-
どの絶滅危惧空間を扱うのか(300文字以内)
廃業したガソリンスタンド(廃GS)を扱う。全国に約2.8万箇所存在し、EVシフト・後継者不足・設備老朽化により今後も年間約500箇所が廃業し続ける空間種である。タンク廃止処理費・土壌汚染除去費が売却価格を上回るケースも多く、フェンスで囲われたまま放置されるケースが後を絶たない。提案先は廃業を迎えるGSオーナーと、補助金・研究費を通じて関与する行政・大学研究機関を想定する。廃業を迎えるオーナーに対し、「よりよい終わらせ方」とその先の空間的未来を提示する。
-
なぜその絶滅危惧空間を扱うのか(600文字以内)
石油系炭化水素による汚染土壌は、植物の根圏微生物によるファイトレメディエーション(植物浄化)の格好のフィールドになる。ファイトレメディエーションとは、植物の根が分泌する有機物によって根圏微生物を活性化し、その微生物が汚染物質を分解する手法で、植物が直接汚染を吸収するのではなく、根の周囲の生態系が浄化を担う。屋外での長期実証データはまだ少なく、研究フィールドが不足している。廃GSは汚染物質がほぼ石油系炭化水素に限定されており、実験条件が整えやすい。全国2.8万箇所という均質な分布は、気候・土壌・地下水条件が異なる複数地点での比較データを同時に取得できる、他に類を見ない実証フィールドのネットワークになり得る。
立地のポテンシャルも大きい。廃GSは道路沿いの交通結節点に点在しており、地上高4〜5mの大屋根による広い半屋外空間・既存店舗棟の内部空間・水栓・排水・電源設備など、造園的介入のみで転用できるインフラを既に持っている。確認申請不要の範囲で段階的に始められる軽さが、このプロジェクトの持続可能性を支えている。またパススルー動線が「給油のような地域参加」を誘発する空間的条件になる。さらに、標準化された空間スペックが全国に均質に分布することで、1箇所で開発した手法をそのまま横展開できる。 -
どのようにその絶滅危惧空間を変異させるのか(1200文字以内)
廃業方法に膨大なコストがかかり、転用も難しい廃GSの多くが、死んだインフラとしてそのまま都市に点在し続けている。このプロジェクトは廃業が決まった段階から介入し、終わらせ方そのものを設計する。タンクは廃止処理(内部洗浄・砂充填)を行い、掘り起こさずに残す。土壌調査費は補助金を活用して最小化する。大学研究機関がサテライトラボとして参画し、土壌調査から浄化モニタリングまでの技術基盤を担う。土地オーナーが「場所を提供する」、研究機関が「回復を記録する技術を持つ」、運営者が「その先の場を設計する」。この三者の役割分担がプロジェクトの骨格になる。土壌調査の結果が汚染マップを生み、そのマップが平面図を決める。設計者が形を決めるのではなく、土壌の状態が設計を決める。
浄化植物の根の水平距離が届くように幅1500mmを残して汚染エリアの既存RCをはつり、土壌をあらわす。車のパススルー動線と作業コアとなる給油島は残す。グリッド状にはつることで、効果的な浄化フィールドとエリアごとの実験対応を両立させる。露出した土壌にライグラス・アルファルファ・ヒマワリ・ポプラ・ヤナギを混植する。植物の根が分泌する有機物によって根圏微生物が活性化し、石油系炭化水素がゆっくりと分解されていく。地域ごとの石種から選んだ巨石がミネラルを土に溶出し、土中環境をさらに豊かにする。浄化植物エリアには石場建の仮設床を設置し、植物と人の居場所を軽やかに共存させる。
地面に接続したコルテン鋼コンポストの底面から浸出する液体が根圏微生物をさらに活性化する。地上で住民が生ごみ・珈琲かすを投入する行為と、地下で微生物が汚染を分解するプロセスが、コンポストの底面で繋がっている。この場所で育った土・苗・ポッドが地域に配布され、植物や土壌、循環のカルチャーが広がっていく。
このモデルが1箇所で機能し始めたら、道路沿いに点在する廃GSへとネットワークが広がる。各サイトを汚染度・タンク状態・立地条件で診断し、それぞれに最適な回復プロセスを実装していく。蓄積された実証データが次のサイトの設計精度を高める。浄化されながら使われ、使われながら浄化されていく。そういうインフラとして、廃GSを都市に再適合させる。
人口減少・産業縮小が進む日本では、ブラウンフィールドの急増は避けられない。廃GSという空間種の回復が、国土を緑豊かに戻すための最初の起点になる。ガソリンスタンドの道路沿いの点在立地が、日本全土の回復ネットワークの骨格になる。
- 27
GRASS STAND ー植物浄化を起点としたインフラ継承のデザインー
土壌汚染によって死んだインフラとなる廃業ガソリンスタンドを、植物浄化(ファイトレメディエーション)と地域の土壌循環の拠点へと醸成する。浄化されながら使われ、使われながら浄化されていく新しいインフラが、日本全土の土壌回復ネットワークの骨格になる。
