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不気味な記憶 蟻だんご
小学生の頃、友達と一緒に、近所の集合住宅の公園に遊びに行った。砂場の隅に座り込み、当時流行っていた黒光りする泥だんごを作ろうと、手頃な土をかき集めていた。その時、足元を這っていた蟻に目が留まった。私は小さな衝動に駆られてその蟻をつまみ上げ、生きたまま泥と一緒に丸めてしまった。その様子を見ていた友達も、面白がって蟻をつまみ、動揺に丸め始めた。紙粘土にビー玉を埋め込む時のような、異物の物同士をむりやり組み合わせる独特の高揚感があった気がする。形を整え、家から持参した布で磨いているうちに、蟻も一緒に丸めたことなどは忘れ、そこそこな泥だんごをいくつか完成させた。せっかく作ったのだからと、玄関の靴箱の下に並べて、自分なりにディスプレイしたのだった。それからしばらくは放置していたが、一ヶ月後くらいにふと泥だんごの中に丸められた蟻の存在をふと思い出した。蟻入りのだんごを気味悪がる母をよそに、その内部がどのようになっているのかが気になって、一つを手に取り、割ってみた。泥だんごの土の中から、見るも無残にもみくちゃになった蟻が一匹だけ出てきた。しかしその事に関して何も感じるものは無く、「もう少したくさん入れたはずだったが。」と、不思議にだけ思った。