COMPETITION

Make it Yourself Project #01

“Make it Yourself” 第1回目は、デザインユニット・KULUSKA(クルスカ)の「旅するレザースリッパ」とのコラボレーションを実現しました。

募集終了 2015/05/11(月) - 2015/06/17(水)

STORY: 鎌倉からケニアへー世界を旅する魔法のスリッパ

鎌倉を中心に活躍するデザイナーと職人のユニット、KULUSKA(クルスカ)の藤本直紀さん・あやさん。ふたりがデザインを手がけたレザースリッパは「世界を旅する」特別なスリッパです。アフリカ大陸をはじめ世界や日本を旅し、ついにはアメリカのオバマ大統領の手元にも届きました。

なぜスリッパはオバマ大統領のもとに届いたのでしょうか? そもそも、スリッパが世界を旅するとはどういうことなのでしょう。

そこには、あらゆる人に向けてものづくり体験をひらこうとするKULUSKAの挑戦と、世界に広がるFabLab*のネットワーク、そして「オープンデザイン」との出会いがありました。わたしたちは、鎌倉にある緑に囲まれた一軒家のワークショップスペース「LIFE & CRAFTS LAB」におじゃまして、お話を伺いました。

ケニア、そしてホワイトハウスに届いたレザースリッパ

ある日、ケニアにあるFabLabからFabLab鎌倉に1通のメールが届きました。

現地の人々の仕事を創出するために、現地で手に入る革を使ったプロダクトを作りたい。そこで、KULUSKAがデザインした、レーザーカッターと手縫いで作るレザースリッパの展開図をクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)で提供してもらえないか、という相談でした。

直紀さん:当時、世界中のFabLabを旅していたイェンス・ディビックさんと鎌倉で出会っていました。彼から「鎌倉で素晴らしいスリッパを見た」と聞いたらしいんです。ケニアの人たちの役に立つなら、デザインデータをオープンにしてもいいよと伝えました。

(Photo by KULUSKA)

あやさん:彼らはスリッパのデータを改変してて「これを履くといつでもアフリカの大地が感じられる」というコンセプトで、底側にひびの模様を彫刻したサンダルを作ったんです。さらに、フリーソフトを使って現地の人が自由にサンダルのデザインを改変できる仕組みもつくりました。

現地の人が、現地の素材を使って、アイデアを形にできる。自分は旅をしていないけど、まるでスリッパのデータが旅をしているようだねって、二人で話しました。

DyvikDesign “Making Living Sharing – a FabLab world tour documentary

この話にはさらにサプライズがありました。

ケニアのFabLabメンバーらが、オバマ大統領の祖母、サラ・オバマにレザースリッパをプレゼントしたのです。スリッパの表にはオバマ大統領の顔が、底には、それをつくったAROFablabのロゴと共に original by KULUSKAの文字が刻まれていました。

そして2014年にホワイトハウスで開催された「White House Maker Faire」では、サラおばさんの顔がレーザー刻印されたクルスカのレザースリッパが、オバマ大統領に届けられたのです。

だれもが作り手になれる

KULUSKAのオープンデザインスリッパがうまれたきっかけは、福祉作業所で作るためのスリッパをデザインしたことでした。

直紀さんは障がいのあるなしに関わらず、だれでも簡単に革を裁断・接合ができるように製造工程を簡単にする方法を探していました。そこで、「FabLab鎌倉という場所にレーザーカッターというものがあるらしい」と訊き、訪れることに。

直紀さん:はじめはレーザーカッターでマーキングができればいいかなと思っていたけど、カットもできるし穴も開けられる。僕は、その頃まだアドビのソフトもパワーポイントも使ったことがなかったんだけど。手描きの型紙をスキャンすることから始めて、手仕事とレーザーカッターとの「ちょうどよさ」を探りながらデザインしました。

この出会いがきっかけとなり、直紀さんはデジタルソフトを、FabLab鎌倉のメンバーはクラフトをそれぞれ学び合いながらものづくりをはじめました。そうして生まれたのが、はじめに登場したレザースリッパや、ネジを止めるだけで作れるキーホルダーといったワークショップ・キットでした。

(Photo by KULUSKA)

世界を旅したスリッパ、今度は日本で

デザインにCCライセンス付与したことで、ケニアの人々が自由にものづくりをする機会につながったレザースリッパ。「日本でやってみたら、どんなものが生まれるんだろう?」そんな思いが、直紀さん・あやさんの心に湧いてきました。

そこで、今度は「旅するデザインーOpen Design Project」としてデザインデータをシェアし、ふたりが日本中を旅しながらワークショップを開催することに。鎌倉から始まり、仙台、広島、岡山、岐阜などさまざまな場所を訪れました。

