COMPETITION

『自然のやさしさを探るAWARD』

自然から感じる心地よさとは何か、学び取り入れる試みを

結果発表 2020/11/03(火) - 2020/12/23(水)

やさしさは筋肉であり、結果論。 ”好き”を広げる2人のクリエーターのやさしさ論。小国士朗さん×古谷知華さん。やさしさ対談。

2020/10/22(木)

やさしさの正体を暴くことに、きっと大した意味はない。

でも、自分にとってのやさしさ、あなたにとってのやさしさ、地球にとってのやさしさ、いろんなものやことのやさしさを想像してみること、創造してみることにはきっと、意味がある。

なぜなら、僕らの祖先たちはそうやって月にウサギを浮かべ、二股のソケットを作り、ソーラーパネルを開発してきたのだから。
そしてこれからの未来もそうやってつくりあげていくのだと思うから。

そもそも、意味に意味などないって話もある。
僕らにとって”やさしさ”をソウゾウすることとは、どういうことなのだろう。

これから約1ヶ月に渡り、やさしいものづくり、ことづくりを実践してきた多様なクリエイターたちにとっての”やさしさ”を聞いていく連載が「ソウゾウするやさしい展」と共に始まる。

初回は「注文をまちがえる料理店」の発起人、小国士朗さんと「ツカノマフードコート」の古谷知華さんという新しい世界の見え方を仕掛ける2人のクリエイターにお話を伺っていく。

社会善ってわけじゃない

雨宮:最初にここ最近のお2人の活動についてお伺いしたいです。

小国:コロナ禍だから何かやらないんですか?ってよく聞かれるんです。「注文をまちがえる料理店」とかをやっているからか、わりと社会的な人間だと思われるんですけど、そんなことは全然なくて。別にコロナ禍だから何かやるってことはないですって言ってきたんですね。でも、突然マスクを作り始めまして。

雨宮:おお、どんなマスクですか?

小国:4月下旬だったんですけど、たまたまマスクをたくさん調達できるって社長から「マスクを調達できるんだけど、ただそれを売るのではなくて、社会のためになる売り方をしたい」と相談を受けたんですね。それとちょうど同じタイミングで僕の友人が「福祉現場にマスクを届けよう」っていうプロジェクトを立ち上げていた。なんかそれを繋げられたらいいなぁって思って「おすそわけしマスク」っていうのを作りました。

これは、55枚分のマスクを買うと1割にあたる5枚のマスクが福祉の現場に寄付されるっていう仕組みのマスクです。プロジェクトを一緒にやったチームがすごくよくて、企画を思いついてから10日ほどでローンチできました。結果、700を超える福祉現場に30万枚以上のマスクをお届けすることができました。最初は1割のマスクを寄付する仕組みだったんですけど、ユーザーの方から「1割のおすそわけじゃ自分の気持ちが収まらない」ってお問い合わせを複数いただいて、急遽「ぜんぶおすそわけしマスク」っていうラインナップもつくりました。でも、それってもうおすそ分けじゃないんですけどね(笑)

全然知らない誰かのためにマスクを贈って、全然知らない誰かからマスクが贈られてきて、そこにゆるやかな繋がりが生まれていくのが暖かくて、やって良かったなぁと思いました。

雨宮:”おすそわけ”って今だと”シェア”って言葉になりがちですけど”おすそわけ”の方がやさしい感があって、福祉の現場とマッチしていていいなぁと思いました。

小国:そうですね。ぼくはニュースを見ていて違和感があったんですね。4月頃ってまだまだマスクが足りなくて大変な時期でしたけど、ニュースではマスクを高値で売ったり、大量に買い占めたりする人たちを首から下しか映してなかったんです。なんかそれって悪いことをしてる人みたいじゃないですか。でも、売るほうにも買う方にも致し方ない事情があるかもしれないのに、一1面的な描き方が嫌だなって思ったんですよ。

そこで企画を思いついた時パッと浮かんだコンセプトが”おすそわけ”って言葉でした。おすそわけだと自分も守れて、社会も守れるし、売りてよし、買い手よし、世間よしの三方良しが成立するなぁと思って。おすそわけって言葉はみんなが無理なくできていいなぁと思います。

雨宮:確かにそうですよね。古谷さんは最近どうですか?

