車を運転するとき、車がまるで自分の身体の一部になったかのように感じられることがある。
身体の輪郭がひろがり、機能が拡張し、道具がその延長として感じられる状態
――いわば「身体拡張」である。
もしもこの身体拡張が、より感覚的で、相互的なものになったとしたらどうなるだろうか。
感覚を介した反応がほとんど遅延なく往復し、
人と車とのあいだに新たなコミュニケーションが立ち上がるとしたら?
そうした発想から生まれたのが、アーティストとエンジニアが共同開発したEV
「QUENELLE(くねる)」である。
管楽器のようなフォルムをもつQUENELLEは、
乗る人の鼓動を検出し、それを音・光・振動へと変換してドライバーへと送り返す。
同時に、車両の状態や変化も感覚的に提示され、
ドライバーは数値や警告表示ではなく、身体感覚をとおして車と関わることになる。
こうして人の身体と機械のあいだに、双方向的な感覚のやりとりが生まれる。
展示や試乗の場では、
「くねる、雨に濡れて大丈夫かな?」
「そろそろ充電してあげたほうが良いんじゃない?」
といった言葉が、自然と来場者の口からこぼれる。
効率や快適さが最優先される現代のモビリティにおいて、
QUENELLEはあえて扱いにくさや不完全さを残している。
人からの配慮や想像力を引き出しながら、
EVは操作する対象から、共創する存在へと位置付けを変えていく。
無機物であるはずの存在にエージェンシー(主体性)が立ち上がり、
やがて、人と車のあいだに愛着のような感覚が生じる。
この変化を支えているのが、脈拍というきわめて根源的で、ユニバーサルな生体情報である。
QUENELLEは、生命を象徴する「脈」を車にうつすことで、人間と無機物のあいだの関係を再編する作品
であり、多様な人々のもとへ「会いに行く」移動型の社会実験でもある。
本プロジェクトは、2019年より豊田市「とよたデカスプロジェクト」の助成を受け、
体験型展示や試乗会、走行音づくりのワークショップなどを通して、
車を媒介に人と人との関係性を育む実践を重ねてきた。
また、2024–25年に参加した、群馬県主催の巡回展示「SUBARU×ART OTA CITY」では、
自動車工場でのフィールドレコーディングから制作した走行音を搭載し、温泉街や雪道を走らせた。
少し先の未来から現在を振り返ったとき、
生身の身体がもつゆらぎや、手をかけることで関係が育つ不完全な存在は、
むしろ価値あるものとして立ち上がってくるのではないだろうか。
本作は、そうした未来を見据えながら、人と機械の関係性を問い直す試みである。
現在も車体のアップデートと新たなシステム開発を続けながら、その可能性を拡張し続けている。
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SUN, JAN 18, 2026 Updated


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