南海電鉄のチャレンジ!
Chokettから始まる、感性に働きかけるなんばのまちづくり
なんばの街を舞台に、これまでになかった新しい文化が育まれようとしている。南海電気鉄道株式会社が仕掛ける、クリエイターインレジデンスの新プログラムChokett(チョケット)が、2023年秋、スタートした。2030年、2050年を目的地として、エンタメが溢れ、訪れたくなる街を目指していく。
企画の発端や今後の展開についてなど、プロジェクトを進行する南海電気鉄道株式会社 まち共創本部 グレーターなんば創造部の福井 良佑さんと大前 孝文さんにお話を伺った。
取材・文:小倉ちあき
写真:山元裕人
グレーターなんばビジョンで、なんばの魅力を再認識
なんばパークスの地上階にあるなんばカーニバルモール。Base(108) の区画がChokettの最初の拠点だ。第1期の公募を前に実施した2023年9月22日〜23日のプレイベントでは、異ジャンルのクリエイターが集まって表現活動を行っていた。ある人は屋台づくりのDIYを路上で行っていたり、ある人は0円で自作の服を販売していたり……とまさに、フリースタイル。「街は使いこなしてなんぼ!」とこの事業を進めているのが、なんばの街で140年近く事業を行ってきた南海電気鉄道株式会社(以下、南海電鉄)だ。
なんばは数年内に、大阪・関西万博の開催や大阪IR開業、なにわ筋線の開業なども控えている。梅田や天王寺、中之島の開発も進む中、なんばが選ばれ続ける街であるためにはどうすればいいのか。
「2017年に、地元団体によるなんば駅前広場のほこてん(歩行者天国)化構想がスタートし、2017年に担当になってから地域の方と顔を合わせる機会が格段に増えたんです。その熱意の高さったら! 熱すぎて言い合いが白熱しつつも、大阪ならではの笑いありのメンバーでした。そんな街に接するうちに、自分たちを振り返りました。ここ10〜15年ほどなんばパークスやなんばスカイオなどの不動産開発、いわゆる箱物づくりに注力してきました。いつの間にか不動産事業ばかりやって、まちづくりの手法が限定的になりすぎていないか。かつては球団経営や劇場運営などのエンターテインメント(エンタメ)で街を盛り上げていたのに、いつしかエンタメを手放してしまっている。そう、今のまちづくりに必要なのは箱づくりではなく、理屈抜きにワクワクする面白いコンテンツづくりなのではないかと」
なんばの魅力はどこにあるのか?なにが求められているのか?なんばを訪れる人々に、その目的をヒアリングしていった。その中で見つけたのが、「ミート!(出あう)、イート!(味わう)、ビート(心弾む)!」というキーワードだった。
たこ焼きやお好み焼きがひしめき合い、調理器具やポップカルチャーが並ぶ商店街を歩き、お笑いや店員の人懐っこさを身近に感じて、新しい感性や気づきに心を震わせる。出あうこと、食べること、ドキドキワクワクすること。他の街にはない、なんば独自のカルチャーがそこにある。
「今まで築いてきた街の歴史の延長上にあり、街の大きな強み。この3つに、なんばの魅力は集約できる、そしてこれを生かしてブラッシュアップしていこうと考えました。目的と動機さえあれば、人は街に来たくなるはずです」
こうして南海電鉄は、「ミート!イート!ビート!」を核に据えて、グレーターなんばビジョン「ENTAME-DIVER-CITY〜Meet!Eat!Beat!On NAMBA〜」を、2023年3月に策定。このグレーターなんばビジョンは、南海グループが主体となって取り組むまちづくり宣言でもある。
Chokettで育む、新種のエンターテイメント!
グレーターなんばエリアの都市格を”エンタメ”と”ダイバーシティ”を強みに高めたい。”エンタメやアート、クリエイターなど、ビジネスとかけ離れた領域と街が関わることで、これまでにない新しい反応が得られるんじゃないか、インスピレーションが爆発するんじゃないか。こうして2023年秋にクリエイターが自由に表現できるプログラムとして、Chokettはスタートした。大きなテーマに「新種のエンターテイメント」がある。
「新種のエンタメというのは、誰もが思いつかないエンタメというハードルの高いものではなく、今の街の延長線上にある、異なるエッセンスが組み合わさったり、街の歴史の延長線上にあったりするものです。Chokettの枠組みを使って企業も個人も、ハードルを低くしていろいろ試していけるようにしたいです」
Chokettは、まず実験的に、南海電鉄が管理している物件から始めるが、将来的にはエリアを拡大していく予定だ。街全体を使って、なんば発のイベントを同時多発的に発信していきたいという野望もある。エンタメで街の魅力の中身を作っていくことと並走しながら、これまで通りの不動産開発も加速させていく。Chokettで生まれたアクティビティに合わせて建物の空間計画が反映されていくなど、アクティビティファーストな建物の開発をを目指していきたい。
「街ごとステージ化したいですね。なんば全体のエンタメを世間に発信していきたいですし、関わったクリエイターにもなんばをフィールドとして羽ばたいていってほしいです。なんばという場を最大限に活用してほしい。なんばエリアでは全国でも画期的な、道路空間を活用できる通称”ほこみち制度”(歩行者利便増進道路制度)に指定されている道路があります。これを生かして、公共空間を活用したクリエイターの表現や大道芸などのエンタメも今後展開できる可能性があります。一緒にまちを面白くしてくれる人であれば誰でもウエルカム。欲望のある方、大歓迎! やってみたいを叶えられる、そんなChokettでありたいです」
なにわ筋線が完成する前の2030年を目処に、Chokettの基礎は万博までに築き、2030年までには確立させたいという。なんばが培ってきた魅力であるミート、イート、ビートに、「こんなことやってみたい!」が組み合わさることで、これまでにない新しいエンタメが生まれる。刺激を受け、感性が豊かになる街。なんばのまちづくりは今始まったばかりだ。