-
どの絶滅危惧空間を扱うのか(300文字以内)
扱う絶滅危惧空間は、公衆電話ボックスである。携帯電話の普及などにより、その機能と存在感は失われつつある一方で、現在その一部は通信用・電源用の既存配管や引き込みルートを共有・拡張する形で、『TOKYO FREE Wi-Fi』などのフリーWi-Fiのアクセスポイントとして再利用されている。本提案では、通話のための小さな閉鎖空間から、街に開かれた無線通信の拠点へと反転しつつある公衆電話ボックスを対象とする。
-
なぜその絶滅危惧空間を扱うのか(600文字以内)
公衆電話ボックスに着目した理由は、それが「閉じた空間」と「開かれた通信」を同時に持つ装置だからである。公共空間に置かれた透明な箱でありながら、内部ではひとりの利用者が特定の誰かへ接続する。外から見えることと内側で閉じられることが、ひとつの空間の中に同居している。
現在、その一部はフリーWi-Fiのアクセスポイントとして再利用されている。特定の相手へ接続するための空間が、誰でもアクセスできるようにみえる無線通信の拠点へと反転していることに、現代の通信が私たちに内面化させた「開くこと」と「閉じること」の両義性が表れているように感じた。
通信は「誰とでも、どこからでも」つながれるものとして感じられやすい。しかし実際には、無線通信やオンラインサービスは、電波環境、インフラ、国家や地域ごとの制度、プラットフォームの制御に大きく依存している。場所から解放されたように見える通信は、むしろ見えにくいかたちで場所や権力に結びついている。その透明化された依存関係は、決して中立的なものではない。
その意味でも公衆電話ボックスは、通信が本来持っている場所性や境界を考えるための象徴的な空間であると考える。本プロジェクトでは、この空間を再反転させることで、透明化した通信環境の背後にある場所、制度、身体の存在を可視化したい。 -
どのようにその絶滅危惧空間を変異させるのか(1200文字以内)
《ホッピングコールプロジェクト》は、公衆電話ボックスを「遠くへ声を届ける装置」から、その場所でしか接続できないローカル通信空間へ変異させる提案である。
電話ボックス内には、ローカルWi-Fi化したRaspberry Piと照明制御を組み込む。コンピュータ内にはキャプティブポータルとWebアプリケーションを格納し、来場者はスマートフォンで電話ボックス内のWi-Fiに接続する。しかしそのWi-Fiは、インターネットへ自由に出ていくためのものではなく、ボックス内部に閉じたWebサイトへ体験者を誘導する。
Webサイトは、ハイパーリンク構造を持つ断片的なテキストによって構成される。体験者は、言葉から言葉へリンクをホップするように読み進めるが、その移動は完全に自由なものではなく、履歴や分岐、到達点によって制御され、やがて接続の終わりへ向かう。ページの遷移や特定の言葉への到達に合わせて電話ボックス内の光が点灯・点滅することで、体験者の意識はスマートフォンの画面から電話ボックスの内部、さらに外部の公共空間へと引き戻される。公共空間、電話ボックス、スマートフォン、Webサイトという複数のレイヤーを反復横跳びするような体験の中で、鑑賞者は「開かれているのか、閉じられているのか」が一義的に決まらない状態に置かれる。通信は透明なインフラではなく、光、距離、遅れ、切断として身体化される。
また、電話ボックスが透明な箱であることにより、鑑賞行為そのものが外部へ露出する。中でスマートフォンを操作する人、Webと同期して明滅する光、その場にとどまり続ける身体は、外から見るとひとつのパフォーマンスのように立ち上がる。体験者は作品を見ているだけでなく、公共空間の中で見られる存在にもなる。
実装面では、Raspberry Piによるローカルサーバー、Wi-Fiアクセスポイント、Webアプリケーション、照明制御で構成できるため、既存の電話ボックスや電話スペースへ比較的低コストかつ可逆的に導入できる。電話機や本来の通話機能を撤去するのではなく、既存の用途を残したまま別の通信体験を重ねられることも、本プロジェクトにおいて重要である。また、Webの構造や格納されるテキストは固定された完成形ではなく、場所ごとの記憶、地域の言葉、アーティストによる作品、災害時のローカル情報などに応じて更新できる。本プロジェクトでは、多様な知見や対話を取り込みながら、電話ボックスを都市に点在する小さなメディア空間として展開していくことを目指す。
本提案は、公衆電話ボックスを懐かしい遺物として保存するのではなく、現代の通信環境を問い直すための装置へと変異させる。どこでもつながれるように感じられる時代に、あえて「その場所に入らなければつながれない」体験をつくることで、通信の背後にある場所性、境界、公共性、私性を立ち上げることを試みる。
- 33
ホッピングコールプロジェクト
本プロジェクトは、私がギャラリーで発表した作品《ホッピングコール》を起点に、公衆電話ボックスを、その場所でしか接続できないローカル通信空間へと変異させるプロジェクトである。かつて電話ボックスが持っていた「閉じた空間から特定の誰かと通信する」という性質と、現在の無線通信がもたらす「誰とでもどこからでもつながれるかのような感覚」を重ね合わせ、現代の通信における「開くこと」と「閉じること」の両義性を、身体性を伴う体験として立ち上げる。
