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地球を愛し、地球を食べる。世界中の「土食」を追い続けるオランダ在住のアーティスト「masharu」の思い

2023/12/18(月)

インタビュー

クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」のインタビューシリーズとして、アワードを通して活躍の幅を広げてきたクリエイターの方々にお話をうかがうシリーズです。今回は、「YouFab Global Creative Awards 2021」でグランプリを受賞した、アーティストであり「Museum of edible earth」の創設者であるmasharu(マシャル)さんに受賞作品についてお話をお聞きしました。


アムステルダム在住のアーティストであるmasharuさんは、これまでに世界中を旅し、様々な地域の「土食(どしょく)」を体験してきました。土食とは粘土やチョーク、岩、そして土などを食べる習慣のことで、世界中に分布する食文化でもあります。

masharuさんは土食のサンプルやそれに纏わる情報をまとめたオンライン上での博物館「Museum of edible earth」を立ち上げました。サンプル数は約500種類。今では世界中の土食の習慣がある人々がこのウェブサイトや開催される展示に集まっています。

「Museum of edible earth」にもある単語「Earth」は「地球」という意味の他、「土」「大地」という意味も含まれています。今回は、地球上に広がる土を食す行為への思いと「Museum of edible earth」を更新していく中での出会いや経験をインタビューを通じて伺いました。

ー「YouFab Creative Awards 2021」でグランプリを受賞した「Museum of edible earth」について教えてください。

私は「地球を食べる」研究活動をしています。これは一般的には「土食」として知られていて、その行為は精神的な理由や伝統的、医療的、健康的な理由で行われています。

Museum of edible earth」は、土食のサンプルを世界各地で収集し、アーカイブしたオンライン上の土食の博物館です。これまでに40カ国以上から、500種類ほどの「地球」を集めました。

土食には粘土やチョーク、軟岩や石灰岩など様々な種類がありますが、たいていは表土のサンプルを収集することが多いです。私の経験上、土は人々にとって必要なものだから、という理由もありますが、単純に地球上の土を食べるというアイデアに強く惹かれます。
現代社会では、土食は安全な習慣ではないかもしれません。また、西洋文化ではあまり普及していませんが、昔はいくつかの地域で土を食べる習慣があったという歴史的な記録もあります。土には有機物やバクテリアが少なく、チョークや粘土に比べて「食べる」ことの危険度が低いと感じています。

土食する二人の人物
Pimba, bridging the gap, video-screenshot. Amsterdam. 2017
土食サンプルが並んだ様子
Museum of Edible Earth. Photo by masharu. 2019

ーYouFab Global Creative Awards 2021 のようなコンペティションにはよく挑戦されるのですか?

「Art and Science」の「falling walls science breakthroughs of the year」の最終選考に残ったことがありますが、実際に受賞をしたのは2つで、YouFabとアルスエレクトロニカだけなんです。私自身がこのようなコンペティションに興味はあるのですが、なかなか時間がとれなくて。


ーコンペティションにあまり参加されない中、YouFabに挑戦してくださったんですね。受賞後に何か変化はありましたか?

当時はコロナウイルスの影響でオンラインでの試みが中心となってしまったこともあって、日本でのフィードバックを感じることがあまりできませんでしたが、YouFabを通じて主催であるFabCafeと知り合ったことがきっかけで、FabCafe TokyoとFabCafe Kyotoの二拠点で展示とワークショップを行うことができました。またぜひ一緒になにかできればと思っています。

FabCafe Tokyo での展示風景
Museum of Edible Earth during the exhibition 'Democratic Experiments' in FabCafe, Tokyo, Japan. Photo by masharu. 2022

ー日本でのワークショップはいかがでしたか?

どの展示やワークショップも重要なのは前提ですが、東京での展示は私にとってとても特別な経験になりました。土を使用するフランス料理店「Ne Quittez Pas」を営む田辺年男シェフに会い、日本の「土食」を体験することができたことが大きかったです。

田辺シェフの土の料理は本当に美味しくて...食用の人工土を金沢の研究所で作っているんだそうです。そういった話から影響を受け、私自身も食べるための土を自分で作ってみようと思い、今「Compost as Superfood」というアプローチにも取り組んでいます。

また、私は日本の土食に関するルーツにも興味があります。田辺シェフによると、日本では「農民が土を食べる」という行為が、大地の品質を見極めるために行われていたそうです。しかし農薬が導入されたことで、その伝統が消えてしまったそうです。ヨーロッパでも似たような話を聞いたことがあるので、違う国で同じ現象があることに驚きました。



ワークショップ参加者の土食への反応もまた、ヨーロッパとは違う部分がありましたか?

