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研究者とクリエイターが共創し、目に見えない存在を知覚するプロジェクト「Sense of the Unseen Vol.1」

TUE, NOV 19, 2024

Interview

2024年9月10日から9月14日までの5日間、「怪談」と「窒素」を題材 とした展示「Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素」が、FabCafe Kyotoにて開催されました。怪談師、サウンドアーティスト、そして水と蒸留をコンセプトとするカクテルスタンドという、異色の組み合わせによる作品群が並んだこの展示は、研究者とアーティストとのコラボレーションにより、目には見えない存在を知覚するきっかけをつくる「Sense of the Unseen」プロジェクトの第一弾として展開したものです。

地球温暖化や大気・水質汚染の原因にもなる「窒素問題」をテーマに、3組のクリエイターが作品制作に取り組んだ本プロジェクトは、地球環境問題の解決に向けて文理融合・超学際的な研究に取り組む「総合地球環境学研究所」(以下、地球研)とロフトワークの共創によって実現しました。展示を終えた現在も、AWRDプラットフォームを活用し、様々なクリエイターが参加することができるオープンアーカイブスプロジェクトとして継続しています(『Sense of the Unseen vol.1 怪談と窒素』オープンアーカイブス)。

今回、地球研・教授の林健太郎さんとゲストアーティストとして参加した佐野風史さんをお招きし、ロフトワークプロデューサーの山田富久美とともに、作品制作のプロセスを振り返る座談会を実施。「怪談と窒素」展の開催にいたるまでの過程を辿りながら、参加クリエイターとともに「窒素問題」について議論し続ける、オープンな場としてのプロジェクトの展望を語り合いました。

目に見えない存在からのしっぺ返し…「怪談」と「窒素」の共通性

人間の呼吸と窒素の関係性に着目した「Inhaled and Exhaled - 吸気と呼気 」

ー今回の展示では、ゲストクリエイターとして怪談師の深津さくらさん(おばけ座)、サウンドアーティストの佐野風史さん、カクテルスタンド「フレく」さんの3組が参加されています。どのような経緯で決まったのでしょうか?

山田

目に見えない窒素を表現していただく上で、あえて視覚を使わずに、五感で表現した作品制作をお願いできる方々としてこの3組に依頼しました。今回お越しいただいた佐野さんに関しては、サウンドアーティストとして音とデジタルデバイスを使用した作品を制作されており、聴覚の切り口から窒素問題を表現していただけるのではないかという期待からお声がけさせていただいた経緯があります。とはいえ、まずは窒素というテーマに興味を持ってもらわないと引き受けていただけないと思ったので、窒素という不思議な存在について丁寧に説明させていただいた上で、作品制作を依頼しました。

ー佐野さんは、最初に「怪談と窒素」のテーマを聞いた際に、どのような印象を持ちましたか?

佐野風史さん(以下、佐野)

ご連絡をいただいた時は「窒素…?怪談…?」と疑問だらけだったのが正直なところですが(笑)、窒素と怪談とのつながりについて説明いただき、率直におもしろそうだと感じました。僕はこれまで、「目には見えないものをどのように音で感じることができるか」ということが作品制作の軸にあったので、目には見えないけれど身の回りに存在する窒素というテーマに近しいものを感じたんです。難しいテーマだとは思いましたが、深掘りしてみると興味深い発見ができるかもしれないと感じ、ぜひ参加させてくださいとお答えしました。

キャプション:佐野風史 2000年、京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業(x-Music Lab 所属)。サウンドアートや耳/耳介の機能を背景として、音を中心としたインスタレーションやデバイスの制作を行う。想像と現実を「聴くこと」によってつなぎ、未知なる聴取のフィールドを探索することをテーマにしている。

科学者とアーティストがインスピレーションを与え合う制作プロセス

ー展示までのプロセスを通して印象的だったことはありましたか?

佐野

もともとはひとつのテーマをもとに別々の作品をつくる前提だったと思うんですが、合宿で一晩ともに過ごすことで化学反応が起き、みんなの気持ちがひとつになっていった感覚がありました。初回の合宿時には講義の情報量がとても多くて、どんな作品にすればいいのかと悶々と悩んでいたんですが、林さんや他のクリエイターの方々との対話と通して、窒素のどんなところに注目すればいいのかが定まっていき、アイデアを洗練させていくことができたと思います。

地球研での合宿の様子 photo:Loftwork Inc.


合宿の時間を通じて、クリエイター同士がインスピレーションを与え合い、徐々にコラボレーションが生まれていく過程がとても印象的でしたね。結果的に生まれた3作品は、それぞれ独立したものでありながらも、同じテーマとしてのつながりが生まれているのがおもしろいと思います。展示のレイアウトを決める際にも、それぞれの作品を引き立てながら、いかに関連性を持たせることができるか考えていきました。

山田

私は何度かスポットで参加していたんですが、みなさんの関係性が深まっていくのが目に見えて感じられました。クリエイター同士のコラボレーションが自然発生的に生まれたのは、合宿という形式ならではだったと思います。

ー林先生は長らく専門家として窒素の研究をされてきましたが、今回のようなアーティストとのコラボレーションを通して、研究分野における新たな一面を感じることができると思いますか?

