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Morphodynamics

DL URL
https://drive.google.com/drive/folders/1Z3BCxTG_vI4iHMAaXRG3ipUkehYzoPin?usp=sharing


◾︎ コンセプト:Anthropocene

【導入】

アワードの運営からwebサイトにアップされていた音素材を受け取り、それぞれの音のロケーションを示したマップを見たときに、その周辺に存在した九十九島の地形の異質さに強く目を惹かれた。
関東平野近辺の海沿いではみられないリアス式海岸と、その海辺を取り囲むように点在する島々。幾つもの離島が市の本土を取り囲む地形は、神々しくさえ感じるある種のいびつさ(美しさ)を帯び、そらと共生する人々や自然の生態系に感嘆した。

佐世保市の九十九島は海からの波の衝撃を和らげ、島周辺の沖の植生に恩恵をもたらしており、生態系を豊かにしている。
そのため漁が盛んとなった土地だと聞いたことがある。

大地、ひいては星という単位で生じいている大きな流動を、一度引き受けてその上でありようを考え暮らす様は、地質学におけるアントロポセン(Anthropocene)の概念に通じるものを感じた。
(アントロポセン(人新世)とは、20世紀以降、急激な経済発展に伴い人類によって生じた地球規模の環境変化を、「ホモサピエンスという種がもたらした一つの地質の時代」として客観的に考える概念のことである)


【コンセプト:Anthropocene】

長い年月を経て形成されたこの地形と生態系、そこに暮らす人々が適応し、適用してきた生活とインフラ。そこから鳴り響く環境音、そしてその土地に元来根付いていたサウンドスケープ。
それらを佐世保に根付く「音の地質」としてとらえ、潮の干満で流動する島々のような動的な変容を音楽の中で描く。
今回の楽曲は、STEMごとに明確な役割が与えられており、そのSTEMをひとつひとつの島と仮定して、それらが登場しては溶け合い、時間と共に一曲の音楽として鳴り響くように展開を構想した。


【制作手法】

アワード運営から共有された音素材のうち、コンセプトに合っていた以下の7つを選出した。

 白浜海岸_波の音
 造船所の作業音
 丘の上_風の音
 朝市_ベル
 米海軍佐世保基地の朝8時のラッパ
 松浦鉄道_踏切の音
 泉福寺洞窟のサウンドスケープ


・白浜海岸の波の音は波に合わせた音圧のオートメーションをサチュレーターにかけてより楽音としての属性を強調し、楽曲内の強拍やシンセサイザーのエンベロープと共鳴して響かせ、音楽的なバイオリズムに沿った用法を適用した。
・造船所は絶えず鳴っている機械音の偶数列の倍音に合わせたイコライザの増強を加え、断続的に響く金属音の帯域にエキスパンダーでダイナミクスを与えることでより人の営みを浮き彫りにし、キャタクターを強調尾しつつ楽曲内のドローンと溶け込ませた。
・朝市のベルは環境音としての属性が比較的強いため、ドミノ倒しのように連続して同情するノイズの連鎖の一員として用いた。
・米海軍佐世保基地の朝8時のラッパは環境音としても使える上に、加工することでテクスチャに変換できたため、楽曲内で登場するテクスチャ群に溶け込ませて用いた。
・丘の上の風はサウンドファイルとして抽象度が高いので、冒頭ではそのまま背景の音として使いつつ、音響変調を用いて楽曲の展開に合わせて電子的なドローンにモーフィングさせた。
・松浦鉄道の踏切と泉福寺洞窟のサウンドスケープは、ベースノイズとして使うことで背景の存在・非存在(二つの環境音が鳴っている状態の無音と、完全な無音)のコントラストをつけた。

これらを別々のグループトラックに配置し、それぞれのグループをひとつのSTEMとして区画した。
自分が元々持っている音素材を、各環境音の上記用法に合わせて分類し、それぞれの環境音の役割と同じ使い方で楽曲を構築した。
STEM、すなわちセクション(島)を組み合わせて一つの音楽を成立させられる形を狙いとし、「混ざる・響く」を追求した。

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