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New Rousseau Machine

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本作は、集約ルールが変更されると選択される結果が変わる様子を可視化し、集団の意思決定の困難さと民意とは何かを投げかける。社会における合意形成手法として暗黙化されている多数決を相対化し、投票のルールを設定することもまた技術の選択であり、それは間接的な未来の選択でもありうるという再認識を鑑賞者に促す。これによって、主体的な意思決定への効力感を人々の手に取り戻す。これは硬直化した都市や社会システムに対する「もはや何も変えることはできない」という認知を転回する可能性を持つだろう。

集団でものごとを決める際に使用される方法として多数決がある。まるで集団の意思を表現する最高のツールかのごとく、あらゆる場面で当然のように使われている。しかし3つ以上の選択肢があると問題が発生しうることは一般的には知られていない。集団が望む選択肢が、少し異なる選択肢として分けられてしまった場合、集団としては人気のない選択肢が選ばれる場合がある。

集団の意見を集約するルールは多数決以外にも多く存在し、投票内容は同じでも集約ルールによって採択される選択肢、つまり投票結果は変わりうる。この特性を元に、多層都市「幕張市」プロジェクトで開発している合意形成システムを利用し、集約ルールが集団の運命を変える様を糸で表現した。

本作では架空の行政区「幕張市」の未来について投票を募り、そしてその一つの投票内容に対して、直接民主制(多数決・ボルダルール)/間接民主制(多数決)/液体民主制の四種類の集約ルールを適用した。そしてそれぞれがどのような投票結果になるのかを、公共事業の象徴とも言える工事現場で用いられる素材で構成し可視化した。

これによって投票による「ありうる選択結果」を俯瞰的に眺められるとともに、集約ルールごとの特性を直感的に理解することができる。またこのシステムには、集約結果を投票の適性度としてフィードバックすることも期待される。たとえば集約結果が有意な差を持つものなのか、意思決定にバイアスが作用していなかったか、といった事項を検討し、議論の俎上に乗せることができる。

このように、われわれが未来を選び取るための仕組みは糸のようにか細く、些細なことで変化してしまう。しかしそれは、未来を選択によって変えうることの裏返しでもある。本作は鑑賞者一人一人に、集団意思決定の難しさや、民意とは何かを考えさせ、そして何を選び取るのかを意識させることで、未来へとつながる運命の糸をその手に握らせる。

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