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不気味な記憶 体育座りの炭男
小学四年生の夏休み。特に用事がないにも関わらず、朝早くに目が覚めた。せっかくの夏休みなんだからとそわそわして、自分の部屋から飛び出ると、夏らしいギラギラとした日差しがもう居間の窓から差し込んでいた。家の近所には保育園があり、堰堤や、屋上のプールを走り回る小さな子供達が、ベランダからよく見えた。保育園の方に目をやると、さすがに園児達はまだ登園しておらず、園庭もプールも静かだった。代わりに、違うものが目に入った。真っ黒いものがある。朝陽に照らされているプールサイドに、なにか、真っ黒いものが。よく目を凝らして見ると、人の形をしていた。プールの方を向いて、体育座りをしているようだった。大人の男性ほどの体格で、少しも動かず、陽の光を全て吸収してしまっているように黒々としていた。彫像だろうか。ならばなぜあんなにも光を反射しないのだろう。金属や石のような質感にも見えない。やはり、人だろうか。ならばなぜこのような暑い中、全身黒づくめで座り込んでいるのだろう。それに加えて、あまりにも生気が感じられない。生き物にも思えない。あれこれと考えつつ、ひとまず部屋に戻った。しばらくしてまたベランダから覗くと、その姿はもうどこにもいなくなっていた。