Chokettに込めたノリ
Chokettの世界観は、南海電鉄、ロフトワーク、そしてクリエイターと共につくりあげた。
まさにちょけながら、常に笑いの絶えない制作現場。
どんな想いを込めたのか、プログラムタイトルやメインビジュアル制作に携わった3人のクリエイターのコメントをお届けする。
クリエイターとともに作り上げたキービジュアル
プログラム名、コンセプトテキスト
アサダワタル(アーティスト、文筆家、近畿大学 文芸学部文化デザイン学科 特任講師 )
10代を南海沿線の街で過ごした僕にとって、なんばはとても身近な街だ。待ち合わせ場所といえば、ロケット広場。駅ビルのテナントがひしめく中で、異様なほどの存在感を放ち空へと突き抜けるロケットの存在を初めて見上げたのは幼少期。その頃、「なにこれ……?」と異様に思っただろうけど、いつしか空気のようにあの場に馴染んでいたあのロケットが、2007年に撤去された時は、寂しい気持ちになった。
そんな南海なんば駅に連なる広場として、なんばパークス・カーニバルモールがある。なんばCITYとなんばパークスをつなぐ道。華やかで終始喧騒に満ちた駅前と、それとは一風違った高架下の独特な街並みとをつなぐ道。このストリートにある一室を基地に、様々なクリエイターが「街の使いこなし方」を発明する……。そんな「クリエイター イン レジデンス」を南海電鉄と企んでいると、ロフトワークのみなさんから聞いたのは2023年7月。プログラムのタイトルとコンセプトテキストの制作担当者として、チームに加わることになったのだ。
ちなみにこれまで僕は、ユニークな趣味をネタに自宅を街に開放し他人を招き入れたり(全国)、こてこての下町商店街の軒先に大型テレビを設置して昭和の映像VJをやったり(大阪市西成区)、スーパーマーケットのお客さんを尾行して同じ商品をカゴに入れる遊びをしたり(青森県八戸市)、街のサウンドスケイプ(環境音)と住民の声のみを素材にレコード作品をプロデュース(東京都足立区)したりの日々。そんなヘンテコな文化活動をついに地元でやれるやん!と意気込みつつ、 でも舞台はTHE商業地。これは縛り多そうやなぁ……。でも南海さん、どうも本気らしい。やっていいらしい!
そこで考えた。どこの都市に行っても似たような商業施設に囲まれ、「消費者」というモードのみを選択することに慣らされている私たちは、買うとか、観るとか、遊ぶだけでなくって、「使う」というモードを手に入れることで、「その街ならではの匂い」を新たにクリエイトできるのではないか。その問いから辿り着いたのは、大阪人が本来もっている「ちょける(≒ふざける)」という言葉だ。大阪人のちょけるスピリットが、その街ならではの余白や間(あわい)をいちいち発見するまなざしを育む。そんな願いをこめて、「Chokett」と名付けたのだ。もちろん、冒頭に書いたあの「ロケット」の記憶も蘇らせて。
建築家の青木淳さんの「原っぱ」という言葉が好きだ。Chokettはアトラクションが予め準備された「遊園地」ではなく、無目的で曖昧で、隙間だらけで、でもそれゆえにあらゆる可能性に開かれている原っぱ。一見すれば遊園地的なカーニバルモールの表面的な環境に意識を奪われてはならない。私たちは視点をずらせば何にでもなれる、どうとでも街を使えるということを証明するために、このなんばを存分に楽しむだろう。
アサダワタル | 音楽を始めとした表現領域と、ケアやコミュニティにおける社会課題を融合する摩訶不思議なコンセプトやプロジェクトを発表。ミュージシャンからキャリアを始め、NPOや寺院、福祉法人や教育機関と連携しながら全国各地で市民参加型のアートプロジェクトを多数演出してきた。自宅を創造的に開放し他者とつながりを生むムーブメント「住み開き」の言い出しっぺ。著書に『住み開き増補版 もう一つのコミュニティづくり』(ちくま文庫)、『想起の音楽 表現•記憶・コミュニティ』(水曜社)など。福島県の復興公営住宅「下神白団地」の住民とプロデュースしたCD作品『福島ソングスケイプ』が2022年グッドデザイン賞受賞。2019年から3年間、品川区立障害児者総合支援施設「ぐるっぽ」にて、公立福祉施設としては超稀有なアートディレクター職として勤務。2022年より郷里の大阪に出戻り、近畿大学で教えながら学生街に謎の「お店」を開こうかと画策中。
ロゴデザイン、ビジュアルデザイン
森倉ヒロキ(グラフィックデザイナー)
誰の目を気にするわけでもなく、自分らしく自由に表現すること。小さい時にはできていたはずなのに、大人になるとなかなか難しい。「Chokett」のデザインを制作する際にそんなことを考えながら制作をしました。
街の文化や歴史に触れながら、らしさを探り、そして最後にちょける。デザイナーにとってこんなに難しく、楽しいことはありませんでした。このような機会を頂いたことに感謝します。
みなさんは最近ちょけてますか?
森倉ヒロキ | 1997年、大阪府・茨木市生まれ。大阪デザイナー専門学校グラフィックデザイン学科を卒業後、フリーランスのグラフィックデザイナー、アートディレクターへ。「NON」代表。お笑いライブのフライヤーデザインから地方自治体のデザイン計画、ブランド開発まで幅広く活動。猫と暮らしています。
背景ビジュアルデザイン
若木くるみ(版画家)
チョケていい場面とチョケちゃいけない場面との見極めを放棄し、常時チョケたがりで押し切っている私ですが、今企画「Chokett」はその名の通り、チョケを認め、チョケを赦し、なんならチョケを推奨する、果てしなく懐の深いプログラムのようでした。
イラストの依頼をいただき、そんなの私のための企画じゃないかと意気込んだものの、チョケが求められている場所での真の「チョケ」は「直球」なのではないかという浅い哲学にハマって、素朴な木版画を真顔で刷りました。でも、逆チョケとか裏チョケとかズレチョケとか、あえてっぽくチョケを引用することで生煮えの版画も尊厳が保たれる気がしました。
魔法のことば、チョケ。ここ「Chokett」が、あらゆる表現欲を包み込む、チョケの本拠地になったらいいなと思っています。
若木くるみ|1985年北海道生まれ、京都在住。2008年、京都市立芸術大学卒業と共に院試に落ちてフリーターに。後頭部を剃り上げ顔を描くやけっぱちのパフォーマンスで2009年岡本太郎賞を大受賞。無名の新人に突如降り注いだスポットライトが眩し過ぎて気が触れ、ランニングにのめり込む。暇にあかせて走りまくった結果、333kmレースで優勝するなど誰も望まない方向に才能を発揮。ロフトワークのレジデンスで刺繍Tシャツづくりをしたことをきっかけに、アイディアを形にするよろこびに目覚める。絵やものづくりで生きていけたらなあ、とティーネイジャーのような夢をふんわりぬかし続ける、遅れてきた38歳。
プレイベントでもChokettへの想いや期待を話した。(左2番目からアサダワタルさん、森倉ヒロキさん、若木くるみさん)