古谷:私は去年から「ツカノマフードコート」っていう食のレーベルをやってまして。食で表現したいいろんな料理人の人たちが集う場で、まずは渋谷で6ヶ月間実験的にやっていたんですね。その後も台湾とか銀座とかポップアップ的に回っていく予定だったんですけど、コロナでそれが全部中止になってしまいました。

コロナ禍では料理人の人たちが疲弊していっていくのが目に見えていて。彼らの辛い部分として、お金の部分はもちろんあるんですけど、サービス精神が豊かな人が多いのでサービスを提供できないのが辛そうだなぁと思いました。

私たちの間でも場がなくなってしまったので何にもできないねってもやもやしていたんですけど、でもなにかやろうと考えていて。普段彼らと話している時に感じるのは料理人のクリエイティビティってお皿の上だけで表現できているものではなくて、背景にある知識や経験やインスピレーションに彼らのクリエイティビティがあると思いました。

そこで普段隠れている彼らのクリエイティビティに付加価値をつけて届けられないかと思い「ツカノマノ読むフードコート」っていう企画を始めました。これは、所属している料理人のうち15人の方にレシピをエッセイ付きで書いてもらい、電子書籍として販売するというものです。

普段文章を書きなれていない方も多かったんですけど、料理って右脳的な部分と左脳的な部分を両方使うから、みんな文章上手くて、素敵なんですよ。

販売した金額は15等分して全部料理人の方にお渡ししていて、僅かなお手伝いはできたかなぁと。ただそれは社会善というよりも、身の回りの人たちに何かしないと自分たちが死んじゃうよねって思って、自分たちのためにやったっていうのがありますね。

雨宮:めちゃくちゃいい取り組みですね。
その中で特に印象的だったエッセイとかありますか?

古谷:反響が多かったのは、夫婦で料理研究家をしている人たちがいて、その旦那さんが奥さんにプロポーズする時に出したハンバーグのレシピがあって。中にコーヒーゼリーを入れるんですよ。そうすると中で肉汁と溶けてすごい美味しくなるっていう。そのエッセイは短編小説ばりに何スクロール分もうわーっと文章が書かれてて、最後にレシピが書かれていました。


雨宮:うわーいいですね。普通のレシピサイトを見てつくるのとは全然違う料理体験になりそうです。

正しいことは伝わらない、けど・・・

雨宮:小国さんの企画って中はドキュメンタリー的な真剣さがあるけど、外はバラエティっぽくキャッチーで、まさに井上ひさしが言うような「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」っていう表現の方法で、それがセンスでありやさしさでもあるなぁと思いました。

世の中って最大公約数的に伝えた方がいい正しいことってあるけど、それを直接的に伝えると嫌われやすくって、だからこそ「面白そう」とか直感的にいい感じにパッケージしてあげることが大事だなぁって思うんですけど、その上でちゃんと伝わってるかどうかの判断って、やっぱり経験値なんですかね?

小国:僕はNHK時代にたくさんの社会課題を扱う番組を作ってきたんですけど、その中で一番実感したのは「正しいことって伝わらない」ということでした。心血を注いで凄まじい量の取材をするんですけど、番組って本当に見てもらえない。見てもらえないものは存在しないものと同じだと思っていたし、見てもらえたとしてもNHKの場合は特に高齢層に偏りがあって、本当に伝えたいなと思っていた若い世代にはぜんぜん届かなかった。だからなんとかして届けきりたいと思ってました。

その中で僕の出自として、僕はテレビってバラエティしか見てこなかったんですよ。NHKは「おかあさんといっしょ」で卒業していたので、NHKに入るまでどんな番組をやっているのか知らなくて(笑)
僕はダウンタウンさんが大好きで、ダウンタウンさんの番組を見て思春期を過ごしてきたので、基本的なマインドはお笑いによって育まれているんです。コントや漫才で描かれてることって、わい雑だったりもするんですけど、おもわず笑って、ずっと見入ってしまったりする。そんなお笑いの強さが経験として強烈に刷り込まれていて。だから、みんなが笑いながら、思わず触れてみたいって思うような入り口をつくれたらいいなっていつも思っています。

ただ、笑いだけでももちろんだめで、それだけだと「あれ?今の何だったんだろう?」で終わっちゃうので、笑って触れてくれたら、そのあとに、それが一体なんなのか、なんのためにやっているのか、ということがきちんと伝わるように設計するようにもしています。そういった「今、なぜ、これをやるのか?」といった理屈の部分は自分がNHKですごく鍛えられた部分で、それは本当に良かったなぁと思ってます。

雨宮:漫才でいうとボケがあって、ボケを活かすツッコミがあって、はじめて大きな笑いになるみたいな。

小国:そうですそうです。

雨宮:伝え方っていうことについて、古谷さんが意識されてることってありますか?

