努める必要があると考えます。
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Judge’s comment: 林千晶(株式会社ロフトワーク 代表取締役)
バイオ好き人間が、去年の夏、インドネシアの面白そうなところに行っていた。決して裕福なエリアではない。でもお金の有無に関わらず、「この地域を変えてやる」という前向きなエネルギーが集まり、Fab、バイオ、演劇などに亘り、前衛的な活動を興していた。「こういう場所が、次の時代の中心になるのかもしれない」と思った。その場所が今年のグランドプライズだと気がついたのは、受賞が決まった後のことだ。
受賞作品が、バイオやFabの先端を感じさせる「もの」ではなくなり、活動そのものを司る「こと」になったのも、「欧米」ではなくなり「アジア」に変わったのも、偶然ではないのかもしれない。そんな予感をさせる作品だった。 -
Judge’s comment: 松村圭一郎(岡山大学文学部准教授 / 文化人類学者)
何のためにテクノロジーを使い、アート作品をつくるのか、根底から考えさせられる活動だ。そこには完成形としての「作品」も「商品」もない。モノをつくることがゴールではないからだ。彼らが向き合うのは、洪水や水問題などに悩む人びとの暮らしそのもの。コンヴィヴィアリティは、問題の解決を大きな制度や権力に委ねるのではなく、自分たちの手で解決しようと模索するなかでその潜在力を発揮させる。彼らは、人びととともにエスノグラフィックな調査を行い、その日々の実践的な知識を集め、アーティストたちが参加する場をつくりだす。学者や政府関係者も交えたシンポを行い、その知見を共有する。それはテクノロジーの「あたらしさ」に頼る作品づくりより、実質的に意味のある営みだ。人間の社会生活と切り離された技術はありえないのだから。彼らの活動は、人びとを巻き込み、自分たちでコンヴィヴィアルな場を創出し、問題に立ち向かう力が我々にあることを再確認させてくれる。
FIRST PRIZE
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Judge’s comment: 林千晶(株式会社ロフトワーク 代表取締役)
イスラエル在住のアーティストユニットが「エルサレムデザインウィーク」に向けて作ったものである。起点は、かつてハンセン病の治療院として使われ、今はテクノロジーやデザインを生み出すメディアセンターとして機能している「ハンセンハウス」。そこで働くアラブ人に焦点を当てた。従業員7人の写真に撮り、特殊に開発されたアルゴリズムで、471の円形に分解された軸に分解し、行き来する糸の重なりで表情を浮かび上がらせる。まさに「線のレシピ」だ。
東エルサレムにはアラブ人(あるいはパレスチナ人と呼ぼうか)が多く住む。イスラエルにおけるユダヤ人とアラブ人の葛藤と協調に思いを馳せずにはいられない作品だ。
SPECIAL PRIZE
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Judge’s comment: 福田 敏也(博報堂フェロー/Chief Creative x Technology Officer/大阪芸術大学デザイン学科教授/株式会社トリプルセブン・クリエイティブストラテジーズ代表取締役/FabCafe 共同設立者)
自分たちは、自分たちのこころの内側にある「立つ」の既成概念に縛られる。無意識のうちに。自分を縛る既成概念にからめとられて、狭い範囲の思考を繰り返してしまう。「Stand/立つ」とは何なのか?本当に新しいものをつくりたいなら、その意味の本質と向きあわなきゃいけない。既成概念の壁をぶち壊して自由にならなきゃいけない。こうした作品の作者から、将来、どんなイノベーションが生まれてくるのか、大いに期待される。
SPECIAL PRIZE
SPECIAL PRIZE
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Judge’s comment: 近森基(株式会社プラプラックス代表取締役)
この作品の構成要素であるゾートロープやグラスハープ、そして影絵。それらは決して最新のテクノロジーではないかもしれないが、この作品はテクノロジーの進化の過程で枝分かれしたもう一つの可能性を垣間見せてくれる。それはもはや、スチームパンクと言っても良いだろう。それはさらに作家自身が発見したローカルな日常のコンテキストがベースとなっていることで、技術とイメージが一つの物語の中に巧みに編み込まれている。
一見すると、ガラスのコップという誰もが手にしたことのある日常の道具に光が当たっているだけのように見える状況は、我々のまわりは実は常に小さな発見に満ちているということを示唆してくれている。その小さな気づきが、新たな可能性を広げる枝となって広がっていくことを期待したい。
STUDENT PRIZE
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Judge’s comment: 松村圭一郎(岡山大学文学部准教授 / 文化人類学者)
誰もが街に緑を増やす戦いのゲリラ兵になれる。このかわいいパッケージの「爆弾」をポケットにしのばせ、大都市の空き地やコンクリートの隙間に種の爆弾を投下する。そんな自分の姿を想像すると、わくわくしてくる。これみよがしのハイテクも、近未来的な世界観を装うプレゼンも、もうお腹いっぱいだ。この作品は、ちょっとしたアイディアとデザインのセンス、それにひかえめなテクノロジーも偲ばせながら、手にする人の心を動かし、みずからの手でほんの少し街を変えられるという希望を抱かせてくれる。それは、この作品の完成(街に緑を増やす)が、手にする人に委ねられているからだ。アートも、テクノロジーも、芸術家や技術者の専有物ではない。アートやテクノロジーを豊かなものにするプロセスに、鑑賞者や消費者が楽しみながら参画する。そして自分とその周囲の人たちの経験世界を拡張していく。それがコンヴィヴィアルな世界をつくりだすのだ。
GENERAL PRIZE
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Judge’s comment: Leonhard Bartolomeus(Artist collective ruangrupa & Gudskul Ekosistem)
Jungle of Nusa"は、独自の楽しい特性を持っています。オブジェのインスタレーションですが、それと同時に、都市のインフラストラクチャにインターベンションするようなスペースを作り出します。元々のコンセプトそのものが「ジャングル」を再現する、ということです。ジャングルは都会の日常生活、特に制作者の住む都市では見られないものですが、この態度は緑の森作りという形に直接変わるのではなく、その代わり、コンクリートブロックや鉄骨の骨組が急速に広がるなか、人々が互いに交流し合えるジャングルという共有スペースを持つとはどういうことなのかを新たに想像してもらう、という形となります。PVC素材を選択することで、マレーシアの人々の生活を通じて馴染み深い雰囲気をもたらすようにしています。マレーシアではPVCパイプが素材として一般に広く使われているからです。PVCは強い耐久性を備えていますので、さまざまなスペースにプロジェクトを柔軟に設置することができます。さらに他の人がこれを自分で構築したり再構築する可能性も開けますので、オープンソースの価値観も生み出しています。コンヴィヴィアリティ —というコンテキストに関していうと、このプロジェクトは人々をつなぐというアイデアをもたらしました。このプロジェクトにより、人々はインタラクティブ・サウンドを通して話したり遊んだりできるのです。こうしたインタラクションやコラボレーションの価値を持つことが重要な側面として際立ったことが、"Jungle of Nusa"受賞の理由となりました。