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明暗のある街・難波を詩に
昨今、街はどんどん明るさを増しています。明るさとはもちろん光源の多さ強さだけではありません。なにか自分にとって未知なもの、他者を前にしたときの態度にもそれは表れていると感じています。すぐにつかめないものを前にしたときに、わたしたちはつい、その不明瞭さを切り捨てながら、何でも「わかる」の範疇に収めようとしてしまいます。それでいいのでしょうか。いいはずがありません。他者と生きることのうちには、わからないものををわからないまま受け止めようとするネガティブケイパビリティが必要です。そして詩こそ、そのネガティブケイパビリティが必要とされる領域であると思います。言語という思考と深く結びついたものを用いて、わたしたちは詩を書く。そのとき、わかろうとする焦慮と、本当はわかってはいないのかもしれないという謙虚さがせめぎ合います。そうして詩人は詩を書き継いでいきます。今回のプログラムは、難波という街で繰り広げられます。難波は陰影をのある街です。大通りを歩いていてここは明るいのか、と思えば、一本路地へと入れば暗さへとアクセスすることもできます。この明と暗の共存する街が難波であると思います。この詩的な街を訪れたひとたちとともに一編の詩を書くことで、難波という明暗の狭間に凹凸を、ざらつきを浮き上がらせ、街の表面積を殖やしたいと考えています。