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不気味な記憶
毎年、年末は福島の祖母宅で過ごす。物心ついた時から、雪遊びは楽しみの一つだった。家の前で満足するまで遊んでから、散歩へ出かけた。わたしが七、八歳のその年は、雪の水分が多く、玉を作りやすい雪が積もった。少し固めて転がせば、みるみるうちに丸まっていく。気付けばわたしが通った道に沿って、たくさんの雪玉が出来上がっていた。溜め池のほとりで、祖父が釣りをする時にいつも愛用しているビールケースに座っていると、冷たい風が強く吹いてきた。雪を被って身を重たそうにした木々が風に吹かれると、なにか大きなものが向こうから迫ってくるような、そんな音がする。黒々とした大きな影の塊になって、ザワザワと動くのだ。何度聞いても、夕方時の森の音には慣れなかった。来た道を戻ると、昼の雪景色に見た透き通るような美しい光と影はなくなっていた。傾いた陽が、先ほどとは全く違う影を落とし、道すがらに作ってきた大小の雪玉が、何故か人間の顔に見えて仕方がなかった。「顔のついた雪玉がゴロゴロと転がりながら、どこまでもわたしの後をついてくる。」そんな怖い想像まで始めてしまう。たまらなくなって、表面を削ったり蹴飛ばしたりなどして、雪玉に現れた顔を、ひとつひとつ崩しながら帰ったのだ。