古谷:「ともコーラ」っていうクラフトコーラを作っておりまして、オリジナルの味とは別に、都道府県毎に「ご当地クラフトコーラ」作りのプロジェクトを進めています。それは大体都道府県の中で若いやる気のある人が名乗りを上げてくれて、一緒に食材を探したりしてつくるんですけど「こんなに簡単にコーラってできるんですね」って印象をみんな持たれるんですね。

コーラって意外と何混ぜてもコーラにできちゃうゆるさがあるんですけど、アウトプットとしてはみんなが知っているものなので、地元の食材を使って商品として完成すると地方のメディアはだいたい取り上げてくれるんです。

このフレームがあるとどの県でもちょっとやる気のある人がいれば大体できてしまうんです。ゆるくて、誰でも参加できて、けれどもクリエイティビティがあるって言えるものを作ってるんだなぁって最近思います。

自分が厳格な場所やルールが苦手だったりするんですけど、一応今会社員をやってるので、批判されない程度にゆるい場所や仕組みを結果的に目指しているっていうのがありますね(笑)

雨宮:なるほど~、”シェア”や”クラフト”など若い世代の流れを絡めつつオープンな枠組みをつくるのが上手いなぁと思っていて、やり始めたきっかけとかはあるんですか?

古谷:元々はハーブが好きだったり、歴史が好きだったり、自分の好きなことをしているだけで、ただの素人だったんですけど、こんな私でもある程度ブランドを作ることができているので、これはみんなできるなと思いました。それで若手の人たちが簡単にアウトプットできる場所が必要かもって思ってツカノマフードコートは

作りました。あんまり課題どうこうっていうのはないんですけど、考えてから1年以内にはアウトプットしていこうくらいにスピード感は意識してますね。

小国:コロナになって余計に思いますけどスピードは本当に大事ですよね。今日のソリューションが明日のソリューションじゃなくなるというのがより顕著になった気がします。

「?」から広がるやさしさ

小国:僕は身近じゃないテーマを世の中に広げていくひとつの手段として、大喜利ってすごくいいなぁと思っていて。僕がやっているdeleteC(みんなの力で、がんを治せる病気にするプロジェクト)では、この9月にプロジェクトに賛同する企業の商品やサービス・ブランド名からCancer=がんの頭文字である「C」を消した写真をSNSにアップしてもらうと、その投稿ががん治療研究の寄付になるという仕組みを実施したんですけど、CCレモンやCampusノートからCを消したり、カルビーさんの全商品からCを消したりとか、ものすごい数の投稿がSNS上にあふれて、3000万人以上に情報がリーチしていきました。がんの治療研究への寄付をお願いします!といっても、ちょっと自分とは距離のある遠い話だと感じる人も多いと思うのですが、「Cを消してください」って投げかけると、大喜利大会が始まってみんなどんどん乗っかてくれる。こんなCの消し方があったんだ!ってこちらが驚くような消し方もたくさんありましたけど、そうやって大喜利に参加することで、それまでは距離を感じていたかもしれないがんの治療研究との距離がぐっと近づく。

雨宮:確かに。まずは問いを広げる事が大事というか。ちなみに「ソウゾウするやさしい展」でもTwitterで大喜利やるんです。

小国:それはいいですね。であれば、だからこそたくさんの人が乗っかれるお題の設定が大事ですね(笑)

雨宮:古谷さんは”問い”ってキーワードで何か思われることはありますか?

古谷:最近意識しているのは、初めましてな人が多い飲み会で自分のやってることとか肩書きを言わないで楽しく終わらせるってことで(笑)

小国:すごい高度なテクニックが必要そう(笑)

古谷:都市における初対面の飲み会ってネットワーキング色強いなぁと思って。みんなが共通して話せて、悲しい気持ちになったりしないトピックって何があるんだろうって言う問いがあります。

小国:結構難易度高いですよね。

古谷:そう言う時って下ネタにいっちゃいがちじゃないですか。でも下ネタじゃないそう言うものが見つかったらめっちゃ平和だなって(笑)

小国:確かに。今の話でふと思ったんですけど、僕の名刺って肩書きが書いていないんですよ。肩書きをつけると、言う方も言われる方もお互い何となくわかった気になっちゃうのが嫌で。もちろん肩書きがあると、いろいろ説明しなくても伝わるから楽なんですけど、今の僕には肩書きがないので、僕の自己紹介はめっちゃ長いんです(笑) でもそれが意外と大事だよなぁって思ったりして。

