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無形庵

Architecture / Bio / Craft Art / Idea / Product / Sculpture
  本の伝統的な美は、さまざまな装飾などを省略して生まれる“余白”によって、不在が顕在化することに本質があるのではないだろうか。そして、茶室としてその極北を目指すとき、そこには茶道における伝統的な振る舞いのみが残るはずだ。よって、茶室で人と人とが出会う時の所作の集合体を、空間として抽出する計画とした。
 躙口から入た客が床の間を鑑賞したり、茶道口から入った主人が客をもてなす準備をする所作は、伝統的な間口の寸法などによってある程度拘束されている。本計画では、その制約をポジティブなものとして捉え、主人と客が出会う場が有機的に浮かび上がるような設計を行う。
 注目したのは、本質的に決まった形を持たない自然の素材である。今回は、自然物に形を与えるために、膠と綿布を用いて茶室を制作した。膠は、動物の皮膚や骨から得られるコラーゲンを濃縮して作られる天然の接着剤で、古くから日本画の制作に使用されてきた素材である。綿布との親和性が高く、染み込ませて固めると高い強度を発揮する。その性質を利用して、固める際にドレープを作り、布自体が構造として成立するように施工を行う。布でドーム状の空間を成形するのではなく、重力によって生まれる布の動きがそのまま柱や屋根、壁となり、茶道の所作を浮き彫りにしながら、緩やかに全体を包み込む設計とした。
 また、その際に待庵の平面図をオマージュとして踏襲することで、「タイトル」は最小限の空間に最小限の要素で立ち現れる。そこには、余白を許容する不定形の布が膠によって空間化した、最大限の小宇宙が創出されるだろう。

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