「視小説」という異空間に繰り広げられる摩訶不思議なイラストレーション・シリーズを描く、斉木 晃さん。
幾何学的な造形物、ときにたいやきやサーカスといった多様なモチーフやキャラクターが登場し独特の雰囲気を醸し出しています。また、斉木さんは浮世絵の多色刷りをデジタルプリンターに置き換えて印刷を重ねる、アナログとデジタルを組み合わせた版画技法で制作しています。斉木さんの作品には、どのような意図や思いが込められているのでしょう。
ー(AWRD編集部、以下略)斉木さんの作品「視小説」シリーズは、まるで夢の世界のような不可思議な世界が描かれていますね。これまで影響を受けた作家やアーティストはいらっしゃいますか?
( 斉木晃、以下略)私の創作面における三大ルーツは、
1.チャップリンのサイレント映画
2.安部公房の小説
3.デ・キリコの形而上絵画
それぞれジャンルは違いますが、人の世の不条理を見抜く鋭い視点と抜群のユーモアという点で三人は共通しています。職人的な部分も似ている気がしています。
美術に限れば、他にオディロン・ルドン、アンリ・ルソー、マックス・エルンスト、パウル・クレー、葛飾北斎、安藤広重、東洲斎写楽、田河水泡も好きです。
一斉木さんの作品には、たい焼きや木馬など、一見、脈絡のなさそうなさまざまなモチーフが多く登場していますが、どのような意図でモチーフを決めていらっしゃるのですか?
直感的に使えそうなモチーフは何でも取り入れます。何となく思いついた形のスケッチから作品が発展していく場合もあるし、人物の仕草からイメージが膨らんでいく場合も多いです。
重要なのは個々のモチーフの組み合わせが醸し出す情緒や空気感であり、意味内容はちょっとした隠し味程度のものです。観る人が内容を自由に付け加えられる受け皿として機能するのが理想でしょう。
一なるほど、鑑賞者が自由に拡張できるのが、「視小説」シリーズのおもしろさですね。最近、刺激を受けた作品などはありますか?
去年読んだ、ガッダというイタリアの作家が書いた短編小説集『アダルジーザ』は大変面白かったです。
20世紀初頭のミラノの街にまつわる百科全書的知識を物語のなかに詰め込もうとするあまり、本編の小説より欄外註の方が長くなるという破格な内容の本ですが、そんな無謀とも言える試みに研究者みたいな緻密さと冷徹さで臨んでいる。これもシュルレアリスムに通じる姿勢ではないでしょうか。
ー欄外註の方が長い小説…どんな物語なのか、気になります!最後に、創作活動のなかで今表現したいことを教えてください。
去年の夏頃にふと思いついたコンセプトがあって、「これらの絵に描かれていることはある同じ日、同じ時刻に一斉に起きた出来事で、その一瞬に起きうることをすべて描く」というものです。
現代文学の手法からヒントを得た実現不可能な一種の妄想ですが、コンピュータを使って制作するなかで自然に生まれてきた面白いアイデアだと思っています。
ーコンセプトを聞いてから改めて斉木さんの作品を見返すと、また新しい視点から楽しめそうです。斉木さん、ありがとうございました!
Profile:
斉木 晃 / 画家
1973年 神奈川県生まれ。専修大学文学部卒業。HB GALLERY FILE COMPETITION VOL.18で中條正義特別賞、幻冬舎PONTOON ”装画” コンペティションVOL.2 準入賞を受賞。その後もデザイン・フェスタや版画展2015に出展するなど、活動の幅を広げている。
Portfolio: http://awrd.com/portfolios/8matanas
Website: http://akirasaiki.tumblr.com/