クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」のインタビューシリーズとして、アワードを通して活躍の幅を広げてきたクリエイターの方々にお話をうかがうシリーズです。今回は、「YouFab Global Creative Awards 2021」に応募いただいた、アニマシーインタラクティブアーティスト「Momoka Nakayama」さんにお話をお聞きしました。
AWRD編集部がNakayamaさんを知ったのは、「SEE MEDICINE」という作品を「YouFab」に応募していただいたのがきっかけです。大きな平面に敷き詰められた砂の上にぶら下がる複数の針のような装置。 一見無造作に描かれる砂の線や振り子の姿が強く印象に残り、今回インタビューをお願いしました。
石や砂などの自然の物質とテクノロジーを横断しているようなNakayamaさんの作品たちは、初めて見るものなのに、どことなく温かみを感じます。
※SEE MEDICINE
SXSWや六本木アートナイトなど様々な展示経歴をもつNakayamaさんに、制作にまつわるお話を伺いました。
ー中山さんは以前、AWRD掲載のプロジェクト「YouFab Global Creative Awards 2021」に参加していただきました。参加の経緯をお聞かせください。
国内でメディアアートを評価してくれるアワードが少ないこともあり、プロジェクトを知り応募しました。2014年にグランプリを受賞しているAKI INOMATAさんの「やどかりに宿を渡してみた」という作品も印象的です。
また、以前より「YouFab Global Creative Awards」に応募している友人も多く、アワード自体が私にとって身近な存在でした。
『 YouFab Global Creative Awards 2021』について
YouFab Global Creative Awardsは2012 年にFabCafeに集うクリエイター向けのコンテストとしてスタートしたアワードです。クリエイターと社会が繋がるグローバルなプラットフォームを目指しています。
YouFabでは環境、社会、経済、政治など、現在私たちの世界で実際に起きている要素とクリエイティビティが交差する作品に注目しています。今ある常識に挑戦する世界中のクリエーターを対象とし、好奇心や想像力を刺激するような、”ハックされた”新しいアイデアに期待しています。
ー「YouFab 2021」にご応募いただいた「SEE MEDICINE」について教えてください。
「SEE MEDICINE」は、呼吸をリアルタイムに砂絵として描きしるし、客観的に見ることができる装置です。この装置は入力した波形をアウトプットすることができるため、導きたい呼吸の砂絵も描くことができます。
呼吸は通常、無意識化で行われていますが、呼吸の様子を可視化して見せると呼吸を意識的に行おうとする反応が出ることが知られています。そして可視化の内容次第で、円滑な呼吸を促進することも阻害することも発生する仮説が提唱されています。
この仮説のもと、このマシンが生み出す砂絵をただ眺めることで自分の呼吸に意識を向けさせることができ、自分の呼吸をコントロールさせつつ徐々に理想的な呼吸へ導くという体験を生み出し、「見る」ことが治療になる展望を提示しました。
ー中山さんが作品を制作する上で、伝えたいことや心がけている部分はなんですか?
日常に潜む身近な発見から、「人の心に作用するもの」を見つけて形にしていきたいと考えています。
日常で暮らす中で、自動運転の車の動きをかわいいと思ったり、100年前の壁を前にした時に、「昔の職人が自身の手でこの壁を積み上げたならば、その触感をどうやって自分の感覚として追体験できるのだろう」と思ったり、海の波の動きを取り出して、別の動きに変換したらどうなるんだろう...など、そんなことを考えています。
とにかくどんな人にとっても、懐かしいと感じたりワクワクしたりできるような作品を作ろうと心がけています。
ー中山さんの作品は、砂や石などの天然の素材そのものと、ご自身で作られたテクニカルな装置の組み合わせが印象的です。アウトプットに関するこだわりや、思いがありましたらお聞かせください。
普段、作品にテクノロジーを使用するのですが、必ずテクノロジーが剥き出しになっていないように意識しています。あくまでテクノロジーは黒子であり、日常に潜むワクワクする体験を引き出す手段と考えているためです。
そのため、なるべく日常にある、馴染み深いものを一緒に使うようにしています。
ー中山さんの作品に親しみやすさや温もりを感じるのは、そのような心がけによるものですね。テクノロジーを用いた作品を制作するきっかけはなんでしたか?
もともとロボティクスに興味があり、大学では制御システム工学を学んでいました。
2013年頃、大学在学中に電子工作をするようになり、実験的に動くものを作っていました。
大学では、医療用ロボットの鉗子の研究開発をしていたのですが、だんだんと役に立つものだけではなく、思わず心が動いてしまう作品を作ってみたいと思うようになり、2015年に東京大学大学院山中俊治研究室でデザインエンジニアリングを学び始めました。
ー電子工学から医療用ロボットまで、様々な経験をされていらっしゃるんですね...! 大学や大学院などで制作に対し影響を受けた思い出はありますか?
