2019年SHIBUYA QWSのオープンと共にスタートした「未知の価値に挑戦するプロジェクト」を推進する公募プログラム『QWSチャレンジ』。自らの感性に基づいた自発的な[問い]を、多様なプレイヤーを巻き込みながら進めていくこのプログラムは、現在20以上のプロジェクトへと広がっています。
今回そのなかから、第一回目のチャレンジで採択されたプロジェクト「Alien in Shibuya」を始動しているヒラタナツキさんに登場いただきました。
オリンピック、さらにその先に向けて変化する「渋谷」のあり方を「宇宙人」を誘致することで改めて捉え直そうとしています。なぜ視点を「宇宙」に向けたのでしょうか?表現者として母として、さまざまな顔を持つ彼女にお話を伺いました。今後は宇宙人をつくりますと言うから驚きです!
ベビーカーだって車椅子と一緒。実はいろんな人が過ごしにくさを感じているのでは?
ー(AWRD編集部、以下略)「Alien in Shibuya」というプロジェクト名を見た時に、なんてキャッチーなんだとおもいました。どこからその発想を?
(ヒラタナツキ、以下略)このプロジェクトは「渋谷に宇宙人を誘致するには?」というテーマで、渋谷の街に宇宙人観光客を誘致できるような環境づくりを行うというものです。
「宇宙人」という常識も言語も全く異なる地球外の生命体が渋谷にきた時に過ごしやすい街になるようバリアフリー基準を作ろうと思いました。
きっかけは、私が子連れ勤務を実践したことです。今まで何も問題なく過ごせていた渋谷がベビーカーを押すことで途端に分かりにくく、心地良さを感じるには難しい街に変わってしまった体験でした。例えば渋谷駅、駅を降りてから目標の出口に行くまですごく時間がかかるんですよ。バリアフリーというと、難しく考えてしまいがちなテーマですが、ベビーカーだって車椅子と一緒で、実はいろんな人が過ごしにくさを感じているんだなって衝撃を受けたんです。
それを乗り越えるために「宇宙人」っていう例えにはなってしまいますけど、キャッチーさを入れてクリエイティブやテクノロジーを使って過ごしやすい街の環境づくりを行い、多様性にオープンな渋谷を目指したいと考えたんです。
チームには色んな領域で活躍しているメンバーが参画しています。ハンディキャップがあったり、異色な感じからまさに「宇宙人みたい」と言われた経験を持つ人などいろいろです。そんなメンバーで「みんなどんな渋谷を作りたい?」って考えたときに、多様性を認められる優しい社会がいいよねってなったんです。
そしたらデザイナーのMITSUMEくんが「じゃあ宇宙人と仲良くなろう」と提案してくれました。そこを起点に、ちょうど今年オリンピックも開催予定ということで「渋谷に宇宙人を誘致するには?」というテーマにして私がプロジェクトリーダーとして、全体のディレクションを担当することになりました。
ー具体的にどんな活動を始めたのですか?
まずはバリアフリーについて、どんな障壁を解消するためのサービスがあるのかリサーチを行いました。リサーチを進めていくと、車椅子の人が投稿する車椅子マップやVR、ARなどを使ったマップ、視覚障がいの有無に関わらず、同じ情報を一緒に読むことのできる「Braille Neue(ブレイルノイエ)」という点字、最先端テクノロジーでハンディキャップをサポートする研究を行う施設など、本当にいろいろとありました。それらを体験していくなかで行動を阻む壁はテクノロジーによって既に解消されつつあるんだなと感じました。それをみんな知らないだけなんだと。
さらに活動を続けていくと「こういうの見つけたよ、こういうテクノロジーもあるんだよ」って、どんどんみんなが情報を教えてくれるようになったんです。そのなかでハンディキャップがある人もみんなで楽しめるクラブイベント「ソーシャルファンク」の存在を知ったんです。
イベントに行ってみてショックを受けました。そこでは聴覚障がいの方がDJが取るリズムを見ながら音楽を楽しんでいたり、車椅子の人やハンディキャップのある人がチームでパフォーマンスをしていたり、みんな普通に楽しんでいたんです。
ライブ会場って、車椅子席って決まっているんですよね。でも「ソーシャルファンク」では、その境界を超えて自由に行き来している。ハンディキャップがある人に気を遣っていない。なにか困っている時は「手伝おうか?」と気軽に声をかけている光景がありました。
そっか、みんな普通だよねって。実際メガネがないと生活できないくらいの視力の人も、メガネがあるから支障なく生活できますよね。ハンディキャップって、それくらいラフで重たさがないものなんでは?と。てことは、みんな普通に外へ、渋谷に遊びに行きたいよね、と思ったんです。
本当に生物学上に基づいた宇宙人を作ろうと、生物学者の先生と宇宙人のキャラクターをつくっています
そこから当初のプロジェクトの最終アウトプットも変えようと思いました。初めは、宇宙人のために言葉が不要な映像や看板作りを考えていたのですが、今はクラブのイベントにしちゃおうかと思っています。その時に展示だったり、プロトタイプを置こうと考えています。
あとは、「宇宙人」と言いつつフィクションのままだと面白くないから、生物学上に基づいた「宇宙人」を作ろうと、生物学者の先生と一緒に生物として可能性のある宇宙人のキャラクターを今作っています。
ー えー!どういうことですか?
