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Interview:世界への扉を開いたカラフル&ポップなクラフトアート/水島ひね

2017/06/15(木)

インタビュー

カナダ・バンクーバーを拠点に世界で活躍するクラフトアーティスト・水島ひねさんがフェルトで作る生き物たちは、どれも愛嬌たっぷりでまるで生きているかのよう。ナメクジやムカデなどぎょっとするような不気味な生き物も、ひねさんの手にかかるとカラフルな色使いや表情によって、かわいく魅力的に見えるから不思議です。

国内外を問わず大人気のひねさんですが、実は意外なきっかけからクラフトアートを作り始めました。常にものづくりに対してポジティブかつエネルギッシュにチャンレジしているひねさんに、クラフトアートへの情熱や、自身の感性が生み出す世界観について伺いました。

ー(AWRD編集部、以下略)どんなきっかけで、クラフトアートを始められたんですか?

(水島ひね、以下略)10年前にバンクーバーに引越してくるまでは、グリーティングカードの制作などが中心のしがないイラストレーターでした。

ある時、gifアニメのアイコンを作ってみたくて、つくり方をネット検索していた時に、たまたま「iMovieとデジカメを使った、ストップモーションアニメーションの作り方」という記事をみつけました。かんたんでおもしろそうだったので、部屋にあるものを使って、当時から大ファンだった『They Might Be Giants』というNY出身のバンドのパロディミュージックビデオを作ってみました。いま見ると相当下手だと思うのですが、動かないものが動いて見えることがとても新鮮で、作るのが楽しかったんです。

せっかく出来上がったので、バンドやそのファンの人たちに見て欲しくて、彼らのMyspaceのメッセージからビデオのリンクを送りました。すると数日後、なんとバンドメンバーご本人から「一緒にビデオの仕事をしよう!」とメッセージが届いたのです! 嬉しいを通り越してビビりすぎて死ぬかと思いました!

その後、彼らの2本目のミュージックビデオ制作では、羊毛フェルトでパペットを作ることになったので、またネットで作り方を検索して、日本から取り寄せた材料で蟻やタコを作りました。これも相当下手だったのですが、羊毛フェルトが思っていたよりかんたんでおもしろかったので、その後どんどんはまっていきました。

これがクラフトアートを始めたきっかけになり、続けているうちに自然に今のようなスタイルになりました。もしも「ストップモーションアニメーションの作り方」の記事に出会ってなければ『They Might Be Giants』のミュージックビデオも作っていなかったし、羊毛フェルトで立体も作っていなかったので、人生何が起こるかわかりませんね。

《With the Dark (They Might Be Giants’ official music video)》

ーひねさんの世界観がうまれる過程で、インスパイアを受けたものがあれば教えてください。

やはり一番は『They Might Be Giants』の音楽で、彼らのどこか気の抜けたユーモアをふくんだアート哲学のようなものに刺激を受けてきました。

あと、自然史博物館の世界が昔から好きです。学術的な知識はないのですが、博物館の古生代や宇宙や生物の模型やジオラマにうっとりします。50〜70年代くらいのレトロな文化やサイエンスモチーフからも、いろいろ影響を受けてると思います。


ーひねさんの作品には、海の生き物、とくにタコやイカなどの軟体動物や昆虫をモチーフにしたキャラクターが多いですが、これらのいきものの魅力はなんですか?

イカとタコは見た目が可愛くてかっこいいので、単純にルックスが好きです。

実は、ムカデやナメクジ、イモムシ、貝の内側、キノコの笠の裏などは、作っておいてアレなんですが、実物はどれもかなり苦手なんです。でもこれらのものが、人の手を介して平面や立体などの制作物になったときに、すごく惹かれます。なぜそうなのか分からないのですが、好きと嫌いが背中合わせになっているような感じです。

犬とか猫のような普通に可愛いものもいいのですが、私はどちらかというと多少毒のあるイメージのものの方が、作りたくなってしまうんです。

《タコと紋章》

ー昆虫やきのこのヒダヒダが苦手というのは意外でした!でも、どれもひねさんの作品だとかわいくてポップに見えますね。制作していて「おもしろい」と感じるときや、「むずかしい」と思うことはどんなところですか?

おもしろいことは、制作中に試行錯誤しているなかで、良いアイデアがぽっと出てきてうっかり上手く作れてしまった時ですね。あと、作品を撮影する時に、制作中とは違った雰囲気の写真が撮れる時も愉快です。

じつは、羊毛フェルトは、刺し過ぎで一度肩を壊してしまったのでしばらく遠ざかっていいるんです。代わりに数年前から主にフェルト生地を縫って作品を制作しています。独学で型紙を制作しているので、自分のおもったとおりの形を立体化するのが難しいです。羊毛フェルトだと粘土のように足したり引いたりして形を作っていけたのですが、フェルトだとそうもいかないので、なかなかもどかしいですね。


ーゼロから型紙を作るのってすごく難しそうです。作品のアイデアは、どんなときに思いつきますか?

