人工生命国際会議「ALIFE 2018」が、2018年7月23日(月)~27日(金)まで日本科学未来館で開催されます。生命に関するシステムの研究成果を発表する人工生命学会。米国と欧州学会統合後、世界初のカンファレンスとして注目される本イベントを主催するALIFE Lab.を立ち上げ、さまざまな関連プログラムを仕掛けているのがコンセプトデザイナー青木竜太氏。
これまでTEDxKids@Chiyoda や Art Hack Day など、数々の革新的なイベントを立ち上げています。社会へインパクトを与え続けている青木さんは一体どんな人物なのだろう?そのプロジェクトが生まれるモチベーションの源泉はどこからきているのか?今回AWRD編集部がその実像に迫りました!
アーティストの能力を最大化する仕組みがつくれないか?
ー(AWRD編集部、以下略)日本初のアートに特化したハッカソンArt Hack Dayは話題を呼びましたよね。
(青木竜太、以下略)Art Hack Dayは、3331 Arts Chiyoda 統括ディレクターの中村政人さんに千代田芸術祭にお声がけいただいたことがきっかけで、2014年に立ち上げたプロジェクトです。
社会におけるアーティストの存在意義とか、評価というのは、まだまだ低いと感じています。世の中で新しいものをつくれるにも関わらず、年収が200〜300万円ほどというアーティストって結構多いんです。それが自分のやりたいことだからいいという人もいるけれども、新しいものを生み出す、希少価値の観点からいくと、「もっともっと評価されてもいいだろう」みたいなところがありました。
Art Hack Dayは、そんな彼らの能力を最大化する仕組みがつくれないかというところから出発したプロジェクトです。
ーハッカソンを取り入れたのはどうしてですか?
アーティストの造形言語というか、表現するというところは、受け取る側もトレーニングを受けてないと見方が分からないところがあると思うんですね。視覚的に見て綺麗とかはすごく評価できるのに、現代アートとか、メディアアートのようなちょっと思考的なもになると、「これはなに?」というようになってしまう。見方がわからないゆえに、送る側と受け取る側でミスコミュニケーションが起きてしまう。
だから、アーティストの捉える世界と思考というのを1回切り離し、技術者や研究者など他分野と共に作品を制作するプロセスにしてみたら、いったいどんなものが生まれるんだろと考えたんです。彼らはロジカルな思考に長けているので別の捉え方ができるのではないかと。それができる方法としてハッカソンが有効だと考えました。
更にチャレンジがあり、ハッカソンというと、通常土日、2日間とか長くても3日間で行うケースがほとんどでしたが、Art Hack Dayは2週間の自主活動期間を設けました。
ー 製作期間を長期間設けるのは、ハッカソンとしてはレアな試みでしたよね。
調べる限り2週間あけるハッカソンというのは、当時は大学などの教育機関以外にはなかったと思うんですよ。ただアート作品として成立させるにはそれなりに時間が必要なんです。
私はプログラミングの仕事もしていたので分かるのですが、物をつくるときって、手を動かすだけじゃなく考える時間も必要だと理解していました。そこで2週間ちょっと制作期間を設けてみようと決断しました。
これは勇気が必要でした。みんないなくなっちゃったらどうしようとか。笑
でも、やってみないと分からないからチャレンジしました。実際に動き始めると、参加者が自分ごとになりはじめるので、簡単に投げ出さないんです。みんな責任感がある。
ただやっぱり2週間といっても限りがあるので、完成度に関しては高かったかというと、もっとブラッシュアップできたかな、とは思いますが、2週間でここまでできるんだという手応えは感じました。
結果、Art Hack Dayから生まれたアーティスト集団が、さまざまは芸術祭への出展や NTTインターコミュニケーションセンターでの展示が決まったり、メディアへの露出も増えるなど、活躍の場が広がっていくのをみるようになって嬉しいです。
ー ところで、一番初めに立ち上げたハッカソンやアワードなど教えていただけますか?
一番最初はTED×Tokyo yzです。
もともとはTEDxTokyoのボランティアスタッフとして参加していたのですが、10~30代に焦点をあてたTEDxをやろうということで、当時TEDxTokyoのディレクターだった井口奈保さんが中心になり一緒に立ち上げました。
ーなぜ10~30代を対象に?
世界を新しい視点で捉える若者のコミュニティをつくりたかったんです。
TED本体の考え方というのは、「Ideas worth spreading」という価値あるアイデアを広めていくことをテーマとしています。人のアイデアを広めて、人の意識変容をさせ、行動を変えていき、結果として社会を変えていくこと。その流れを若い世代からつくっていきたいと考えました。
余命数カ月かもしれないと医師から告げられ
ーTED×Tokyo yzを立ち上げるまでには色々なイベントに参加された経験を生かしているんですか?
