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FDM(熱溶解積層法)式3Dプリンターは扱いが簡単で安価なことから、広く普及しています。
しかし、綺麗に出力しようとすると長い時間がかかりながら、積層痕が残るため後処理が必要だったり、時には途中で断層ができて失敗したりと、出力したものが美観も備えた商品としてそのまま成り立つほどの生産性は、まだありません。
本プロジェクトではその未完成な出力状態を逆手に取り、綺麗さよりも短時間を優先した設定で粗めに出力したオブジェクトにパテ盛り+研磨を施すことで、断層や積層痕を均しています。
この作業は一般的には塗装の下地として使われる工程ですが、本プロジェクトではフィラメントとパテの積層から削り出されるその偶発的な色と柄を、工芸品のような表情として肯定的に捉え、仕上げとしました。

工芸品の中でも、市井の人々が使うごく当たり前で安価な品を、朝市に立つ商人たちは「下手物(げてもの)」と呼んでいました。
美の対象として顧みられることのなかったそれら下手物のなかに、素材や手仕事に根付いたアノニマスで素朴な美を発見し、それこそが本来の工芸品の美のあり方であるべき、と説いたのが柳宗理らの民藝運動でした。
本プロジェクトは、3Dデータから世界中どこでも同じものを出力できるデジタルファブリケーションの市民的なあり方と、そこに個々人が手作業によって加工をほどこすことで生まれる1点物の工芸品の価値を掛け合わせた、「未来の民芸」となり得る表現手法と考え、gete(げて)と名付けました。

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