例えば、「ヒドラ」っていう生物がいるんですが、見た目は地球外生命体っぽいんですけど、地球上の生物で池とか水辺に生息していているどこにでもいる生き物なんです。
それを宇宙人にしようとしています。ヒドラはすごい生命力が強いんですけど、自分で歩けないんです。きっとこれは車椅子の人と同じでは?じゃあ、歩けるようにキャタピラ付きのマシンをつければいいって。生物が持つハンディキャップの解決策はこれだねっていうのを考えて、今いろいろまとめています。
さらに、この「宇宙人」が渋谷に来ることを想定すると、目が見えないと困るから「先生、目付けたいんですけど」って言った時に、「神経がないと目を付けられないから難しいね」となったんですけど、「どうしても目をつけたいんです!」ってめげすにまた相談しました。そしたら「それはちょっと生物学的にあり得ないから、目に似た別のものにしよう」となって、光合成を感知する葉緑体が肥大したものに変更して実現できることになりました。
このようにプロジェクトを通して、物理学者や科学者などいろいろ出会う機会があるのですが、いっぱいテクノロジーってあるのに、それが広がっていないなと感じました。
なのでプロジェクトを通してテクノロジーや生物学者が研究しているテーマも紹介したいと考えています。今は自分で新しく何かを作るというよりは、研究者の知識を借りて、発掘されていないものを集めたり、再構築しています。
キャッチーにすると難しいことでもみんな見てくれる。そこに学術的なエッセンスを入れています。
― ベビーカーでの不便さを起点に今では宇宙人づくりへ。どんどん壮大になっていきますね。ヒラタさんは一体何者なのでしょうか?
スタートはパフォーマーでした。大学生3年生くらいの時からクラブでダンスのパフォーマーとしての活動を始め、そこからショーパブだったり、蜷川実花さんが主催するクラブイベントに出演したり、ロボットレストランの立ち上げにも参画しました。ロボレスでは、パフォーマー兼SNS広報、文化服装学院出身だったので、衣装制作のアドバイスもしていました。
その一方でアーティストとして制作活動もしていたので、作品展をプライベートでやっていました。その時に宇田川カフェを手がける株式会社エル・ディー・アンド・ケイの社長の目に留まり、カフェの内装デザインを手掛けない?とお声がけいただいて、初めて店舗デザインをやらせていただいたのが渋谷の「Flamingo café」です。
今はフリーランスでディレクターをしているのですが、思っていた以上に育児と仕事とプロジェクトも進めながらだとフレキシブルに動けないと感じて、今年の1月に何社が契約を終わらせていただき、このプロジェクトのコンテンツ化とエンタメ化のスピードアップをはかってます。
ー 表現者として母として、さまざまな顔をお持ちのヒラタさんですが、アイデアを具現化するために大切にしていることはなんですか?
