スイス出身のジュリアン・ウルフさん。日本国内やスイスをはじめ、さまざまな地域で活躍するグラフィックデザイナーです。
ロゴやUIデザインまでもこなすジュリアンさんは、じっくり考えられたプロセスを磨きこみ、シンプルながら記憶に残るアウトプットを生み出しています。
そんなマルチに活躍されている彼を知るきっかけとなったのが、2013年に開催されたアワード「一万人のクリエイターミーツ PASS THE BATON」でした。
デザインを心から楽しんでいるのが伝わってくる作品を見て、アワードに参加されてたきっかけや制作の背景、さらにはライフワークとして活動されているプロジェクトについて語っていただきました。
ー編集部(以下略): ジュリアンさんは現在、日本国内やヨーロッパの様々なシーンでイラストレーションやグラフィックデザインを手がけていらっしゃいます。デザイナーとして活動を始めたきっかけを教えてください。
ジュリアンさん(以下略): 幼少期から絵を描くのが好きで、両親が背中を押してくれたこともあり、僕の地元であるスイスのデザイン学校に通い始めたことがきっかけです。
入学当時は「グラフィックデザイン」がどんなものかぼんやりとしか分かっていなかったんですが、実際に学ぶことでデザインについて学び、本格的にのめり込みました。
ーデザイン学校を卒業後、グラフィックデザイナーとしてのキャリアが始まったんですね。
学生時代からすでにデザイン会社で働いていたので、キャリアは卒業前から積んでいました。スイスでは一週間のうち3日は授業を受けて、残り4日は仕事に行くようなことが出来るんです。
卒業後はベルリンの大手広告代理店でインターン経験をしたり、アメリカに短期留学するなど色んな国で経験を積みました。スイスに帰国後は、UIデザインやブランディングデザインの仕事も経験しました。
ー沢山のジャンルの仕事を経験されてますね!いまは日本でデザイナーとしての活動をされていますが、なぜ日本で暮らそうと思ったんでしょう?
日本のデザインやアートに興味があって来日しました。日本の怪獣とかよく法被に印刷されている籠字など、日本特有の表現が好きなんです。今も街中や食べ物など、色んな場所を見て回って制作のアイデアを探しています。
最近は「千社札」に興味をもって、図書館で本を借りて調べました。
ー千社札・・?
神社の柱などに貼られている、ステッカーのようなお札です。参拝に来た人たちが記念に貼って行くものですが、一般の人はほとんど気に留めずに通り過ぎていますよね。でもそのなかには、200年前くらいに貼って今も残っている、歴史あるお札もあったりするんです。
最近、街中ではステッカーを使ったストリートアートやグラフィティが増えていますが、そのルーツのようにも思えて面白いなと感じました。許可を得ていない点では、千社札とは違いますけどね!
ー生まれてから今までずっと日本で暮らしていますが、初めて知りました...。
スイスと日本では文化やデザイン自体の違いなどが多くありそうですね。戸惑った体験などはありましたか?
最初は言語の壁には苦労したものの、生活や文化の違いはあまり感じませんでした。スイスと日本の文化は、細かいことに気を使う部分やパーソナリティが少し似ているからかもしれないです。
ただひとつ、日本のビジネススタイルにはびっくりしました!ヨーロッパでも名刺交換はしますが、日本ほど形式的ではないので。
アワードを通して学ぶ、異文化ビジネスマナー
ー『一万人のクリエイターミーツ PASS THE BATON』でアイデアが採用されていますが、アワード参加のきっかけを教えてください。
実はアワードというものに参加するのが生まれてはじめてだったんです。言葉の不安もありましたが、内容を知った時にすぐにアイデアが思い浮かんだので挑戦してみました。なのでアイデアが採用されたと知ってとても嬉しかったです。
当時、私はまだ日本のデザイナーとして新入りだったので、日本での実績としてみせるプロジェクトができて良い経験になりました。参加して本当によかったと思っています。
またこのプロジェクトを通じて、挨拶時の名刺の渡し方など、日本でのビジネスの動き方やプロジェクトの進行の仕方も学ぶことができ、大きな経験となりました。
ーそういった視点での学びもあるんですね。今後はどんなアワードに参加してみたいですか?
