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本田篤司さんの「地域で生きる」パッケージデザイン

2015/04/09(木)

インタビュー

これまで、AWRDでは「パッケージ」を題材として、2つの大規模なリデザインプロジェクトに取り組んできました。

ひとつめのプロジェクト「Roooots 名産品リデザインプロジェクト」では、国際芸術祭の開催をきっかけに地元のさまざまな名産品のパッケージをリデザインしました。もうひとつが、デザインを通じて石垣島の魅力を再発見する「USIO Design Project」。いずれも地域に根ざしたプロジェクトで、デザインコンペによって選出されたデザインがデザイナーとメーカーとの協働を経て商品化されました。

その中でわたしたちが出会ったのが、グラフィックデザイナーの本田篤司(ほんだ・あつし)さんです。和文タイポグラフィを活かした真摯なデザインが、審査を務めた佐藤卓さん(2009年『Roooots 越後妻有の名産品リデザインプロジェクト』審査員)や遠山正道さん(2013年『USIO Design Project』審査員)といった方々から高く評価されてきました。

土地と作り手の物語を編みなおす

「Roooots」と「USIO」2つのプロジェクトに共通する課題は、名産品の背景にある地域や作り手のストーリーをデザインによって伝え、商品自体の価値を高めること。デザインによって、より多くの人に地域とその商品に関心を持ってもらうことでした。

2つのプロジェクトで3つのパッケージリニューアルを実現し、成果を残してきた本田さん。今回、それぞれのパッケージが生まれた背景と、そこに込められた狙いや思いについて伺ってみました。

(編集/岩崎)

「こしらえる」をタイポグラフィで表現『妻有そば』

ひとつめは、「Roooots」プロジェクトで本田さんが手がけた『妻有そば』。真っ白なパッケージにまるで踊っているような明朝のタイポグラフィと黒い線が映えます。このシンプルかつ楽しいパッケージは、発売後に売上が10倍以上に伸びた、まさにリデザインのお手本のような事例でした。

新潟県内産のそばの実を生産者自らが石臼挽きしていること、地元特有の「布海苔」をつなぎに使ったそばであることが製品の特徴です。

ー(AWRD編集部、以下略)『妻有そば』は、リデザイン後に売上が10倍に伸びた大ヒット商品でした。商品化後の反響など、ご自身の実感としてはいかがでしたか?

(本田篤司、以下略)2年ぐらい前にプライベートで大地の芸術祭に行ったんです。そのとき夜に宿泊していた宿からコンビニへ行ったんですが、「妻有そば」が置いてありびっくりしました(笑)。

あとは、当時、ガイドブックやデザイン系の書籍にも商品が掲載されてるのを見て、盛り上がってる印象はかなり感じました。


ー『妻有そば』の特徴的な文字はどのような経緯で出来上がったのですか?

生産者の方の手でそばを「こしらえる」感じを表したくて。デザインで「手触り感」が出せれば、妻有そばのトーンを表現できるんじゃないかなと。そこで、『妻有そば』の文字は既存の書体を打ちっぱなしにするのではなく、商品の文字を一文字ずついろんな字種から分解し、つなぎ合わせて作字しました。

余談ですが、あの頃はまだパッケージデザインを経験したことがほとんど無くて。指定の印刷会社さんから送られてきた、まっさらなパッケージ見本を自分で組み立ててみたんです。

トムソン(紙にミシン目や折りスジを入れたり、凸凹を付ける加工)の折り筋って山と谷になってるんですね。で、その通り折ったら裏返しで箱が出来上がり…びっくりして、印刷会社さんに「指定と違う」と電話してしまいました。

実際は、自分が折り筋を折った方向が山と谷で逆だったんです。今なら当たり前のことだからわかるんですけれど。あの2009年のRoootsと2014年のUSIO Projectでは、気持ちの余裕が全然違いましたね。