実は、イベントに参加するとか、ボランティア活動なども一切したことがなかった。
社会をよくしようなんて声高々に言う活動はむしろ胡散臭いと思ってたんです。笑
当時はシステム開発などエンジニアとしてでがむしゃらに働いていたのですが、ある時、病に倒れてしまい、余命数カ月かもしれないと医師から告げられました。正式な診断がでるまで休養していると時に、子どもたちとゆっくり過ごす時間がやっと持てたんです。
遊んでいると、「パパと遊べる時間が幸せ」と言ってくれる子どもたちの言葉そのものに気付かされました。幸い病気も治療を続け完治しました。そこから、「子どもたちに色々なことを教えられる活動をつくりたい」と思ったんです。
ーこの大きな転機がTED×への活動に繋がっていくのですね。
はい。子供のころからディスカバリーチャンネルが好きでよく見てたんです。そのコンテンツからワクワクする情報をたくさん吸収していました。そういった原体験を元に現代流で何かできないかと探していく中で、オンラインビデオでTEDに出会いすごく刺激を受けたんです。
電車のなかで隣に座っている隣のおじさんよりも、インドの山奥に住んでるTEDxのオーガナイザーの方が考えかたや行動パターンが近かったりする。国境や種族を超え、自分の興味関心が近い人たちが繋がれる。そういう環境ができていることにワクワクしました。
そうしたらTEDxというTEDのライセンスプログラムが東京で始まると知り、ボランティアとして活動を始めました。
ーTEDxTokyoの活動に実際に参加されてみてどうでしたか?
ボランティアでの参加なのでお金をもらって働くわけではないですが、オペレーションやマネジメントなど今に活きるスキルがついたのはもちろんですが、TEDxに登壇する国内外を含めた方たちの活動内容を間近でみられたことはすごく刺激的でした。
TED×Tokyo yzを立ち上げた後は、本格的に子ども達にフォーカスしたアイディアを共有する子供向けのTEDxKids@Tokyoを立ち上げました。そしてArt Hack Dayへと広がっていきました。
ーArt Hack Day2014でソフトバンクモバイル株式会社が協賛されていて、初回の開催なのにすごいなと思ってました。他イベントでもさまざまな協賛企業を集められているのは、なにか秘策があったりするのですか?
特にないですね。普通に企業に行ってプレゼンしていきます。笑
ただ、いわゆるこれで協賛したからといって、すぐアウトプットしたものが売れるわけではないですよ。というのは正直に言ってます。どっちらかというと、アーティストたちに1人でも、2人でも深くさされば、その人たちを経由して広がる未来のことや、自分たちの会社の意思表明、ネットワークづくりの可能性についてお話しているくらいです。短期的な広告的メリットはないですから。
私たちがやっていることは「知縁」から生まれるコミュニティづくり
ー本当に色々なイベントを立ち上げられていて、何者なのかと思ったりするのですが、初対面の人に自己紹介するとき、どう名乗られているんですか?
すごい困るんですよ。最近は複数の仕事をしていて、肩書で悩む方もいるかと思うんですけど、今年からは「コンセプトデザイナー」と名乗るようにしています。
もう一つ、「社会彫刻家」という肩書きも名刺などには書いていますが、積極的には言ってません。社会を彫刻していく、仕組みをつくっていくことが私の作品だと考えているし、仕組みから生まれるもの全てをアートと捉えて活動しているのですが。それは自分で言うのがはばかられるので、皆さんに活動の結果をみてていただき、そう認識してもらえばと思っているくらいです。
ーコンセプトデザイナーとは具体的にどんな活動をしているのですか?
コンセプトをつくり、実現するまでのデザインやプロデュース、メディア運営など、プロジェクトに必要なところは全てやります。
かつてはコミュニティデザイナーとも名乗っていたのですが、地域創生や建築的文脈からコミュニティを考えてからつくる人のイメージを持たれやすかったので、コンセプトデザイナーと名乗るようになりました。
ーアプローチが違うのですか?