基本的なワークショップの内容は、以下のとおり。

1. 参加者は事前にアプリで作りたいサイズのスリッパの展開図をダウンロードする

2. 自宅のパソコンでスリッパのデザインデータを改変する

3. ワークショップ当日、データを持込み会場でレーザーカットする4. 自分たちの手で加工などをし、縫い合わせる

直紀さん:デザインを考えることから当日開催することもあります。デジタルソフトを使うのが初めての参加者にはフリーソフトのINKSCAPEやAdobe Illustratorをおすすめしています。事前に参加者の方からの質問を受けながら、データを調整してもらうこともあります。

あやさん:地域にある素材をつかって地域のアイデアを生かしてつくることがベースにあります。そのため、作る人や作る人、場所によってつくるものの傾向も変わります。たとえば仙台で開催したワークショップでは、刺繍などの手仕事を加える人がいました。スタッズやレースなど、自前のパーツを使う人もいます。

ワークショップのおもしろいところは、参加者同士でインスピレーションを受けあい、作るものを変化させていくこと。オープンデザインの下では、相手をリスペクトするという前提で気持よくアイデアのやりとりができます。

(Photo by KULUSKA)

だれもが「ちょうどいいサイズ」をつくれるように

ふたりがユニットとして活動を始めたのは2006年。KULUSKAは「テーブルの上でお昼寝」という意味です。

直紀さんは服飾とレザークラフトの勉強を経て、ファッションショーや舞台美術などを手がけていました。あやさんはデザイナーとして広告、音楽、アパレルなどの世界で活動していました。

直紀さん:当時、まわりの人たちから「自分たちの身体にあっているもの」や「いまの気分、趣向に合わせたもの」がほしいという声を聞くことが多かったんです。マスプロダクトからは選べない、ひとりひとりの「あったらいいな」「ちょうどいい」に応えるために、オーダー・セミオーダーを受注するようになりました。

あやさん:私たちが作るのもいいけど、みんながつくれるようになったら? プロのデザイナーや職人の仕事はもちろん大事だけれど、自分で考えて自分で作れる人が増えたらおもしろいんじゃないかと思いました。私たちになにができるだろうと考えた答えが「みんなでつくる」でした。自分でつくると、物の成り立ちを知る機会にもなりますし、直すこともできるのでオススメです。

鎌倉でゆっくりものづくり

2008年、ふたりは地元の広島から上京。東京でたくさんの刺激を受けながらも、やがて拠点を鎌倉へと移します。

あやさん:少し前の時代までは、自分でつくることは「当たり前」だったと思います。つくりながら暮らすというスタイル。上京して、東京での生活は刺激もあって楽しいけれど、もっと自然が残る場所でつくり続けたい。鎌倉は海も山もあるし時間の流れが緩やかなので、ゆっくり考えてゆっくり作ることが自然にできると思いました。

直紀さん:人々のオープンさにも惹かれました。それに、個人でお店や事業をしている人も多くて刺激を受ける。そういった方々とチームを組んで活動できる環境もよかった。

オープンデザインで仕事を生み出す

2014年夏、今度はデータではなくKULUSKA自身がヨーロッパを歴訪しました。イタリアからフィンランド、ノルウェー、オランダ、ベルギーそしてスペインへ。各地のものづくりに触れたり、ワークショップを開催しながら旅をしました。オープンデザインをきっかけに、日本や世界の人々と一緒にものづくりをしたふたりは「こんなに世界が近いとは思わなかった」と振り返ります。

現在、KLUSKAは岡山県に準備を進めている「Green FabLab Tamashimaβ」の運営メンバーとして、鎌倉と岡山とを行き来しています。文字通り日々旅をしながらデザインすることになったふたりに、この先にやってみたいことを訊いてみました。

あやさん:手仕事とデジタルファブリケーション。自給自足とエネルギー。この、どちらかひとつだけを追求するのではなく、どちらも共に生きていくような取り組みをしていきたいと思っています。

これまで培ってきた「だれもが作れるようになるプロセス」を活かして、福祉作業所や地域の人々との共創などで地域に仕事を作りたいです。分かち合いながら、必要なところには対価が発生していく仕組みをつくれたらと思います。「フリー、無料」のイメージがあるオープンデザインが仕事になるって、ちょっとした革命ですよね。

直紀さん:みんながクリエイターになる必要はないかもしれないけど、創作意欲そのものは根源的に人の中にあるような気がします。これからも、作りたい人たちの背中をそっと押していきたい。

あやさん:誰もが本来もっている「つくる力」を支援できることは、私たちの喜びでもあります。あとは、オープンデザインを通じて生まれた膨大な数のスリッパが一同に会する展示会を開催したいですね。

直紀さん:国内外のFabLabや、ものづくりの変化を伝えるドキュメンタリー映画も製作中なので、今年の夏にお届けできればと思います。

未来の話をするのが楽しくて仕方ない、といった感じのKULUSKAのふたり。彼らの活動はまだまだ目が離せないようです。

*FabLab(フアブラボ)とは?… 「ほぼあらゆるもの(”almost anything”)」をつくることを目標とした、3Dプリンタやカッティングマシンなど多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワークです。個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指しています。

前へ

followを解除しました。