伝えたいことすべてをシンボルに『玄米乳』

ふたつめは、USIOプロジェクトを通じてリデザインされた『玄米乳』。玄米と黒糖が原料の手作り健康ドリンクで、50年以上地元の人々に愛され続けてきました。

石垣島の海とサトウキビ、玄米の稲穂、八重山諸島が品よく収まったシンボリックなグラフィックは、瓶の表面に1色プリントという制約条件下で生まれたデザイン。地域密着型の製品らしい素朴さ・親しみやすさを残しつつ、都市の感性にも響く洗練されたデザインが高い評価を得て商品化に至りました。>>『玄米乳』についてくわしく見る

ー玄米乳は、コンペ当時は様々なトーンの応募作品がありましたが、審査の結果、本田さんの作品の素朴さと高級感の両方を備えた作品が評価されました。ご自身がデザインにこめた狙い、メッセージを教えて下さい。

制作過程で、玄米乳の商品そのものと石垣島という場所、両方のシズル感、魅力を伝えたいと考えました。伝えたいことがたくさんあり、すべてを表現したかったんです。最終的に線画やテキストで一塊のシンボルマーク兼、商品ロゴとしてまとめました。

手に取ってもらう商品なので、細かな完成度はすごく意識しました。本当にもう、線を0.1mm動かしたり、次の日には戻したりとか (笑)。若い層の方々にも手に取ってもらえるようなものを目指しました。

当初想定していたプランから、石垣島訪問、実製作の過程で印刷色やビジュアルの要素など幾つかブラッシュアップ点がありました。デザイン刷新のポイントを教えて下さい。

やはり、実際に生産者の方を訪問したことは大きかったです。デザインの考え方自体が大きく変わったわけではありませんが、生産者の方の熱い思いを聞くにつけ、細かな部分を変えていきたいと感じました。

例えば、当初は硝子瓶の形状が今の商品より細身でスマートな形をしていたのですが、実際の生産者の方の雰囲気を感じると、もう少し丸みのある形状でやわらかさを表現したほうがいいなと。そういう経緯で、いくつかブラッシュした点がありました。

USIO Project では、石垣島の訪問時に他のデザイナーのみなさんと寝食を共にしながら旅をしていただきましたが、いかがでしたか?

かなり新鮮でした。普段、デザインについては社内のアートディレクターと話すだけなので、プロジェクトに参加したデザイナー同士で感じてる事などを話せたのは楽しかったです。

また、訪問後もSNSを通してお互いの進捗や行程が見えるので、尻をたたかれる気分になったり、情報交換もできたり。みんなで訪問したのは良かったと思います。


>>USIO Design Project 本田さんのレポートはこちら


ーこれからのお仕事・活動の方向性、やってみたいことを教えて下さい。

これからもグラフィックの領域でがんばりつつ、やったことが無い領域のデザインも挑戦していきたいです。特に建築物のサイン計画や、文芸やミステリー等のハードカバー書籍の装丁などに興味があります。

商品とともに長く生き続けるデザイン

本田さんが『妻有そば』を手がけたのは、2009年。今も越後妻有のおみやげ屋さんの店頭で、人気商品として旅行者を中心に愛され続けています。さらに、都市部の百貨店で開催される大規模な催事への出展にも『妻有そば』が選ばれました。

賞味期限がたった1日だけだった『玄米乳』は、近々封入方法を刷新して賞味期限を延長できるようになり、遠方にも輸送可能となります。都市部における販路拡大に向け、これから本田さんのデザインが真価を発揮します。

誠実につくられた名産品と真摯なデザインとの幸せな出会いが産んだ、2つのパッケージ。これからも長く愛されつづけることを願ってやみません。

Profile:

本田篤司
グラフィックデザイナー。京都府生まれ。現在大阪在住。sekilala名義でグラフィックデザインの領域で活動中。
Website → http://www.sekilala-design.com
Portfolio → http://www.awrd.com/portfolios/atsushihonda 

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