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淡き蜜月

黒揚羽蝶の化身は 少女への想いを 素直に ありのままに伝えた
その飾らない言葉を聞くうち 少女は心を開き 哀れな蝶にほのかな愛情さえ感じ始めていた
「解りました 貴方の最期の時まで 一緒に居ましょう」

それから半月余りの時を 二人は 寄り添い過ごす
秋も深まり 月は冴え 野のススキも枯れて行く
最期の時を覚えた蝶は 眠る少女を残し 野に還る決心をする
屍を 少女の目に晒したくはなかった

「さようなら 短い間でも 私はとても幸せでした
黄泉の国で いつか再会出来る事を信じて居ます
そのためにも あなたの薫りを 決して忘れません」

翌朝 少女が眼を覚ますと 既に蝶の姿はなかった
少女は泣く泣く 野を彷徨ったが 蝶の姿も 亡骸も 見つける事はかなわなかった
黒い蝶のために 少女は野に小さな墓標をたてた

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