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おわりははじまり編集室──尾張から「物語」を紡ごう

おわりは、はじまり。喪失には痛みを伴うが、それは未来に向けたはじまりでもある。編集者である私は個人的な危機感を持って、戦後80年の夏を迎えた。

尾張地域には、岐阜から愛知県にかけて木曽川流域に広がる日本有数の毛織物産地「尾州ウール」産地がある。かつてノコギリ屋根の工場から機織りの音が鳴り響き、地域を支える産業として栄えた。明治生まれで毛織物工場主であった曽祖父・小崎庄太郎は、先の大戦に向けて戦時動員が進み高揚する社会のなかで、1944年に佐屋町(愛知県愛西市)で国産ウール生産の会社を設立し、時代の波を受けて3代で幕を閉じた。すでに廃業から約40年経ち、親族にはその全容を語れる人はおらず、断片的な記憶が漂うだけだ。いまこそ記録を残すべき時だと思う。

会社や産業の歴史、曽祖父の創業ストーリーを掘り起こすなかで、忘れられていた、あるいは語られず消えていった歴史の断片を掬い上げていく。ファミリーヒストリーの糸を手繰り寄せながら、消えていった「産地の記憶」を紡ぐプロジェクト。文献調査やヒアリングなど、探究活動の過程をオープンにして、次世代に語り継ぐべき物語を再構築したい。棚展示やワークショップなどを通じて、フィードバックを受けながら短編動画にまとめる予定。

斜陽産業と言われながらも、尾州ウール産地では後継の経営者となる「アトツギ」たちが奮闘している。私は、かつてあったけれど今は「ない」ものを受け継ぎ、尾張(おわり)の地に何が残せるのか問い直すことをはじめたい。

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