私はコミュニティのきっかけには4つのきっかけ「縁」があると思っています。
1つは血の繋がりから生まれてくる「血縁」、2つ目は生まれ育った土地から生まれる「地縁」、3つ目は社会で繋がる人との「社縁」。最後は、興味関心、知的好奇心で集まるコミュニティというところの「知縁」です。
「知縁」は、前の3つとくらべると強制力もありませんしタイプも違います。私達がやっているのは「知縁」から生まれるコミュニティを作り上げることです。「地縁」のアプローチとは異なります。
結局、人でしかない。一つ一つのアウトプットはそこまで気にしない。アート集団をつくることが最大のアウトプット
ー長期間のハッカソンと言えば、アドバイザリーとして参画されていた「工芸ハッカソン」も長きにわたる製作期間でしたね。
はい。「工芸ハッカソン」は、富山県高岡市で開催された「工芸の未来」を提案するハッカソンです。このプロジェクトはエピファニーワークスの林口砂里さんにお声がけいただき、私はアドバイザリーとして参画することになりました。確か製作期間は2ヶ月くらいありましたね。今思うと林口さんたち、よくやったなぁと思います。笑
でも、 漆器や銅器などは元々製作工程に時間が必要なんです。そのくらいかかってしまうんです。結果素晴らしいチームとアウトプットが出せたと思うし、今年の11月30-12月2日に渋谷のEDGEof TOKYOでの展示イベントの開催が決まりました。作品のさらなるブラッシュアップをチームで行っていると聞いて、今から楽しみです。
ー チームで継続した活動が続くのは素晴らしいですよね。
結局人でしかないと思うんですね。私個人としては極端な話、一つ一つのアウトプットはそこまで気にしていません。
作品はそのとき、そのときのスナップショットにしかすぎないので、そういった意味でアート集団ができていけば、結果としてその作品がほかのところで新しいものをつくるかもしれないし、昔の作品がまた採用されるかもしれないし、と思ってました。
Art Hack Dayでいうと、それよりもアート集団をつくることが最大のアウトプットでした。
ーアート集団をつくることが?
いわゆるアーティストを内包したチームができることによって、継続的に社会に対して、アーティストの面白さとか、素晴らしさみたいなのができていくじゃないですか。
もちろん素晴らしい作品ができたら、それはそれでいいのですが、継続的に新しい作品をつくり続けるには、やっぱりチームにしなければ意味がない。
今年Art Hack Day2018は、人工生命国際会議「ALIFE 2018」連携イベントとして、日本科学未来館の常設展示「メディアラボ」にて数か月間展示さる予定です。
ー人工生命国際会議「ALIFE 2018」について教えていただけますか?
人工生命国際会議は、1991年から隔年ごとにヨーロッパとアメリカの学会が主催して開催していたんですが、去年INTERNATIONAL SOCIETY OF ARTIFICIAL LIFE(ISAL)という団体に統合され、今年初めて日本で国際会議が開かれることになりました。
ちょうど、Art Hack Day の審査員を務めていただいた東京大学大学院総合文化研究科 教授の池上高志先生がこの会議の実行委員長を務めてることになり、30年近く続く学会の新しいかたちを模索したいと考えていたらしく、一緒にALifeを研究している筑波大学の岡瑞起先生に2年前くらいにお声がけいただいたんです。
人工生命は、いろんな人たちの知識を持ち寄って、総当たりでやっていかないと解き明かせない難題だと思うんです。もともと人工生命の研究は、そういう学際的なアプローチなんですよね。だから、1回だけカンファレンスを開いて終わってしまわぬように、継続的な枠組みを設けたほうがいいと考えて、多角的な角度から生命にアプローチできるようなプラットフォームALIFE Lab.を一緒に立ち上げました。
ここではさまざまなワークショップや、シンポジウム、書籍を書いたり、Art Hack Dayと連携させたりしています。啓蒙と作り手の教育というか、インプットと祭典としての象徴的なイベントというのを考えてやってる感じです。
アーティストは社会のアラートを表現する。社会彫刻という文脈でいうと、プロジェクトそのものがアートだ
ー アートの領域がどんどん広がっていくようですね。
アートの定義がなんぞやみたいなものもありますけど、社会彫刻という文脈でいうと、プロジェクトそのものがアートなんですよね。一瞬見ただけでは分からない、活動と経験を通して分かってくるとでも言うんでしょうか。全ての活動が作品であり、全ての人がアーティストだみたいな。
ー全ての人がアーティスト。
ただ、スキル的な点でいうと職業としてのアーティストと、能力としてのアーティストとは違うと思っています。
職業としてのアーティストは、自分のつくったもので生きられている、仕事として成立している。能力としてのアーティストは、考えてその背景と照らし合わせて楽しむような、思考や感性の深さを持っている。
よく「炭鉱のカナリア芸術論」の話をするんですけど、カナリアって労働者と炭鉱に入って、ガスを感知すると、真っ先に失神して危険を知らせるんですね。アーティストがまさにそうだとアメリカの作家 カート・ヴォネガットとかいってた話なんですけどね。
