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「あそび」を忘れずに、社会課題に取り組む。クリエイティブユニット「Playfool」の実験と探究心

2023/03/15(水)

インタビュー

クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」のインタビューシリーズとして、アワードやコンペティションを通して活躍の幅を広げてきたクリエイターの方々にお話をうかがう連載がスタートします。第一回目となる今回は、ロンドンと東京をベースに活動するクリエイティブユニット「Playfool」のおふたりにお話をお聞きしました。

「あそび」をテーマに、デザインとエンジニアリングによる作品づくりを行うPlayfoolは、これまでに「YouFab Global Creative Award」と「Wood Change Challenge(以下、WCC)」にご参加いただき見事入賞。WCCにて制作された「Forest Crayons」は現在商品化され、ワークショップなどの活動へと広がっています。ユニットとして活動するおふたりに、アワードに参加したきっかけや受賞後の反響、今後の展望についてうかがいました。

社会の現状を知り、「あそび」のプロセスを大事に取り組んだアワード応募作品

――今回はインタビューのお時間をいただきありがとうございます!Playfoolのおふたりは、2018年からAWRDをご利用いただいていますが、AWRDに登録されたきっかけと、これまで参加されたアワードの応募作品についてお聞かせください。

Saki Maruyamaさん(以下、Saki)
AWRDのことは、クリエイターの知人を介して知りました。AWRDに登録してから最初に参加したのはグローバルクリエイティブアワード「YouFab Global Creative Award」で、2018年と2019年の2度参加させていただいています。

PlayfoolのDaniel Coppenさん、Saki Maruyamaさん
左から)Daniel Coppenさん、Saki Maruyamaさん
Playfool (プレイフール)
イギリス・ロンドンのRoyal College of Artを修了し、2018年より活動を開始したクリエイティブユニット。あそびを介した個々と社会との能動的な関わりしろを、プロダクトやインスタレーション、映像メディアを通して提示している。過去作品はVictoria & Albert Museum(ロンドン、2022)、MAK – Museum of Applied Arts (ウィーン、19〜 )で展示され、YouTubeでも精力的に活動している。
Playfool AWRDページ

Daniel Coppenさん(以下、Dan)
YouFab Global Creative Awards 2019のファイナリストに選ばれた「Knotty」は、私たちにとっての代表作です。紐で結ぶだけで通電する仕組みが特徴で、私たちに専門的な知識がないからこそ生まれたアイデアだと思っています。エンジニアの友人からは「自分だったら絶対に思いつかないアイデア」と言われるほど、自由なエンジニアリングが鍵となった作品でした。

――2020年には国産材の利用拡大に向けたチェンジ(変換・転換・更新・拡張)に挑戦するプロジェクト、「WOOD CHANGE CHALLENGE」の一環で行われた、国産材と森の利用を大胆にチェンジするプロトタイプの製作を行う「WOOD CHANGE CAMP(以下、WCC)」に参加されています。こちらはどんなきっかけで応募されたのでしょうか?

Saki
WCCもクリエイターの知人に声をかけてもらったことがきっかけでした。ちょうどその年の夏、北海道の東川町で木についてさまざまなことを学んだばかりのタイミングだったんです。そこでは、50年以上かかるという1本の成木ができるまでのプロセスや、林業と家具メーカーが関係性をつくりながら、100年以上使うことができる家具づくりに取り組んでいることを教えていただき、木のことをもっと知りたいと思っていました。

――WCCでは「Forest Crayon」を制作され、「Best Camp」賞を受賞されました。完成までのプロセスを教えてください。

Saki
クレヨンをつくるアイデアが生まれるまでに、かなりの紆余曲折がありました。WCCを支援している林野庁の方や林業の関係者の方々にお話を聞く機会をいただき、日本がこんなにもさまざまな問題を抱えていることを知ったんです。私は日本の地方で生まれ育ったので、木の存在を身近に感じていたのにも関わらず、現状をまったくわかってなかったんだなと、ショックを受けました。実は参加する前は別のアイデアを考えていたんですが、「それどころじゃない……!」と痛感し、都会に暮らす人と森との関係性をほぐすようなことができないだろうかと考えました。