私の場合、ある素材を使うために作品を作ることが、たびたびあります。例えば、おもしろそうな木や紙の箱、試験管やシャーレなどの入れ物、変わった毛糸やきれいな色のポンポントリムなどの素材を見つけると、それを使って何か作れないかと考えます。

なので、クラフト材料屋さんに行くと端から端まで見て廻りたくなってしまいます。あと、自分にとってのかっこよくてかわいい変な生物を見ると作ってみたくなりますが、なかなか技術が追いつかないことも・・・。


《Bicorn Beetle》

ーひねさんの作品はにぎやかでありつつも、モチーフや構図、色使いが緻密に計算されているように見えます。配色・レイアウトで気をつけているポイントがあれば、教えてください。

すみません、まったく緻密に計算してません(笑)。「色と色の組み合わせ」が大好きなので、この辺りは単に「気持ちいい」とか「好き」とか言った完全に感覚的なものです。レイアウトもたぶん同じかもしれません。

逆に、色の組み合わせが好みのものにならないと、ちっとも先に進めなくなってしまいます。


ーひねさんによって作られたキャラクターは、どれも今にも動き出しそうで生きているみたいです。 ひとつひとつのキャラクターに設定などありますか? また、キャラクターに命を吹き込むための工夫点などありますか?

ありがとうございます!特にキャラクターに設定はなくて、制作中や撮影中に勝手にキャラクター性が生まれてきます。

キャラクターにちょっとしたポーズをとらせたり、何かを持たせることで、性格や物語が出てくることもあります。乙女人形の場合は、ちょっと小首をかしげさせるとグッとかわいさが出てきます。

《Shelly and The Shells》

ーひねさんの世界観がどんなプロセスで作られていくのか気になります! よければ、かんたんに制作の手順を教えてもらえませんか?

フェルト作品の場合は、まずスケッチブックに作りたいテーマやキーワードを書き出します。

テーマが決まったら、何の生物を作るか、どうゆう見せ方にしたいか(壁に掛けるか、土台に置くか、箱に入れるか等)を思いつくままに簡単なラフを描いていきます。生物の資料もたくさん見て、作りたいものの名前も書き出します。

簡単なデザインと見せ方がまとまったら、フェルトの色合いを決め、細部は決めず基本の形を作っていきます。この時、大雑把な試作を作る時もあります。面白いアイデアや細部は、作りながらどんどん足していきます。

完成後、撮影に入りますが、立体作品なので写真はいろんな角度から沢山撮ります。板付きや容器入り作品の場合は、生物単独ヴァージョンも撮影します。後でポートフォリオやポスター&ポストカード印刷用にも利用できるからです。

その後、PhotoshopなどのPCソフトを使って、写真の色味や彩度の調整をします。


ー作品をつくる上で 「これだけは手放せない」という道具があったら、教えてください。

  • 厚地フェルト用のはさみと、カットワーク用のはさみ

それぞれの素材・用途に合ったはさみを使うと作業がしやすいです。カットワーク用はさみは小さくて先が尖っていて、糸切りや細かい作業にとても向いています。他に、生地用や紙用など合計5本のはさみを使い分けています。

  • ほつれ止め液(ボトルタイプ)

毛糸を素材として使うようになってから、よく使うようになりました。結びめや切りっぱなしのところがほつれて欲しくない時にこれを1〜2滴垂らしておくと安心です。

  • クラフト用ボンド

本当は手縫いしたいけれど、でもそうすると見た目が美しくないという場合に、布やフェルトに浸み込まない強い接着力の専用ボンドが重宝します。


《タコ楽団》

ー今後の制作活動の中で、チャレンジしたいことがあれば教えてください。

今年に入ってからハマった手織りをもっとやってみたいです。今持っている簡易卓上織り機は小さいので、中くらいのサイズのものや、丸いのも試してみたいです。

実は編み物はちょっとしかできないので、ちゃんと勉強して棒編みもかぎ針編みもいろいろ編めるようになりたいです。手紡ぎ糸作りにも挑戦してみたいです。

それから、下記リンクのようなジオラマ写真作品は今後もっともっと作っていきたいと思っています。お仕事募集中です!

http://www.hinemizushima.com/deep-sea-diorama

http://www.hinemizushima.com/cephalopod-anatomy-class


《Cephalopod Anatomy Class》

ーひねさん自身が、とても楽しんで作品制作に取り組んでいることが伝わりました。どうもありがとうございました!

Profile:

水島ひね
スロークラフター、イラストレーター、ミニチュアコラージュアーティスト、パペットコマ撮りアニメーションアーティスト
東京でイラストレーター/デザイナーとして勤務後、ローマ、パリ、NYに移り住み、10年前からカナダのバンクーバー在住。フェルトスカルプチャー作品は、アメリカや日本のギャラリーで展示・販売。米Adobe Creative Cloudイベント用の作品を製作するなど、国内外問わず様々なシーンで活躍している。

Website:http://hinemizushima.com/projects
http://www.awrd.com/portfolios/hine

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