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Private Ad / Public Space ― 個人の広告が公共を占拠するとき

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現代の広告は、かつての一方向的な大量発信から、個々人に最適化されたターゲティング広告へと進化してきた。スマートフォンやSNSに表示される広告は、私たちの年齢や趣味、行動履歴に応じて緻密に調整され、まるで「自分のために作られた」かのような親密さをまとっている。しかし、その親密さは小さな個人端末の中に閉じ込められ、他者と共有されることはない。

《Private Ad / Public Space》は、この“閉じ込められた親密さ”を公共空間に解き放つ試みである。展示空間の大きなスクリーンは普段、意味を持たない抽象映像を映している。だが観客がスマートフォンからQRコード経由で情報を送信すると、その瞬間スクリーンは「その人専用の広告」へと変貌する。好きな食べ物や趣味、あるいは何気ない言葉が、生成AIによって鮮やかなCM風の演出とともに可視化され、巨大な公共ディスプレイを占拠するのだ。

本人にとっては、自分の断片的な情報が即座に広告へと変換される親密な応答として体験される。一方、周囲の他者にとっては、公共の空間が突然「誰か一人のための広告に私物化される」光景として立ち現れる。このとき観客は、自分や他者の情報が空間全体を揺さぶり、公共性そのものを変質させていく過程を目撃することになる。

さらに本プロジェクトは、初期段階では単一の入力による広告生成から始め、活動期間中には複数人の入力が干渉し合い、広告同士が競合・混在する状況を展開していく。将来的には、会場に点在させたマイクで拾った観客の会話や断片的な発話をもとに広告を生成することも構想している。誰の言葉か分からない声が、ターゲティング広告の素材として即座に変換され、公共空間を占拠する。そのとき立ち現れるのは、情報の自発的な提供と無意識の漏出の境界が曖昧化する、より鋭い問いかけである。

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