固定概念をなるべく持たないようにする。新しいものを取り入れるっていうのを心がけています。実は小さい頃はそれが苦手だったんです。得意なものしかやらなくて。失敗するのが怖かったり、新しいものを取り入れるのが面倒臭かったりしたんです。
でも大学生の時にクラブイベントで、初めて自分で同性愛者とカミングアウトしている方に会って一変しました。「僕はゲイだよ」って。テレビの中だったり、物語の中では知っているけど、カミングアウトしている人に会ったことがなくて、未知の生物感があったんですね。でもそれって、同性愛っていう面で苦労されていることも多いけど、普通に恋愛をすることだし「なんだ、普通なんだな」って思ったんです。勝手に異色なものと決めつけてたっていうのが、自分でもショックでした。それってダメだなって思ってから、固定観念をなるべく持たずにどんどん頭の中をアップデートしていこうと思いました。
今回も多様性にオープンな渋谷を目指していますが、多様性を受け入れるっていう言い方もすごい上から目線だなと思うんですよ。多様性を普通だと感じるには、固定概念を捨てることだと思ったんです。
あとはキャッチーにすることかな。キャッチーにすると難しいことでもみんな見てくれる。そこへ学術的なエッセンスをさらに入れてます。例えばウルトラマンも生物学者と一緒にキャラクターづくりをしてるんですよ。他にはファッションだったり、アニメも研究に基づいてつくられているケースがいっぱいあるんです。
「Flamingo café」の店づくりもそうでした。お客さんの目線の位置とかもすごい考えているんです。お店に入って初めて目に留まるのはここで、その後に目線が流れるからデザインはこうしようと。色については、印象を残す色はテーマカラー全体の60%にして、そのうちの差し色を30%入れて、その間のスパイスになるのを10−5%で入れる、というように全部、心理学的根拠に基づいて設計しているんです。ちなみに胸元に入れてるタトゥーも、位置や色はかなり計算しています。他にもいっぱい入ってるんですけど。笑
―その計算はプロジェクトにも反映されているのですか?
コピーめちゃくちゃ悩みました。バイリンガルで展開することを考えると、「誘致」は、英語にしたら「Invitation」でちょっと面白味がないなとか。「宇宙人」も日本語でエイリアンにするか、すごい悩みました。「宇宙人」だと文字数が3文字だなとか、文字数的なことやSEO的に、「宇宙人」の方が検索件数が多いなとか、かなり考えてつけています。
ー ヒラタさんのお話をうかがって私自身も勝手な固定観念を持っていることに気づかされました。最後に、これからのチャレンジャーに向けて、アワードに応募するときのアドバイスやメッセージをお願いします。
チャレンジしようか迷っている人。それだけで勝ち組だよ、とは思います。
参加しない人は、いつまで経っても参加しない。逆に参加する人はガンガン中に入って発信していく。参加するしないの時点である程度ふるいに掛けられていると思います。正直ハードルが下がってチャレンジしやすくなったとしても、結局何もやらない人って、何もやらないままなんじゃないかと思います。
QWSチャレンジも「未知の価値に挑戦するプロジェクト」というちょっとハードルの高い挑戦になると思いますが、その中に入れば思いっきり走れるようになれるし、そんな人たちにたくさん会えるんです。「あなたは会いますか?会いませんか?あなたどっちですか?」っていうスタンスでいいんじゃないかな。最終的には本人の選択ですが、でもどっちかを選択することによって生き方が変わってくるかもしれません。まずは「QWSチャレンジ」に応募して一緒に駆け抜けましょう!
インタビュー撮影:八田政玄
■プロフィール
ヒラタナツキ
フリーのアートディレクター。代表作は裏渋谷のFlamingo cafeなど。ジャンルは内装から撮影、企画、ジュエリーまで多岐にわたる。ハイテクとアートを組み合わせた表現方法を日々模索。藤巻百貨店や宇田川カフェなどのクリエイティブも担当している。
■プロジェクト
Alien in Shibuya:
https://shibuya-qws.com/project/alien-in-shibuya
Note :https://note.com/aliens_on_earth
【募集中のプロジェジェクト】
■QWSチャレンジ#3
公募により採択されたチームは渋谷駅直結のプロジェクトスペースが無料で利用可能です。自らの感性に基づいた自発的な[問い]を持ち、多様なプレイヤーを巻き込みながら進めることができる内容であれば、分野や規模に制限はありません。未完成歓迎です。
[問い]を起点にプロジェクトを立ち上げたい人。プロジェクトチームの活動拠点を探している人。多様な人々が集まる渋谷で、プロジェクトの更なる可能性を試したい人。などに、オススメのプログラムです。
募集テーマ : 越境する[問い]
募集期間:2020年1月8日(水)〜2020年3月31日(火)23:59(日本時間)
https://awrd.com/award/qws03