Saki
カットした木材の運搬が大変だというお話をうかがったことが、アイデアが生まれるヒントになりました。また、50年をかけて育った木でも虫食いの穴があったり、曲がっていたりするだけで木材として販売できない事実を知り、「木のかたちを変えてしまったらどうだろう」と考えたんです。その後、木材に電流を流してみたり、食べられるように加工したりと、さまざまな実験を重ねる中で、木を粉砕してみた時に、顔料として使うアイデアが浮かびました。

実際に飛騨へと足を運んだ際には、森を案内いただき、木材として切り出される前の木が保管されている「土場」に連れていっていただいたんですが、そこで大量の木を目の前にして、ひとつひとつ木の種類によって色がまったく違うことを知ったんです。その時に「木の種類ごとにクレヨンをつくったらおもしろそう!」と思いつき、すぐに最初のプロトタイプづくりをはじめました。

――森に行くことで木についての解像度が上がり、アイデアが浮かんだんですね。「木のかたちを変える」という発想が斬新だなと感じました。

Saki
傷ついただけで木材として使えなくなってしまうなんて、かわいそうじゃないですか。かたちを変えることで見えてくるものがあったのは、WCCに参加した大きな収穫だったと思います。これまでもデザイナーとして、家具などで使用する木の色は目にしていましたが、クレヨンにすることで種類ごとに異なる木の色を感じられるようになりましたし、素材としてしか見られていなかった木のイメージに輪郭がついたような思いがしました。

――WCCをきっかけに、Playfoolの活動にも変化はありましたか?

Dan
普段3Dプリンターやレーザーカッターを使用する際に、プラスチック廃材を生み出してしまうことに罪悪感を持つようになりました。デザイナーとして、よりサステナブルに配慮したものづくりに取り組む必要性を考えるようになりましたね。

同時に、素材を探求することがさらにおもしろく感じられるようになったと思います。Playfoolは、スタジオ名の通り時間と場所がゆるす限り「Play(あそび)」のプロセスを大事にしていて、WCCでも、木材を使用した実験や探究を通した「あそび」からクレヨンのアイデアが生まれました。また、先ほどお話した「Knotty」と同様、僕らが木についてあまり詳しくなかったことが、先入観のない素直な気持ちで木に向き合えたことと、自由な感覚で取り組めたことにつながったのではないかと思います。

Saki
これまでの私たちの作品はテクノロジーを扱ったものが多かったんですが、「Forest Crayons」をきっかけに、身の回りにあるものから新しい世界が開かれる楽しさを感じられるようになりましたね。木のような素材に向き合うことも、テクノロジーを使ったプロセスと変わらないことに気づけたのは、大きな学びだったと思います。

「森のクレヨン」の商品化から、美術館での展示・ワークショップへの広がり

商品化された「森のクレヨン」

――「Forest Crayons」は、その後フェリシモさんとの共同開発により「森のクレヨン」として商品化されています。どのような経緯で商品化することになったのでしょうか?

Saki
もともと、森と人との距離をどうすれば近づけることができるだろうかと感じたことがクレヨンづくりの背景にあったので、より多くの方に手に取ってもらうために商品化したいという思いがありました。フェリシモさんは1990年代から継続的に森を守るための取り組みをされていて、以前、関係会社さんとお仕事をさせていただいたことをきっかけに面識があったので、「興味ありませんか?」とお声がけさせていただいたんです。

――商品化プロセスで苦労されたことはありましたか?

Saki
やはり商品化となると、プロトタイプや作品制作とは異なるむずかしさがあるのを感じました。通常のクレヨンづくりは、顔料とパラフィンを混ぜて製造しますが、森のクレヨンの場合は、木の種類によって一つひとつ性質が違うため、油との溶け合い方も異なり、職人さんによる手作業が必要でした。現在日本では手作業でクレヨンをつくれる方が一人しかいないので、職人の方と丁寧にやりとりをしながら商品化を進めていきました。

「森のクレヨン」

――WCCへのご参加から商品化までを振り返ってみていかがですか?

Dan
「Forest Crayons」は間違いなく私たちの代表作の一つだと思います。転機となるような瞬間を感じましたし、商品化につながったことで、私たちにとってはもっとも長いプロジェクトになりました。

Saki
たくさんの反響をいただいたことも大きかったですね。webマガジン「dezeen」が主催したアワードでの入賞にしたことで、イギリスの美術館「Victorian and Albert Museum(以下、V&A)」の方にお声がけいただき、2022年にV&Aで実施した展示にもつながりました。

V&Aでの展示風景
V&Aでの展示風景

展示期間中、市民の方々と一緒にクレヨンをつくるワークショップを実施させていただいたんですが、地元の木工作家さんから余った木屑をいただき、V&Aの屋上で育てている蜂の蜜蝋を使わせていただいたんです。WCCを通して身につけたサステナブルやローカルへの意識は、今後の活動でも活かしていきたいと感じています。

――3月23日、24日には「FabCafe Hida」にてワークショップが開催されます。どのような内容なのでしょうか?

