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Bio Sculpture

その他
本作はテクノロジーによって自然と人間の関係性を再構成することを目指す。メゾスケールな生態系を3Dプリントすることにより生命の苗床を生み出し、<人間ー社会ー自然>がテクノロジーを介してなめらかに連なる世界を提起する。いわば本作はテクノロジーを通じて生態系を編み直す試みであり、「人新世の社会彫刻」を模索しているのだといえる。

具体的には、複数の自然素材にデジタルテクノロジーで新たな立体構造と配列を与え、それを大型3Dプリンタを用いて出力することで、生態系の一部となる立体物をつくり出す。

近年、大型3Dプリンタが続々と実用化されているが、その多くがコンクリートを出力することで住宅や都市インフラを供給することに終始している。中には自然素材を3Dプリントする試みも存在するものの、あくまでも安価な建材としての利用が主である。本作はこうしたパラダイムに対して、自然方向へとそのテクノロジーを開いたときにいかなる発展の可能性が眠っているのかを探索する。これは、日本という湿潤環境ならではの「生きた土壌」を3Dプリントによって再構成する試みともいえるだろう。

ビーバーのダムが周囲の生物にとっても良好な環境を築いているように、あるいはかつての里山が自然の野山以上に豊かな生物種を抱いていたように、人間が発展させてきたテクノロジーや社会といった特徴を自然へと開くことで、よりポジティヴな人と自然の関係性を塑像することを目指す。

現在は、設置された環境に潜在する生態系を育む『ひだ構造の器』を制作している。この彫刻は赤玉土と籾殻からなり、サンゴ礁の発生アルゴリズムを元に付与されたひだ構造が、彫刻の表面積を最大化するとともに、表面に日陰や日向が複雑に入り組んだ微小環境をつくり出す。この表面に日照シミュレーションを元に9種類の苔が互いに共生するように配されることで、温度・湿度・CO2・空気の汚れ等を自律的に調節する。そして、こうしたデジタルテクノロジーによって自然ではありえない環境をつくり出すことがいかなる効果を持つのかを、微生物環境の変動を含めた長期的なセンシングによって明らかにしてゆく。

実際に本作は2021年4月から5月にかけて北九州で開催された「北九州未来想像芸術祭 ART for SDGs」、および同年7月から8月にかけて幕張で開催された「生態系へのジャックイン展」にて展示された。展示作品はそれぞれ、ART for SDG展示後は移設されパブリックアートに、生態系へのジャックイン展後は遊休地に移設され、自然環境下での変化を観測分析している。こうして地域社会へと開かれたBioSculptureたちは、その造形と苔のテクスチャーを通じて市民から愛され、地域の風景の一部、ひいては地域を構成する一員としてそのネットワークの中に根を張ってゆくことが期待される。

すなわち、この彫刻がある環境下に設置され、時間の経過とともに潜在していた生態系の姿が顕在化してきたとき、それこそが本作の真の意味での完成なのだと言えるだろう。そこにはテクノロジーと自然の相互作用、さまざまな場所から集められた素材同士の相互作用、そしてこの造形物を通じた人と自然、人と人の相互作用といった、さまざまな関係性が編み込まれている。

本作はこれらの実践とその観測、フィードバックを通じて、将来的には実際の都市の中で市民とともに育まれていくBio Sculptureを実装することを目指す。

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