- 630
不気味な記憶 ベニヤの中空
わたしが通っていた中学校は、お世辞にも清潔感のある学校とは言えなかった。旧校舎の横にとって付けたような新校舎が並んでおり、修復した部分だけが真新しい、つぎはぎのような学校だった。中でも入学した当時から、特に不思議に思っていた箇所があった。新校舎にあるトイレ。各階にあるはずなのに、一つだけベニヤ板で塞がれている。景観を気にしてか、ペンキが塗られていたが、そちらこちらがはがれ落ち、汚い。技術室の前。廊下が続いているはずなのに、ベニヤ板で塞がれている。もともとそういう作りではなく、雑に貼られたベニヤ板の隙間から覗いてみると、倉庫のようにイスが乱雑に置かれていた。「なぜこんな不自然な形になっているのだろうか。」慌てて何かを閉じ込めているようにも、何かを守っているようにも見える。在学中に耳にした噂では、その二カ所とも、過去に自殺者が出たと言われている場所だった。技術室の前では数年か前に校長が首を吊り、新校舎にのトイレでは女生徒が手首を切った、投身自殺を図った、などと言われていた。その真偽のほどはさだかではないが、どちらにしろ、噂を聞いた生徒達が悪ふざけをしないように、という計らいのもとだったのだろう。しかし、当時のわたしにとっては逆に「自殺者などいなかったとしたら。」と考えた方が怖かった。空間は塞がれる事により、神秘性や秘匿性が増す。否が応でも、なにかしらが棲み憑いていそうな印象を与える。そんな陰気臭い学校とも、もうおさらばという三年次の冬。一年生の女生徒がトイレでホースを使って首吊り未遂を起こし、大騒ぎになった。あのトイレもまた、ベニヤ板で塞がれてしまったのだろうか。