Saki
クレヨンづくりに限らず、木という素材の性質を使ってなにができるのかを、参加者の方々と一緒に考えていくようなワークショップにできればと思っています。実際にクレヨンづくりも体験していただきますが、木という素材と仲良くなっていただくことで、正解のない作品づくりにも取り組めることが、このワークショップの醍醐味です。木を使った実験に興味のある方にはもってこいのチャンスですし、商品企画の仕事に携わられている方や、デザイナーや建築家の方にも参加いただきたいですね。

参加申込はこちら

森と遊ぶ。森のクレヨンを通して、森のこれからを描くフィールドワーク
森と遊ぶ。森のクレヨンを通して、森のこれからを描くフィールドワーク

――3月に開催される展示会はどのような内容なのでしょうか?

Saki
AIによる画像生成が発達した現在、私たちはどのように表現と向き合っていけばいいのかをテーマにした展示を考えています。会場では来場者の方が体験できるゲームを展示する予定で、AIとは異なる、私たち人間の表現の領域を探究することに、ゲーム形式で挑戦するようなプロジェクトです。

※シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]スタジオAにて3月21日まで開催

デヴィエーション・ゲーム展 ver 1.0 ー模倣から逸脱へ
デヴィエーション・ゲーム展 ver 1.0 ー模倣から逸脱へ

「私たちらしさ」を考える、学校のような場としてのアワード


――YouFabとWCCについてお聞きしてきましたが、普段の仕事とアワードに取り組む際に違いはありますか?

Saki
どちらもお題やテーマがある上では変わらないと思いますが、アワードに参加する際には「私たちらしさはどこにあるんだろう?」と考えることが多いと思います。審査員やメンターの方からもそういった言葉を投げかけられることもありますし、デザイナーとして自分たちは何をつくりたいのかを考えるきっかけになっています。

また、一緒に参加された方とのつながりができたことも、アワードの魅力だと思います。参加者によって進め方がまったく違いますし、「そういう見方があるんだ」という発見もあって、まるで学校のような体験ができる場だと感じています。

最後に、今後取り組みたいチャレンジがあれば教えてください。

Saki
デジタルのプロジェクトがしばらく続いたので、もう一度「手」に戻ることで、つくることに向き合いたいなと思います。また、先ほどお話ししたV&Aでのワークショップの経験が印象的で、子どもから年配の方まで、いままで交わることのなかったような方同士の対話が生まれるようなプロジェクトがまたできないかなと考えています。私たちが交差点となり、開かれた場が生まれるような、そんなプロジェクトを考えていけたらと思います。

Dan
ロンドンに帰国後は、ブリストルでの展示準備に取り組む予定です。次回もAIをテーマに作品づくりに臨むつもりで、友人とコラボレーションしながら、AIを活用した画像生成や画像認証を、よりインタラクティブな方法で実現するインスタレーション作品を制作したいと考えています。

また、コロナ禍でいくつかのプロジェクトのキャンセルになり時間ができたので、3年前からYouTubeチャンネルを運営しているんですが、現在30万人近くの方に登録いただいています。

はじめた理由として、「あそび」を扱っている以上、もっと広い層にアプローチしてみたいという気持ちが以前からありました。美術館に足を運んでくださる方々だけではなく、もっと広い層に届けたいと思っていたんです。

現在は、デザインやアートが好きな人にしか届いていないと感じています。これからは、よりそのことに自覚的であることで、そういった情報にまったく触れていない方々とコミュニケーションをとれる方法について考えていきたいです。また、デザイナーとしてのPlayfoolの活動とは異なる方向性の動画が中心なので、今後はYouTubeとデザイン活動をより統合させていくつもりです。再生回数を意識するというよりも、より自由で新しいことにも挑戦しながら動画制作ができればと思っています。

――今後さらにPlayfoolのお二人らしさを感じる活動に期待したいと思います。今日はありがとうございました!


編集:AWRD編集部
執筆:堀合俊博

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