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不気味な記憶 オジョウサンオナマエハ?
五歳の頃、親の買い物についていった時の事、一人でおもちゃ売り場をふらついていると、あるものが目に入った。掃除機からホースだけを取り除いたような形。小さな車輪がいくつもついていて、小回りが利くらしい。うろちょろと、せわしなく動き回っていた。ひょうきんな顔の絵も描いてある。ラジコンだろうかとしばらく様子を伺っていると、まっすぐにこちらの方にやってきた。「ヤァ、オジョウサン。」と話しかけられた、このラジコンは話すのか。わたしはすっかり驚いてしまった。「オジョウサン、オナマエハ?」「まい。」「ショッピング二キタノ?」「うん。」「アソボウヨ。」「ううん。ばいばい。」当時、人見知りだったわたしは照れくさくなり、逃げるようにその場から離れた。しかし、後ろからまたあの雑音まじりの声がした。「マイ、マッテヨ!アソボウヨ!」振り向くと、奴が追いかけてくる。自我を失ったラジコンに追われたことで急に恐ろしくなって、大泣きしながら逃げ惑った。それを見ていたおばさんが「ほら、犯人はあいつよ!」と、棚に隠れていた店員を楽しそうに指差した。店員はリモコンを手にして、大笑いをしている。正体があの憎き店員だと分かってはいても、まだあのラジコンが後ろをついてきているのではないかと気が気でなかった。帰りの車中でも、追ってきたラジコンを発見すべく、気が済むまで後方を見張っていた。