それは大いにあると思います。我々研究者同士は専門用語だけで通じ合ってしまうため、ある意味で同人誌的な視点になってしまいがちで、一般の方に研究分野について伝えようと思うと、書き言葉ではどうしてもすごく長くなってしまいます。アーティストによる表現は、鑑賞者の感性にダイレクトに訴えかけることができますし、我々の研究分野に触れていただくきっかけをつくることができるのを、今回のプロジェクトを通じて感じました。



これはよく研究者同士で話していることなんですが、実はアーティストと科学者は同じ山に上ろうとしていて、辿るルートや登り方が違うだけなんじゃないかと思うんです。まだ解明されていないことに向き合うのが科学者であり、まだ世の中に存在しないことを表現するのがアーティストだと思うので、今回のような機会を通して、一緒に山頂を目指すことの意義を感じることができたのではないかと思っています。

ー佐野さんは今回の制作を振り返っていかがですか?

佐野

普段は旅や生活の中で印象に残ったことを作品制作につなげていくことが多いのですが、今回のプロジェクトでは、研究者の方から普段あたりまえのように触れているはず窒素について知ることで、世界を見る「目」が更新され、それが作品制作につながっていったことがおもしろかったです。これまでは作品をつくる上で自分の身体がセンサーになっていましたが、知識によってそのセンサーそのものが更新されることが作品づくりのきっかけになる経験が新鮮で、今後こういった作品制作にも取り組んでいきたいと思います。

クリエイターによる多様な解釈が生まれていくプロジェクトの可能性

ー展示をご覧になった方々からはどのような反応がありましたか?

展示期間中はほぼ毎日会場にいるようにしていたのですが、さまざまな感想を聞くことができました。とてもおもしろがってくれる方がいれば、さっぱりわからないという方もいて(笑)、いろんな反応が生まれていたのがよかったですね。

「怪談と窒素」というテーマやクリエイターの作品に惹かれて会場に訪れた方の多くは、今回の展示ではじめて窒素問題について触れたと思うので、研究者の間だけに留まりがちな専門的なテーマをひろく問いかける手段として、こういった場をつくることの意義を感じました。ギャラリーではなくFabCafe KYOTOで実施できたことも、カフェを利用するつもりで訪れた方々が思いがけずに作品に触れるきっかけとなり、より多くの方に届けることにつながったと思います。

ー今回の展示を経て、今後の活動への期待をお聞かせください。

先日とある国際会議でウルグアイを訪れた際に、世界でトップクラスの研究仲間に今回の展示のことを話したところ、これはとても良い取り組みだと仰っていました。さらに、300名ほどが参加している窒素問題のメーリングリストでこの展示について報告した際にも、「このアイデアは本当にすごい!」「そうきたか!」といった返信をいただき、手応えを感じています。

「怪談と窒素」は、「見えないもの知覚すること」を意味する「Sense of the Unseen」シリーズの第一弾として位置付けられています。今後さまざまなアプローチの作品を展示するシリーズとして継続していける可能性があると思いますし、クリエイターごとの異なる解釈によってさまざまなアプローチの作品が制作されることで、また別の広がり方が生まれていくことに期待しています。

ウルグアイでの国際会議の様子 Photo: Bill Bealey


山田

今回のプロジェクトは展示だけがゴールではなく、インプットからアウトプットまでのプロセス全体を通して、参加いただいたクリエイターによる多様な解釈が生まれ、作品として表現されたことが重要だったと思います。また、AWRDを利用することで参画の機会をひらき、窒素に関する理解を促す予期せぬ発見や、研究とは異なる分野とのコラボレーションが生まれることにも期待しています。興味が沸いたクリエイターさんには是非参加していただきたいですね。


執筆:堀合俊博

撮影:岡安いつ美

編集:AWRD編集部

関連情報

・【東京巡回展】

『Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素』

好評につき『怪談と窒素』の東京巡回展が決定。「怪談」と「窒素」を題材に、怪談師・サウンドアーティスト・水と蒸留をコンセプトとするカクテルスタンド、異彩な3組のクリエイターと研究者が共創した、3つの作品を展示予定です。

開催日:2024年11月18日(月)〜12月4日(水)

場所:FabCafe Tokyo

〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7 道玄坂ピア 1F

開場時間:10:00〜20:00 入場無料

・【アイデア&作品募集】

『Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素』のオープンアーカイブス

『Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素』では引き続き参加クリエイターを募集中。「みえないもの」や「窒素」をテーマにしたアイデアや作品をご応募いただき、オープンアーカイブスプロジェクトにぜひご参加ください。

募集期間:2025年3月31日(月)まで

応募資格:どなたでもご参加可能です。

応募費用:無料

応募方法:

https://awrd.com/award/sense-o...

※AWRDのユーザー登録が必要です(無料)


執筆:堀合俊博

撮影:岡安いつ美

編集:AWRD編集部

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