はい。私が日本でのワークショップで興味深かったことの一つでもあるのですが、土食を通じて、日本の人々はヨーロッパとは全く異なる味覚を連想していました。

多くの人が、地球の味は「うま味」のようだとか、大豆のようだと言っていたんです。ヨーロッパの人々はまた違った連想をしますし、アフリカ大陸の人々も違う。味覚に関するアイデアやコンセプトが国の文化と結びついているようで興味深かったです。

土食ワークショップでの様子
Workshop 'Eating Earth' in FabCafe, Tokyo, Japan. Photo by Ming Wu. 2022.

ワークショップでの反応のように、「Museum of edible earth」でも世界中の土食の反応が見れるようになっていますね。

「Museum of edible earth」ではサンプルの種類ごとに世界中の人からレビューが届いています。日本の方からの反応もいくつかありますよ。

レビューの中には時々、非常に興味深い発言があります。人々は味の感想だけではなく、それぞれのサンプルの背景についての情報も共有してくれることがあるんです。

コンゴ民主共和国の「Mabele」という粘土を紹介した際、誰かが、それがどのように製造されているのかビデオを投稿してくれたんです。私はアムステルダムのアッパーショップでそれを購入したので、製造過程を全く知りませんでした。だから、当初はそれがコンゴ共和国のものだとは書かなかったんです。でも、誰かが、それがどこでどうやって作られているのかを教えてくれました。

もちろん、私たちのワークショップや展示で体験したサンプルの味のレビューを書いてくれる人もいます。でも「感想をシェアしたい」という理由から、オンライン上で私たちのウェブサイトを見つけて、ワークショップとは無関係の全く別の場所で「地球」を味わった時の感想を書いてくれることもあり、とても面白い交流の場になっているなと感じます。

Museum of edible earth
Database www.museumofedible.earth. Graphic desgin by Olga Ganzha. Web design by Stuart Culshaw, William Ageneau and Raphael Pia with support of Andrew Revinsky. 2023.

ー多くの人がmasharuさんのワークショップで初めて「地球」を食べると思いますが、masharuさん自身が土食やそれに関するプロジェクトを始めたきっかけはなんでしたか?

単純に、土や粘土やチョークを食べたいという私の個人的な欲望が出発点でした。さらに調べていくうちに、私と同じ欲望をもつ人たちがいることを知って、そんな人たちと一緒にオープンに実践できる場を作りたいと感じたんです。ヨーロッパでは「地球」を食べることは心理的な障害とみなされることがありますからね。だから私は、未体験の人たちにもこの実践に参加してもらい、マイナスイメージを払拭したかったんです。

そのような思いで始めたプロジェクトでしたが、土食のことを深く研究していくうちに、土食の持つ文化的で伝統的な側面にも興味を持ち始めました。また「地球」のサンプルごとにクリーミーだったりスモーキーだったり、様々な味があることにも気づいたんです。それらをより専門的な方法でコレクションにまとめようと思ったのが「Musem of edible earth」の始まりです。

masharuさんのコレクション
Archive of the Museum of Edible Earth, installation by Basse Stittgen, Amsterdam, 2023

ー「Museum of edible earth」の活動のなかで、どんなところを最も重要視していますか?

私が最も重要視しているのは、地球と人々とのインタラクションです。私は自分自身が地球と関係している気がしています。美しい一方で、時折不安な関係です。この数年、地球は私を美しい旅に連れて行ってくれました。それは私の人生を完全に変えるものでした。

私たち人間と地球が、お互いに共有された空間を保持することを大切にしています。私は普段、土食に関する講義を行うことがありますが、そこでは「地球」のサンプルに関するバックグラウンドも共有しています。サンプルごとに、それはどこの物なのか、どのように扱われているのか、またサンプルを入手するために出会った人々など、様々なストーリーを伝えるようにしています。

また、味についても深く話すようにしています。地球の味がどのようなものか、食べたことで何を呼び起こすのか、はたまたどのような記憶や想像を呼び起こすのかについても伝えています。


ーmasharuさんは、世界各地に滞在し多くの国や土地を訪れていますが、プロジェクトにはどのような影響をもたらしていますか?

多くの場所を訪れ、様々な人と出会うことは、地球を食べるプロジェクトのすべてを切り開くための、本当に大きなインスピレーションになっています。先に述べたように日本への旅も印象深い体験でしたが、それ以外にも記憶に残る場所が多くあります。

以前「Earth as Superfood」というシンポジウムを開催したことがあります。このプロジェクトの発端は、リトアニアの旅で出会ったスタニスラヴァさんという方との出会いがきっかけでした。彼女はまさに「地球」をスーパーフードと捉えていて、「地球」だけを食す大地の妹のような方です。彼女と一緒に森で大きな土を煮て食べたことは、私にとってとても貴重な経験でした。

ジンバブエのプロジェクトに参加した時の人々との出会いもよく覚えています。Admire Kamudzengerereによるファームレジデンシーとの協力プロジェクトに参加した時、プロジェクトの発起人の紹介で長老たちと会うことができ、地球に纏わる深い話をすることができました。

