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どの絶滅危惧空間を扱うのか(300文字以内)
私たちは農業用水路に降りるための「階段」を取り上げ、DDの絶滅危惧空間として扱う。農業用水路は田に付随して存在しており、この水路には、その維持管理を人間が行うための階段が設置されている。
これまで、水田と住宅地が共存する地域である、岡山県岡山市中区湯迫地区の調査を行った結果、「用水路へと降りる階段」は位置、機能、構造、素材、形状が現在までの半世紀に変化し続けていることがわかった。
今後半世紀の間にこれらの用水路と階段は現在の機能を失い、絶滅危惧空間になると考えられるが、位置や現状は今だ研究されておらず、その空間の評価のためのデータが不足していると言えるため、この空間をDDである言える。 -
なぜその絶滅危惧空間を扱うのか(600文字以内)
今回取り上げる「用水路へと降りる階段」は用水路が単に水を水田に運ぶ機能だけではなく、人々の生活、文化、自然環境を支える機能を持っていたことを示す空間である。しかし、現在耕地面積が減少している日本において、水田に水を運ぶために整備されている農業用水路の機能はさらに不要になると同時に、用水路の維持管理を行う農家コミュニティも衰退すると予測される。
これまでの実地調査、文献調査から「階段の本来の用水路との接続という機能が失われ、空間だけが取り残されている事例」を発見した。ここから、私たちは今後半世紀で、機能がなくなり、空間だけが残される用水路と用水路へと降りる階段は日本各地に発生する。
それにも関わらず、この空間について研究はされておらず、所在位置や機能、現状の構造、素材、形状、大きさ、周辺環境との関わりについての情報は十分とは言えない。そのため、この空間の研究を行い、評価を行えるようにし、今後の社会に合わせた新しい機能を付与するための提案をすることが必要であると考えた。
現在、使用されている用水路の水量は、その地域の農家コミュニティが稲の生育に合わせ水門を開閉することによって調整されている。さらに、用水路の水流を妨げる藻が繁茂する時期には、用水路の水流を早めるために地域の人々によって藻刈りが行われるなど、農家以外の人々も巻き込んだ文化にも繋がっている。また、調査から、用水路の空間は人間だけでなく、他の生物との関係性も生み出しており、用水路には、メダカ、アユモドキ、タニシ、などが流れの穏やかな水田と流れの速い用水路の間を移動しながら成長段階、環境に合わせて生息している。このように、用水路はその地域に住む(棲む)人間と他の生物と密接に関係している場所であると言える。 -
どのようにその絶滅危惧空間を変異させるのか(1200文字以内)
水田が耕作放棄地になり、用水路の機能が失われた半世紀先、用水路と階段は「機能を失った空間」として取り残される。かつてこの地域の生活や文化、自然環境と密接に結びつき、農業インフラという役割を果たしていたこの空間は、いわば「絶滅危惧空間」となる。
しかし、この空間は住宅と道路の間に帯状に連続し、各戸から階段でアクセスできるという、他のインフラにはない「人々の生活への近さ」という特徴を持つ空間である。水がなくなった後もこの特性を活かせば、用水路を単なる遺構ではなく、地域コミュニティを支える生活基盤へと変異させることができる。
変異の方法として、私たちは歩行路としての転用を考えた。半世紀先の日本では高齢化と人口減少がさらに進み、この変化は地方都市においてより顕著になると考えられる。現在の対象地域では、用水路沿いに加えて山側にも住宅が分布しているが、人口が減少した際には、道路・用水路の跡地に面した土地にのみ住宅が集まっていくと考えられる。
この状況において、かつて水を流すために緩やかな勾配で設計された水路は、高低差の少ない歩行動線として応用することが有効である。地区内を移動する際に車道を歩かずに済むため、高齢者や子どもにとって安全な移動経路となる。さらに、一般的な歩道よりもゆとりのある幅を持つ用水路は、井戸端会議の場としても活用できる。深さ約1.5mの掘り込み構造は風を遮り、道路からの視線も適度に遮断するため、心理的に落ち着いて立ち話ができる半屋外空間を生み出す。各戸の階段が独立した出入口として機能することで、住民は自宅から数歩で「公共」と「私有」の中間領域にアクセスでき、偶発的な立ち話や見守りが自然発生しやすい構造になる。
このように、用水路の消滅は農業インフラの終焉であると同時に、地区内の住民を密接につなげる、囲われた空間性を残す「変異可能な余白」の誕生でもある。機能を失った空間を撤去・埋没させるのではなく、既存の物理構造をそのまま転用することで、低コストかつ持続的にコミュニティ機能を再生できる点に、この変異の社会実装上の価値がある。
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