-
どの絶滅危惧空間を扱うのか(300文字以内)
本提案が扱うのは、携帯電話の普及によって役割を失い、街から姿を消しつつある日本の電話ボックスである。駅前や繁華街、観光地など、人が行き交う場所に残る小さなガラス空間を対象とする。電話ボックスには、都市に点在する立地、電源・通信環境、雨風を防ぐ外殻、そして誰もが一時的に一人になれる公共性が残されている。遠くの誰かとつながるためにつくられた通信空間を、次世代の没入型コミュニケーション拠点へ変異させる。
-
なぜその絶滅危惧空間を扱うのか(600文字以内)
電話ボックスは、家庭や職場の外で、一人になって遠くの人と話すための公共空間だった。携帯電話によって通話は個人の手元へ移った一方、いまVRでは、現実とは異なる姿や名前を持ち、遠くの人と同じ空間を共有する新しいコミュニケーションが広がっている。
VRSNSサービスのVRChatでは最大約15万人が同時接続しており、仮想空間で人と会う行為は大規模な文化になりつつある。平野啓一郎氏が提唱する「分人」とは、相手や環境との関係ごとに異なる人格が生まれ、そのどれもが本当の自分だという考え方である。VRのアバターも単なる仮装ではなく、その姿で他者と関係を重ねることで、新たな自分の一面が形づくられる。
だからこそ、仮想空間では別の自分として見られたい一方、ヘッドセットを着けて動く現実の身体や会話は見られたくない。自宅では家族の視線、外出先では安全や人目が障壁となり、別の自分として社会につながるための居場所はまだ乏しい。かつて声を守った電話ボックスを、今度は現実の身体を守りながら、別の自分として人と会う空間へ変異させる。 -
どのようにその絶滅危惧空間を変異させるのか(1200文字以内)
電話ボックスを、別の自分として仮想空間へ入る「PARALLAX BOX」へ変異させる。PARALLAXとは、見る位置によって対象の見え方が変わる「視差」を意味する。人もまた、関わる相手や環境によって異なる自分が立ち現れる。その複数性を受け入れ、別の自分へ安全に切り替わるための公共空間である。
利用者は入口のタッチパネルで利用時間を選び、電子決済で入室する。VRゴーグルやコントローラーは利用者自身の端末を使い、身体トラッカーや外部センサーはブース側に備える。ブースは通信、電源、空調、音響、センシング環境を提供する。
外観は、既存の電話ボックスが持つ縦長の輪郭、ガラス面、扉、屋根サインを継承しながら、「自分の見え方が切り替わる境界」として再構成する。過度に未来的な造形にはせず、電話ボックスだと認識できる親しみやすさと、公共設備としての安心感を残す。ガラスは空室時には内部が見え、利用開始と同時に、顔や上半身を覆う範囲が段階的に半透明へ変化する。足元と天井付近には透過性を残し、在室や転倒の有無だけを外から確認できる。ブースの外側に示すのは、利用中であることと接続状態だけであり、体験内容や個人情報は見せない。
内部から電話機と机を撤去し、身体を軽く預けられる腰掛け、手荷物棚、Wi-Fi、充電端子、空調吹き出し口を配置する。空間センシングにより、頭部、手、胴体、脚を含むフルボディトラッキングに対応する。自宅では設置が難しい複数センサーを最適な位置に固定することで、立ち方、身振り、距離感までを安定して仮想空間へ反映する。
PARALLAX BOXは将来、XRグラス、遠隔授業、バーチャルイベント、テレプレゼンスなど、現実とは異なる姿で他者と関係を結ぶ機会が広がったとき、その入口となる公共空間である。かつて電話ボックスが、遠くの誰かへ声を届ける場所だったように、これからは現実の身体を守りながら、別の自分として誰かに会いに行く場所へ変異する。
- 38
PARALLAX BOX
本提案は、役割を終えつつある電話ボックスを、現実の身体を守りながら「別の自分」として仮想空間へ接続する公共XRブース「PARALLAX BOX」へ変異させるものである。電話ボックスが持つ「一人になれる公共空間」という性質を継承しつつ、通信・電源・空調・トラッキング環境を備えた没入空間へ再構成する。利用者は自身のVRゴーグルを装着して入室し、家族や周囲の視線を気にすることなく、安全に仮想空間で他者と交流できる。かつて遠くの誰かへ声を届けた電話ボックスは、これからは現実とは異なる姿で人とつながるための別の自分への入口となる。