大学院時代、山中俊治研究室に入って初めて制作した作品のアウトプットが本当に汚くて、先生にも見せられなかったことがありました。
そしたら、山中先生に「そんな自分が見せるのが恥ずかしいと思うものをよく展示できるね」って言われて。
すごく反省して、自分の美意識を鍛えようと思うことができました。
それ以来、ちょっとでも作品に気になるところがあれば、妥協しないようにしようと心がけています。
ー先生からの厳しいお言葉の上で、中山さんの今の作品ができているんですね。最も思い出深い作品はどんなものでしょうか。
私が初めて世の中に「作品」として発表したいと思えた「iki-mono」です。
5台の箱同士がお互いのセンサーに反応して、人間が近づいても逃げるような動きを見せる作品で、動きだけで生き物っぽさや「可愛い」と思わせる面白さにフォーカスしたものです。
この作品は、山中先生から上記のようなコメントをいただいた後に、とにかく自分の中で気がつくところを整えて仕上げたものです。
このレベルのものを作らないと、自分が表現したいことは伝わらない、ということがわかった作品ですので、大切にしています。
iki-mono
ー中山さんは会社でのお仕事とアーティスト活動を両立されていらっしゃいますが、それぞれへの相互作用などはありますか?
私の中では境目がないようにしています。
どちらにおいても「今までにない新しい体験を生み出せているか?」などを考えています。
仕事においては、自分がインプットしないような領域も学ぶことができ、ライフワークの方は自分の興味関心がある領域を深く深く追求するので、どちらも脳の使い方としては大切だなと思っています。
ー中山さんは、数々のコンペティションで入選していらっしゃいます。コンペティションに参加するメリットや目的はどんなものだと思いますか?
作品を介して、自分は体験者に何を伝えたいのか、を整理するために参加しています。
なかなか作品を作って終わりになってしまうことも多いので、コンペティションなどに参加することで、作品作りで自分が大切にしたい部分など、曖昧になっている頭の中が整理されます。
伝えるための「体験」の動画や写真などのアーカイブもまとめることができるので、そういった部分でも良いと思います。
ー中山さんご自身は、コンペティションの参加経験を経てどんな影響や変化がありましたか?
作品の制作中は、それに向き合うあまり客観的な視点でみることができなくなってきたり、「これは本当にいい作品なのか?」など迷子のように感じる時があります。
しかし、アワードを受賞することで出会った方からのご意見や、作品のどこがいいと思ったかを直接伝えてくださったり、展示に来てくださった方がその空間の中で時間を楽しんでくださっている様子を見て、私自身も気づかなかった作品の側面を発見することができました。
これにより、新しい何かを試みる社会実験が成功したかのような気持ちになります。
ーコンペティションやアワードへの応募を検討してるクリエイターへメッセージをいただけますでしょうか。
自分の作品をまとめやすくなっており、自分の中でも言語化することができ、この作品の何を一番大切にしたいかを客観的に知ることができます。
みなさんもぜひ、自分の内側をひっくり返す気持ちでAWRDに作品を登録してみてはいかがでしょうか。
ー今後のご活動についてお知らせください。
7月22日(金)- 30日(土)から、笹塚の共同住宅にてグループ展示を行います。
今は、資本主義の時代。
既存の誰かがつくったギャラリーではなく、自分達でギャラリーをつくり、自分達で0から展示をつくる。そんなことをテーマにグループ展示を住宅で行います。
「家、笑う。資本、踊る。」by Kitchen Gallery
vol.1
7月22日(土)- 30日(日) 13:00-19:00
3 Chome-45-7 Sasazuka, Shibuya City, Tokyo
詳細はこちらからご覧ください。
ー中山さんの新しい挑戦を、これからも楽しみにしております!ありがとうございました。
momoka_nakayama
Profile:
momoka_nakayama
アニマシーインタラクティブアーティスト Animacy Interactive Artist
学生時代から、人が生き物と感じてしまう動きは何かを研究。ロボティクスを制作し発表している。日常に潜むわくわくする現象をすくいあげ、精緻化し、新しい体験へと昇華させてゆくインタラクティブアートを制作していきたい。
主な展示:SXSW2017、六本木アートナイト2019、MIDTOWN DESIGN AWARD2019 、くどやま芸術祭2021 、呼吸を見る展(昭和大学)、LOVE LETTERS talking (sh’s ma Kyoto) etc.
Links
momoka_nakayama インスタグラム
https://www.instagram.com/momo...
AWRDプロフィールページ
https://awrd.com/creatives/use...
編集:AWRD編集部