アーティストは社会のアラート、社会で起きてる物事みたいなものを感覚的に理解し始めていて、それを自分たちで培った表現、技術で表現する。それが絵かもしれないし、歌かもしれないし、詩かもしれないし。
アーティストに重要な部分は、その能力的なところかなって思うんです。だから、そこをトレーニングしている人は世にいうアーティストだけではなく経営者でもアーティストと言えるのではないかということです。
ー経営自体が作品とをおっしゃる方もいらっしゃいますもんね。
そうそう。昔読んだ本の中で面白い一説かあって、一つ前の世代で生きるためにやってたことが、次の世代では遊びになるだろうという話があるんです。
ー面白い。
釣りもそうですよね。生きるためにやってたのが、趣味でやってる人もいるじゃないですか。
ーそうですね。趣味になってますね。
仕事とかもそうなると思っていて。だから、会社を経営するということが、アート的なものになっていくというか、社会を変えていくための目に見えないエンジンみたいなものをつくり、世の中を変えていく。そういことが、新しい世代のアーティストになるのではないかと。
これは社会彫刻の次のフェーズかなと思っています。昔からあったけれども、よりその動きが強まっていく気もしています。アウトプットの仕方とその稼ぎかたや呼び方によって違ってくると思いますが、社会におけるアートの位置付けみたいなものも変わってくる気もします。
100年後のアートとはなんぞやと言われたら、社会起業家みたいな人たちかもしれない。
将来、みんなAI(人工知能)が働いているなかで、次は何をやるの?みたいな悩みもでてくるわけじゃないですか。そんなときにも新しい視点で物事を見れる能力ってすごく重要になってくると思うんです。
失敗を気にしない。目的の中の一つの過程。常に永遠のベータ
ー本当に多才だなと思います。数々のプロダクトを立ち上げてこられたなかで、ご苦労したことなども教えていただけますか?
それはもうイベント全部においてあるんですけど、完成されたものという概念があんまりないんですよ。プログラミングもそうで、常に永遠のベータっていうじゃないですか。あんな感じというか、取りあえず今あるものだし、そこで改善していくなら、適応していくという環境適応するほうが、はるかに重要であると僕は思ってるんです。
ーじゃあ、世に言う失敗というのは特にない。
特に気にしてない。もちろん、もう少し満足度を上げられたかな?みたいなものはありますが、今のリソースの中でどうできてきたかというのが、僕は健全だと思うし、そう捉えるようにしています。辛いか、辛くないか、めちゃくちゃ辛い日々もあるし、忙しいなぁと思うときもあるけれども、大目的の中の一つの過程だというふうに思い込んではいるので。
ー今後、アワードやハッカソンなどのイベントを企画されたい方に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。
アワードやハッカソンはさまざまな人が応募してきます。応募シートに意気込みとか熱いコメントを書いてくれるんですよ。なので応募した人たちの気持ちを背負わなくてはいけないという覚悟が必要になってきます。向き合わなきゃいけないというか、無下にしちゃいけないので、ちゃんと見てあげたい、応募してくれたんだから。
それにその人たちの人生が良くなるかもしれないし、逆に悪い影響を与えてしまうかもしれないという視点を持つことも大切です。利益目的をベースにするのではなく、お互いにリスペクトし合い、歩み寄る心構えみたいなものが一番必要だと思います。
あと難しいことなんですが、今はそこまで評価されてないから落とすのではなく、今まだ大樹の苗木なのかもしれないというか、今背が低いからといって、それを切ってしまうのではなく、成長する伸びしろをちゃんと見極められるかどうか。そんなところもアワードとかハッカソンって重要だと思ってるんです。飛び跳ねられる装置だと思うので、才能を見極める視点が持てるかどうかも大切ですね。あとは気合と根性だ!頑張れっ!笑
■PROFILE
青木竜太(コンセプトデザイナー、社会彫刻家)
ヴォロシティ株式会社代表取締役社長、株式会社オルタナティヴ・マシン代表取締役。その他「TEDxKids@Chiyoda」設立者兼キュレーターや「Art Hack Day」、「The TEA-ROOM」、「TAICOLAB」、「ALIFE Lab.」の共同設立者兼ディレクターも兼ねる。アートやサイエンス、カルチャー領域で、コンセプトデザイン、クリエイティブディレクション、プロジェクトのプロデュースや事業開発をおこなう。
■イベント情報
人工生命国際会議「ALIFE 2018」
日程:2018年7月23日(月)~27日(金)
会場:日本科学未来館 (〒135-0064 東京都江東区青海2-3-6)
■プログラム
1)7月22日(日)プレカンファレンス(完全招待制トークイベント)
2)7月23日(月)~27日(金)メインカンファレンス(学会形式:5日間)
3)6月中旬~(予定)アート展示(ALIFEアワード、Art Hack Day受賞作品など)
4)7月23日(月)~27日(金)(予定)子供向けワークショップ
申込み:公式サイトより
Written by
reiko shinohara
AWRD編集部 / PR、ライター
デザイン、アート、ライフスタイルにまつわる分野でライティング、コミュニケーション活動を行う。 群馬県富岡市出身、O型、うお座、動物占いは ひつじ。