彼らは「地球」の働きや、癒し効果についても教えてくれました。その知見を元に「Museum of edible earth」のサンプルの一部を、ヒーリングタッチセンターに持ち込んだこともあります。

また彼らは、「地球は様々な場所からやって来たものだ」と話していました。「地球」は、あらゆる土地の多様な性質や力を宿している、と。しばらくして、私はそのような習慣を発見しました。それは「聖人のお墓の土を食べる」という伝統です。主に、一部のキリスト教で実践されている習慣のようです。私が訪れたことのある地域の一部では、地球を食べる行為とスピリチュアルの交差点が存在していたのが興味深かったですし、私自身のプロジェクト全体にも影響を与えました。


ー旅の途中で数々の「地球」を収集していらっしゃいますが、難しいと感じたことはありますか?

時折、地球やそのサンプルは伝統的な場所や霊的な場所とも関連していて、そういった場所には外部のコミュニティから来た人はアクセスできない場合があります。

ナイジェリアのウズラ村を訪れた時に、現地の人から「Eko soft rock 」という食べるための岩のサンプルをいただいたことがあるんですが、岩が収穫できるエリアが川のそばにあり、入ることができませんでした。それでも彼らは私たちのために岩を用意し、その特性を教えてくれました。その岩は火で炙られているので、スモーキーな味がするんです。


ー多くの出会いのなかで、masharuさんと同じような活動をする人は他にもいましたか?

イギリスで、Mandisa Mayneという方に出会いました。彼女は様々な種類のサンプルをオンライン販売することを仕事にしています。私たちの「Museum of edible earth」では販売はしていないので若干違いますが、地球を仕事にしている点では同じです。

ーmasharuさんのプロジェクト活動のなかで最も影響を受けた事柄や人物はいますか?

やはり「地球」です。生命の基盤としての地球。地球は私を人間として支えてくれています。「地球」こそ私のインスピレーションと言えるでしょう。

2016年、パシルプティ財団がムハマド・シバワイヒとシャムスル・ハディと共同でロンボク島で始めた調査旅行で、バトゥ・アンパンを用意したテーブル
Table with prepared Batu Ampan during the research trip initiated by Pasirputih Foundation in Lombok, in collaboration with Muhammad Sibawaihi and Syamsul Hadi, 2016

ー進行中の新しいプロジェクトはありますか?

今は複数のプロジェクトに取り組んでいます。先ほど述べた「Compost as Superfood」もそのうちの1つです。他には「実際に地球の味を録音する」という試みも行っています。これはオランダのナイメーヘンで開催されたハンマーエレクト・フェスティバルで披露したものです。実際に50種類のサンプルを試食して、咀嚼音を録音しました。

この試みは私たちにとっても新しいインスタレーションでした。それぞれの「地球」は味や香りだけでなく、独自の「音」も持っていることがわかったんです。

ー今後のご活動について教えてください。

今私たちは「Museum of edible earth」の存在をより多くの人たちに周知するため、パートナーシップや協力機関を見つけることに注力しています。発足中のプロジェクトを促進させるにはより多くの協力者や、科学的な機関からの支援が必要だと感じています。

ーmasharuさん、ありがとうございました。今度の新しい挑戦を楽しみにしています!

Dr. masharu

Profile:

Dr. masharu

地球を食べる人、地球を愛する人、「Museum of Edible Earth」の創設者。masharuのプロジェクトは科学的な研究と個人的なアプローチ、文化的な実践を組み合わせています。2011年に数学の博士号を取得し、アムステルダムのフォトアカデミーで優等で卒業しました。2013年から2014年にかけて、アムステルダムのRijksakademie van Beeldende Kunstでアート・イン・レジデンシー・プログラムに参加しました。2018年には、masharuはオランダ社会科学アカデミー(NIAS-KNAW)でアーティスト・フェローに就任。masharuの芸術的な仕事と科学的な研究は、Word Soil Museum in Wageningen、Ars Electronica Center in Linz、YerevanのModern Art Museum、LagosのAfrican Artists’ Foundation、Guatemala CityのSpanish Cultural Centre、EindhovenのWorld Design Event、ParamariboのReadyTex Gallery、Jakartaの4th Jakarta Contemporary Ceramics Biennale、OisterwijkのEuropean Ceramic Workcentre、DusseldorfのSustainica、BilbaoのMuseo Maritimoなど、30カ国以上で展示、上映、出版されています。そのほか、Prix Ars Electronica(オーストリア)やYouFab Global Creative Awards(日本)などの賞を受賞しています。masharuの仕事はモンドリアン基金によって支援されています。

Links

masharu ウェブサイト
https://masharu.nl/

AWRDプロフィールページ
https://awrd.com/creatives/user/11779546

編集:AWRD編集部

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