肩書きをつけると自分の可能性を狭めちゃう気もするんですよね。だから僕は企画を考えるときも中途半端なプロよりは、熱狂する素人でありたいと思ってます。

どうしてもその業界の常識なんかがわかってるとリスクとかを検討し始めちゃうので、飛び抜けたアイディアやスピード感が出しづらいんです。理詰めでいくとどこかで手詰まりになりがちなんですけど、素人はそもそも「理」が分からないし、熱狂している素人は、自分の作りたい世界だけを見据えているので、いろんなリスクに気づかずにぴょんと飛び抜けて向こう側にいっちゃうことがある。今回のアワードもそういう応募が増えるといいですね。

雨宮:繋げていただきありがとうございます(笑)

《ソウゾウするやさしい展では”自然のやさしさを探るAWARD”をテーマに企画アワードを実施中です(https://awrd.com/award/sozo-ya...)》

古谷:自分の心に正直なのが一番ですよね。そう言うのってやっぱ伝わっちゃうので。

古谷さん、小国さん、やさしさって何ですか?

雨宮:ところで一気に哲学的な話題に振っちゃうんですけど、今回のテーマである「やさしさ」についてお2人の考えを聞いてみたいです。

古谷:難しいですけど、やさしさは相手が不安を感じないために、大事にされてる思ってもらうために自分が努力することかなと思いました。相手のことを想うって当たり前のことではあるんですけど、やさしさは筋肉にも似ていて、相手にやさしくできているだろうかって考えて実践し続けないと衰えていくものなのではないかなと。

小国:いいこと言うわぁ。筋肉か・・・。
僕自身でいうとやさしさについて深く考えたことはなくて。「小国さんのクリエイティブはやさしいですね」と言われることはあるんですけど「あぁ、そうなんだ」と他人事のように思って聞いています。自分自身で「やさしいなぁ俺」なんて思ったことは一度もなくて。やっぱり「僕、今からやさしいことやります」なんて言ってたら相当嫌じゃないですか(笑)

だから、やさしさは結果論だと思うんです。そういってもらえるのはいいことだと思うんですけど、やさしさを目的にしているわけでももちろんないですし、解決しなければいけない課題に殉じるのでもなくて、あくまでも自分の心に殉じるのが大事だなと思っていて。その結果として、社会の役に立っていたりするとしたらそれはとても素晴らしいと思うんですけど、常に起点は自分になっていないと僕はもたないなぁって思います。だから、やさしさとは自分の心に嘘がなく、向き合えているかどうかってことじゃないかなと。

雨宮:確かに、誰かにやさしくしたいからするとかそういうことじゃないですよね。

小国:そうですね。注文をまちがえる料理店をやっている中でも、僕は「認知症の人をキラキラ輝かせたい」と思ったことは1度もなくて、ただそういう舞台をつくってみたら、みなさんが本当に楽しそうで、ステキだったというだけなんです。

ーー昔タモリさんが言っていた「真剣にやれよ、仕事じゃねぇんだぞ」って。

もちろんお2人方は仕事も真剣にやっているし、手がけるプロジェクトは仕事でもあるのだけれど、インタビューの中かからは本気で自分の好きなことをやりきるという、とても真っ当なスタンスを感じた。 

好きなことだからこそ、ちゃんと届ききるまで想像して、妥協なく創造していく。そうやって自分の好きと向き合った結果が、誰かにとってのやさしさに繋がっているのだろうと思った。小国さんのいうようにあくまで結果論として。

「シャンパンタワーの法則」という有名な理論がある。

それはシャンパンタワーの頂点を自分として、下層に家族や友人、地域や国などスケールの大きなものが広がっているという構図で、自分を満たして溢れさせないと他の人や、社会のグラスは満たせないよねってことを言っている。

広く届く優しさというのも、自分のグラスからどばどばと溢れてしまった

壮大なおすそ分けの結果なのかもしれない。

インタビュアー:
体験作家
雨宮優
 

インタビュイー:
株式会社 小国士朗事務所 代表取締役 
小国士朗 

調香師・フードプロデューサー
古谷知華

ーーー

パナソニックセンター東京では、2020年11月3日(火)~12月27日(日)までの間、SDGs達成に向けた取り組みの一環として、オンラインキャンペーン「ソウゾウするやさしい展」を開催しています。

「ソウゾウするやさしい展」は、大喜利で楽しむ、物語にして伝える、カタチにするという3種類のコンテストを通じて、投稿する参加者がソウゾウしたやさしさが作品となるオンライン展示会です。やさしさをアウトプットするというアクションそのものが社会課題の解決に繋がる一歩であると捉え、SDGsの達成に貢献していくことを目指しています。

ソウゾウするやさしい展:https://awrd.com/sozo-yasashii/

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