変容する結婚指輪

この指輪は、変わりゆく関係に寄り添うために生まれました。
結婚指輪は古代ローマの契約文化に由来し、日本では明治以降、西洋的な「永遠の愛」の象徴として定着しました。
しかしそれ以前の日本では、三三九度や贈答といった儀礼を通して、形式に縛られない“心の結び”が交わされていたのです。
現代を生きる私たちが、もう一度見つめ直すべきなのは、こうした柔らかく、解釈の余地を残した関係性なのかもしれません。
いま、3組に1組が離婚すると言われ、同性婚の議論や性の多様性も進む中で、家族や愛のかたちは確実に変わりつつあります。
にもかかわらず、私たちはいまだに「結婚＝永続的で不変な関係」であるという前提に、どこか無自覚に従ってはいないでしょうか？
この作品は、そうした社会的な前提に対して、もう一つの視点＝“変化する関係の肯定”という選択肢を差し出します。
この指輪は、陶器やガラスといった繊細で、変化を受け入れる素材でつくられています。
関係が変化したときには、指輪を割り、金継ぎや異素材によって新たな姿へと再構築されます。
「壊れること」さえも、関係性の一部として受け入れる行為。それは、個人の記憶や物語を受けとめる、新しいかたちの儀式であり、次へのステップを助長します。
本作は、量産を前提としたプロダクトデザインではなく、一人ひとりの人生の揺らぎに応答するプロダクトアートとして制作しました。
均質性ではなく、不均質であっても美しいという思想。それが、この指輪の本質です。
変わってゆく愛に、あなたはどんなかたちを与えますか？
この指輪は、無意識に受け入れていた“愛のかたち”を、そっと問い直すための装置です。

この指輪は「関係の変化を受け入れる柔軟性」を可視化するプロダクトです。
素材には陶器やガラスといった壊れやすさを内包したものを用い、関係の不確実性や一過性を象徴的に示します。
従来、指輪は「永遠」や「不変」の象徴とされてきましたが、本作ではむしろ壊れることを許容する設計とし、「割る・壊れる・直す」といった行為のなかに柔軟性を宿します。
さらに、壊れた指輪を修復・再構成するプロセスは、素材的にも思想的にも二次的な柔軟性を含み、関係の再定義や自己との向き合いに新たな視点をもたらします。
技術面では、金継ぎや異素材の補填（レジン等）を通じて、新たなかたちとして機能を持たせ直すことで、一度終わった関係の記憶を肯定的に再解釈する柔軟性を提示しています。