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不気味な記憶 傾げるピエロ
わたしの一歳の誕生日祝いに、父方の祖父母からピエロの人形をいただいた。しかし、わたしが怖がってあまりに泣くので、気の毒なことにピエロ人形は母方の祖父母の家に送られてしまった。再びピエロ人形と対面したのは中学校に上がったくらいの時だった。母が幼少時代に使っていた机からアンティークの双眼鏡を見つけたわたしが、他にもなにか面白いものがないかと、あちらこちらを引っ掻きまわしていた時。ピエロ人形は、棚の隅にひっそりと座っていた。つやのある黒いベルベットの衣装。真っ白な陶器でできた顔、腕には美しい装飾が施された妖しい仮面を抱えている。背中の小さな巻きネジを回すと、オルゴールが流れると共に、首を傾げ回し始めた。よく作り込まれているなと眺めていると、次第にその所作と音色は絞り出すようにゆっくりになった。そして、わたしをじっとりと上目で見つめるような姿勢でとまった。ピエロ人形がこの棚に置かれるようになったいきさつを親から聞き、途端に今までの態度を責められているような気がして、気味が悪くなった。目を合わせないようにしながら、首を元の位置に戻して棚に座らせた。以来、ピエロ人形には触れていない。