「なんばで正々堂々とちょける!」を合言葉に、公共空間の使いこなし方を考える
大阪・なんばの街に新しいエンターテインメントを生み出していくことを目指す、レジデンスプログラムChokett(チョケット)。通りすがりに誰でもDJになれる遊び、落語、ストリートスナップなど公募参加のクリエイターとともに活動した。2023年11月〜2024年2月の約3ヶ月、トライアンドエラーを繰り返しながらさまざまな実験を行ってきた。その振り返るトークイベントを2024年2月10日に実施。公共空間を上手く使ったり、面白いクリエイターを集めている実践者と一緒に、公共空間のクリエイティブな使い方やこれからのChokettの可能性について考えてみた。
ゲスト登壇者:
飯石藍 氏(公共R不動産 コーディネーター)
泉英明 氏(有限会社ハートビートプラン 都市プランナー)
トミモトリエ 氏(メディア「ヘンとネン」編集長/株式会社人間)
モデレーター:
福井良佑 氏(南海電気鉄道株式会社 まち共創本部 グレーターなんば創造部)
取材・文:小倉ちあき
写真:山元裕人
第1期、終了。お疲れさまでした! 屋外こたつで振り返りトークイベント
福井良佑(以降、福井):「街のオープンスペースを使いこなしてみると、街歩きがきっと楽しくなる、はず!」という仮説のもとに始まったChokett(チョケット)。さまざまなクリエイターの方が、約半年間この場所に関わってくださいました。
ちなみに今日のトークイベントの舞台は、屋外こたつ! 1期公募のクリエイター「流しのこたつ」さんによる企画です。トークイベント横のスペースで寝転がってトークを聞いている人がいますが、これも公募クリエイターによる「寝ころ場」という企画です。カーニバルモールのような人通りの多い場所で、こういうフリーな空間が作れるのは新鮮な体験ですね。
それでは、早速今日のゲストを紹介していきますね。
左から、トミモトリエ氏、飯石藍氏、泉英明氏
飯石藍(以降、飯石):公共R不動産のコーディネーターを務めています。メディアの運営やリサーチなどを通じて、公共空間のあり方を探求する日々です。いかに一般に開けるか、について取り組んでいます。
泉英明(以降、泉):大阪を中心に、日本全国のまちなか再生に取り組んでいます。近くでは、2023年11月に完成したなんば広場の「改造計画」に、10年以上関わっています。
トミモトリエ(以降、トミモト):株式会社人間のディレクターで
、大阪の「人の面白さ」を多角的に紹介するWEBメディア「ヘンとネン」の編集長を務めています。約10年前に東京から移住して、大阪の人の面白さに魅了され続けています。
福井:そして、本日のファシリテーターを務める南海電気鉄道株式会社の福井です。Chokett事務局の一員です。
公共空間をどう開く? 実例から学ぶそのコツとは。
福井:「街を面白く使いこなす」がテーマのChokettに、プロの視点でヒントをお願いします。早速ですが、飯石さんは南池袋公園のリニューアルを手がけられていますが、公共空間(オープンスペース)を開くために、どのような仕掛けを心がけていますか?
飯石:マルシェやイベントなどを実施していますが、その時にはまず、街の人が自分の場所として思えるようにするには何が必要か?、そして公園内だけでなく公園横の道路も合わせてどう面白くするか?を軸に色々な企画を考えています。
嬉しかった事例としては、以前屋外スナックを企画した時、椅子だけしか準備していなかったにも関わらず、勝手にテーブルを造作して持ってきたおじさんが登場したことです(笑)
福井:参加者が積極的になってくれたり、街の人が自分ごとになってくれたりすることは、とても重要ですね。
飯石:ゴミ拾いとコーヒーをセットにした企画なんかもやっています。ゴミ拾いの後に参加者みんなでコーヒーを飲むという企画なのですが、いいコミュニケーションの場になっています。街なかでコーヒーを飲むためのきっかけとして、清掃があるという感じ。赤ちゃん連れから80歳のおばあちゃんまで参加してくださって、マーケットだけでは、出会えなかった層の人まで公園で出会えるようになりましたね。
福井:清掃はひとつのきっかけ。日常をどう開いていくかというのも大事な視点ですね。
飯石:それ以外にも、大切だと思っているのは、周囲とのミッションの共有です。南池袋公園の近所にあるカフェ会社も、街の人と何か仕掛けていきたいという考えを持っています。そのおかげで、街の人同士や農家さんの顔が見えるようなマーケットづくりやテラスとして場の提供など、一緒に作って育てる環境が生まれています。公園をみんなで使っていこうよという共通マインドで企画が始められたのもよかったと思います。
福井:公園単体だけではなく、道路や近隣の施設との共通意識も大切ですね。
泉さんが関わっている、なんば広場についても教えてください。
泉:なんばの中心地でありながらタクシーの待機場で占められていた車中心の駅前広場が、2023年に生まれ変わりました。今では開放的な空間になって、人が徒歩で自由に行き来できるようになっています。
法的には“広場”ではなく、“道路”の扱いなので、24時間警備員を置いて状況を見守っています。今後の活用方法の可能性を広げるために、社会実験を丁寧に行っている最中です。
福井:2022年までは、車道に囲まれて、一般の方が一切入れなかった場所でしたよね。ところが今は、ど真ん中で思い思いの過ごし方ができるようになりました。
泉:企画発足から数えると約15年。なんば広場って、2008年に地域の人から発案された企画で、私はそこに専門家として関わり出したのがきっかけなんです。地元の方々の執念で実現できたのだと思いますね。
福井:今回の「流しのこたつ」のように、Chokettで実験したことも、いつかなんば広場とも連携できたら盛り上がりそうですよね。ところでトミモトさんの活動は視点がまたユニークですよね。
トミモト:編集長を務めているWEBメディア「ヘンとネン」では、人にフォーカスしています。街で見つけたユニークな活動をしている人を取り上げています。例えば、野菜を無料で販売している人や納豆愛が強すぎる人とか……私たちはそういう人のことを「超生命体」と呼んでいるのですが(笑)、広報も兼ねて、大阪府下のさまざまなお店40店舗ほどに「超生命体ティッシュ」を置かせていただいています。
福井:めっちゃ面白いですね(笑)。ティッシュというのがまたいいですね。
トミモト:配りやすくて、受け取ってもらいやすい、というのがティッシュの良いところですね。ほかにも、「関西カレー保安協会」という自主企画もやっています。カレー屋の見回りみたいな活動なのですが、カレー屋は超生命体の集積地になっていることも多くて(笑)。大阪はスパイスカレーの聖地。カレーの食べ方に店独自ルールがあったり、他人の解説が必要だったりとアーティスト気質なカレー屋オーナーも多いんです。はみ出しまくり!みたいな、大阪人の面白さを感じますね。
10年ほど前に大阪に移住してから、大阪人は本当に面白いなと感じています。生まれた場所を間違えたなと思うくらいで、大阪に感謝しています(笑)
自由にはみ出せる、フリースタイルな大阪人っていいよね!