普段から色んなアイデアをストックしておいて、良い案が思いつくアワードがあったら積極的に参加してみたいです。『一万人のクリエイターミーツ PASS THE BATON』の時はプロダクトデザインの参加だったので、次回はグラフィックデザインのコンテストに挑戦してみたいです。
ー初参加で初採用とはすごいですね。制作につながるアイデアはどうやって思いつくんでしょう?
普段から街やお店や食べ物など、色んなものからインスピレーションを受けています。アイデア探しのアンテナは常に立っていて、思いついたらメモ帳に記録しています。
仕事でグラフィックデザインやロゴを制作する時は、思い浮かんだイメージをひたすらノートにかきこんで形にしていきます。クライアントにプロセスを説明する時に、そのノートを見せたりもします。
デザインに大事なものは、ハートと楽しむこと!
ー アワード以外で日本で始めた活動があるとうかがいました。
今も続いているプロジェクトですが「Yamanote Yamanote」です。僕と同じ、日本在住でスイス人のグラフィックデザイナーであるジュリアン・メルシーさんと、2年前から山手線各駅のポスターをひとつずつ制作しているんですが、初めての個人プロジェクトなので赤ちゃんを育てるみたいな気持ちでやっています。
プロジェクト進行中、中国の企画展の方が、スイス人が漢字やひらがなを使ってポスターを制作していることに興味を持って声をかけてくれて、その企画展に参加したりもしました。
まだ未着手の駅が半分くらい残っているので、ひと月に1枚のペースで今も制作しています。
駅のポスターを作るまえに、その場所をぶらぶらしてリサーチするんですが、新橋は『中銀カプセルタワー』がすごく印象に残りました。カプセルタワーの外見がチーズにしか見えなくて、スイスのチーズが恋しくなってしまったんです。そんな思いをデザインに落し込みました。
僕は、デザインはプロセスや意味を持つことがとても重要だと思っています。例えば恵比寿のポスターは『エビスビール』のイメージと、個人的に印象に残った居酒屋をイメージして制作しました。逆さになっている椅子は、酔っぱらいの不安定さを表現しています。
ー はじめてのことに意欲的に参加されいて素敵です!これからアワードやコンテストに参加するクリエイターたちへ一言おねがいします
コンテストに参加することは、多くの人にとってよい経験になると思います。クライアント制作以外の個人活動に目を向けることができるし、コンテストを交えて色んな人と交流をするきっかけに繋がります。
自分が「このアイデアで行ける!」と思ったら、自分を信じて挑戦してみてほしいです。コンテストに挑戦することで一番大事なのは、信じる気持ちと、制作を楽しむ気持ちです!
ー自分自身を信じる気持ちは、コンテスト参加の第一歩としていちばん大事かもしれませんね。
私もたまに絵をかいたりものづくりをするんですが、シンプルなロゴから遊び心溢れるポスターまで手がけるジュリアンさんのデザインの引き出しの多さに、目がキラキラしてしまいました!
様々なプリントテクニックを試したり靴のデザインにチャレンジしてみたり、「楽しむ気持ち」を忘れずに制作を続けるジュリアンさんにならって、ワクワクしながらものづくりをしていきたいです。
ジュリアンさん、ありがとうございました!
プロフィール情報:
Julien Wulff is a Swiss graphic designer based in Tokyo. After graduating Design School in Lausanne, he developed his design sense through professional experiences in Switzerland, Germany and Japan. Creativity combined with structured design could define his projects. Currently working as freelancer and developing brand design, illustration, print design and website design.
ジュリアンウルフは東京を拠点に活動しているスイス人のグラフィックデザイナーです。ローザンヌのデザインスクールを卒業後、スイス、ドイツ、日本のデザイン会社で経験を積みデザインセンスを磨きました。構造的なデザインや独自の創造性は彼のプロジェクトを特徴づけます。現在はフリーランスとして、ロゴデザイン、イラストレーション、印刷デザイン、ウェブデザインを手がけています。
http://wulff.graphics/
Written by
soeda nana
AWRD編集部/イラストレーター
イラストレーションと時々アニメーションを作ります。もちもちしたものとイヌが好きです。 https://nanasoeda.tumblr.com/