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どの絶滅危惧空間を扱うのか(300文字以内)
「町会掲示板」を扱う。全国に295,838ある自治会・町内会が管理し、住宅地の辻やバス停脇に立つ、あの小さな掲示板だ。回覧板のLINE化と行政のデジタル化により、情報媒体としての役割は急速に失われつつある。機能が先に失われ、身体だけが残された空間である。
対象敷地は、東京都文京区・駕籠町会が管理する7基。うち4基がバス停前、1基が駕籠町小学校の門横、1基が駕籠町公園横、1基がマンション前に立つ。町会エリア内には小石川中等教育学校、広尾学園小石川中学校・高等学校、駕籠町小学校の3校があり、約2,000人の生徒が毎日この掲示板の前を通過している。提案先は駕籠町会、および同エリアの喫茶店3軒である。 -
なぜその絶滅危惧空間を扱うのか(600文字以内)
自治会・町内会等の加入率の平均は、2010年度の78.0%から2020年度の71.7%へ10年で6.3ポイント下がった。団体数は減っていないが、中身は細っている。
私が所属する文京区の小さな町会「駕籠町会」も、継続が危ぶまれている町会のひとつだ。戦後の設立時に国道17号沿いにあった商店街は消え、マンションが並ぶ。仕事を介した結びつきも失われ、賃貸が多く加入率は低い。稼働会員は全体の3〜4%。
それでも、ほどよいご近所付き合いは求められている。足りないのは意欲ではなく接点だ。世帯どうしは子どもを介して知り合ってきたが、その経路は細り、町会が見ていた子どもは駕籠町小の約300人だけだ。
町会活動のうち規約に掲げられる割合が最も高いのは住民相互の連絡で93%、掲示板はその中核にある。接点になる条件は揃っている。第一に、町会館のような専用施設には町会員以外は入れないが、掲示板は道に面してひらかれ、誰でも利用者になりうる。第二に、7基中5基が都営三田線千石駅から徒歩数分の範囲にあり、3校への通学経路の上に立つ。第三に、ガラス扉に鍵はかかっていないが、往来で開ける人はいない。通行人には差し出す口がない。第四に、掲出と撤去を担う会員がいる。第五に、3校・約2,000人が毎日この前を通る。町会の媒体で通う人に届くのは掲示板だけだ。場所はあり、担い手もいる。足りないのは、差し出す口と、差し出すものだけだ。 -
どのようにその絶滅危惧空間を変異させるのか(1200文字以内)
掲示板を、告知の場から「紹介の交換所」へ変異させる。
これまでの掲示板は町会から住民への一方向の媒体だった。鍵はかかっていないが、往来で扉を開ける人はいない。通行人には差し出す口がない。そこに口をつける。
【ミシルポスト】掲示板の外側の下辺に吊るす上下二段の薄い箱。ガラスにも枠にも穴を空けず、フックと結束バンドで掛けるだけ。上段は空のカードを差す渡す口、下段は書いたカードを入れる受け取る口。外せば原状に戻る。工事も許可も要らない。
【ミシルカード】ハガキ大、中央にミシン目。通し番号が刷ってある。一枚抜き、紹介できる「もの・こと・人」を書き、切って上を投函し、下の控えを持つ。名前は書かなくていい。取る、書く、切る、入れる。すべてひとりで完結し、会話も名乗りも要らない。人見知りのまま地縁に参加できる。
【ミシル番】掲出と撤去をしてきた近隣会員に、名前と役割を与え直す。投函されたカードに目を通し、週に一度並べる。不適切な投稿はここで止まる。3校から選ぶ学生ミシル番が組になる。
【ミシルカフェ】月に一度、決まった曜日と時刻に、エリア内の喫茶店3軒が持ち回りで開く。紹介した人も、掲示を見て気になった人も来る。差し出す人だけを集めても受け取る人がいなければ交換は起きないため、入場資格は設けない。名乗る必要もない。「12番の人が紹介したいことが気になった」といえば、匿名のまま特定の一人を指せる。話題は初めから掲示板にあり、初対面の沈黙が起きない。中高生が単独で参加するため、開催は営業中の店内に限り、学校とPTAに共有してミシル番が同席する。
【交換されるもの】紹介する側とされる側は固定されず、同じ人が日によってどちらにもなる。差し出されるのは「ここに何があったか」「誰が何をできるか」「いま外で何が起きているか」。エリア内の3校・約2,000人は毎日この道を使うが住んでいない。人は交差しながら、知識だけが交差しなかった。交換は通う人との間に限らず、隣家どうしでも同じだ。町会の媒体のうち通う人に届くのは掲示板だけだ。回覧板は会員の家を回り、会館には会員しか入れない。加入も会費も当番も求めない。この街に毎日通う事実だけで、すでに関係人口である。中学・高校の総合的な学習/探究の時間の教材にもなり、各校の学生ミシル番が運営に加わる。
剥がしたカードを綴じれば、町会が持たなかった台帳になる。実装は1基。千石駅の出入口脇の1基に吊るし、3か月試し7基へ広げる。初期費用は箱とカードの印刷のみで、区の加入促進事業補助金の対象にもなりうる。全国の自治会・町内会等は295,838団体。掲示板の設置数を集計した統計はなく、まだ誰も数えていない空間である。ミシルは制度と一部品だけで構成され、届いた箱を掛けるだけで複製できる。
見知らぬ人を、見知った人に。地縁というインフラを、次の社会仕様へ更新することである。
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ミシル|MISHIRU ── 見知らぬ人を、見知った人に
全国に295,838ある町会・自治会が管理する掲示板を、告知の場から「紹介の交換所」へ変異させる計画。掲示板の下辺に小さな箱を吊るし、番号入りのカードに紹介できる「もの・こと・人」を書いて投函する。名前は要らない。掲示を見て気になった人は、決まった日時に近所の喫茶店へ行き、「12番の人が紹介したいことが気になった」といえばいい。工事も許可も名乗りも不要な、地域インフラの更新案。