福井:あはは(笑)。ちなみに、大阪人の面白さってどんなところに感じますか?
トミモト:大阪人からは自由さを感じます。熱量が収まりきらずに、はみ出してしまうというか(笑)。そういう自然と溢れ出してしまった熱量が、街の中に充満している気がします。バズっていることが、SNSやネットで検索できないというか。街のあちこちの現場で、オフラインで密かに面白いことが起こっているというような感じがしています。
福井:なるほど。今回Chokettが実験の場として目指していたことにも近い気がしますね。自分が面白いと思えることを好き好きに発信できる、開かれた場というか。流しのこたつさんでいえば、オープンスペースにゲリラ的にこたつを置けたことで、街を観察するリサーチの機会になったとおっしゃっておられました。
飯石:大阪は、「いいやんいいやん、面白いやん!」と、受け入れてくれる風潮がありますね。東京に住んでいるので特にそう思います。
泉:大阪の人々は、“ここまでやっていい”の補助線は自分で引く感覚。引かれるのではなくて。大阪はいい意味で、ルールを超越するというか(笑)。 県外でこういう話をすると、「なんでそんなに自由なんですか?」って聞かれることもありますね。
飯石:そういう“はみ出し活動”を屋外で行われているからこそ、出合うことができますよね。それに接した時の違和感って、とても大切。そういう環境が、公共空間にも増えた方がいいと思っています。
泉:公園や広場でやろうとすると、公的な手続きが必要だったりするけれど、気軽にやりたければ、軒先を使えばいいかもしれないですしね。屋台でちょっとやってみる、というのもあり! 屋台そのものが額縁になって、より表現しやすくなる効能もあると思います。
トミモト:本当に。そういう“はみ出し活動”が、もっとあちこちで見られる街になったら楽しいですね。このカーニバルモールに来る時って、商業施設ということもあり、普段と違う服を着て、少し装って歩かなければいけないかなと思う時もありますが、今日は楽でしたね。自分を認めてくれそうな人がいるからと思うと安心してそのままで来られました。超生命体が出没する可能性があるかも!って(笑)
福井:そう感じてもらえる人に、一人でも多く来てもらいたいですね。Chokettがあるから、この街に来やすいと思われたらそれは本望です。
飯石:基本的に商業施設って、消費空間なので、目的を達成したら帰るだけになりがちです。でもちょっとした「装置」があれば、買い物がなくてもここに来ようと思えるかもしれない。ここで足を止めて、ただ佇んでいいんだと思ってもらえるような「装置」を、たくさん散りばめておくのがいいのかもしれませんね。それが例えば、通りに置かれたベンチだったり、Chokettみたいな場所だったりするんでしょうね。
泉:いいですね。なんば広場でもみんながここにいてもいいんだなと思えるサインを、工夫して作りたいと考えています。この場所にいたらあかんのじゃないか?と思われるのが一番良くない。国では2020年に、「ほこみち制度(歩行者利便増進道路)」という、賑わいのある道路空間を創出するために、道路に滞在することができる制度も誕生しています。うまく活用しながら、公共空間を上手く使っていけたらいいですよね。
福井:なんばはもっといい街になりそうですね。皆さんのお話を伺って、なんばの可能性として、人がもっと自由にはみ出していける場所というのがキーワードになると感じました。トークイベントを寝転がって見られる環境は、そこにあるのが面白いことなんだと改めて思えました。
トミモト:大阪の面白いことは現場で起こっています。それが隣の人に伝わり、また伝わり……そうして広がっていく。Chokettがまさにそういう機運を醸成する存在になればいいですね。
福井:Chokettはまだまだ始まったばかり。ちょけながら、実験を重ねながら、仕組みも仲間も育てていこうという段階です。皆さんもぜひ仲間になって、どうぞ一緒にはみ出しましょう。そして、面白がれる文化をなんばから発信していきましょう!