CREATIVES

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Jam Dipper

 《Jam Dipper》は漆を施した木彫のオブジェである。舌で触れる鑑賞を見込みつつ、「目の舌」を用いた擬似的な接触による鑑賞をうながす。外界を距離を持って捉える「眼」と、内臓への入口である「舌」。この二つの器官を掛け合わせることで、視覚の背後に潜む「ぬめり」が強調される。舌による動きは随意と不随意の境界にあり、《Jam Dipper》の滑らかな曲面をなぞる行為は意識のむかう先を外部から口腔内を通じて鑑賞者自身へと反転させる。そこで鑑賞者は自身の深部感覚——身体の内部で生じる物理的な手応え——を感じとり、やがて言葉になる前の「未分化な感覚」へと遭遇していくことになる。

 こうした内臓感覚に近い生々しい感覚は生存に直結する「情動」の源泉である。AI や人工物と融合する未来において、こうした感覚を「外界の情報を受け止め、生命を維持する力」として今一度確かめたい。私たちが寒さを感じとれることで死を回避するように、舌の動きや触覚から引き起こされるうごめくような感覚こそが、私たちがこれからの世界を判断するための情報となる。

 さらに言えば「未来の私たち」にとってこの感覚が、こうした「生命維持のための情報選択」にとどまらない可能性があると考える。つまり、舌を通じて出会うこの情動的な感覚こそが、動物や植物の感覚に共感する情報となり、共生していく力になる。エージェント(能動的主体)化した AI や人工物と、動物や植物との関係を水平にあつかいながら、どのような環境が住みやすいのか感じとり創造していくことが「未来の私たち」の生活になるかもしれない。《Jam Dipper》は「未来の私たち」の知覚と情動を探る口腔にひろがる実験場になるのである。

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