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物理素材とデジタルの交差点で、作品を通じて社会問題を翻訳する。「Guillaume Slizewicz」の制作背景

2024/01/30(火)

インタビュー

クリエイターとプロジェクトをつなぐプラットフォーム「AWRD」のインタビューシリーズとして、アワードを通して活躍の幅を広げてきたクリエイターの方々にお話をうかがうシリーズです。今回は、「crQlr(サーキュラー) Awards 2021」で受賞プロジェクトに選ばれた、デザイナーのGuillaume Slizewicz(ギヨーム・スリゼヴィッチ)さんにお話を伺いました。


ベルギーのブリュッセルに拠点を置くデザイナーのGuillaumeさんは、デザイン思考やプロダクトデザインに基づき、さまざまな社会問題をテーマに作品を発表しています。素材に捉われることなくアナログとデジタルを横断するGuillaumeさんの作品は、その美しい形状も魅力的です。ビジュアルから興味を持った人々が作品のコンセプトを知り、私たち人々が抱える社会課題や問題を持ち帰ることができます。

循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアを世界から募集するアワード「crQlr(サーキュラー) Awards 2021」で受賞した作品「Canari」も、そのうちの1つです。美しい見た目をしたテーブルランプの背景には、Guillaumeさんの住むブリュッセルやその他の都市の持つ大気汚染への警告が含まれています。

今回のインタビューでは、作品「Canari」に関するお話やGuillaumeさんの創作活動にまつわるエピソードをお聞きしました。

ーGuillaumeさんの作品はcrQlr Awards 2021で受賞されました。「crQlr Awards」に参加されていかがでしたか?

受賞のお知らせと審査員のコメントを読み嬉しく感じたのを覚えています。

「crQlr Awards 2021」を受賞した当時はスタジオを立ち上げたばかりだったので、自分に自信をつけるきっかけにもなりました。そういった意味でも、とても良い経験だったと思います。

crQlr Awards 2021受賞作品「Canari」

ー「crQlr Awards 2021」で受賞したGuillaumeさんの作品「Canari」について教えてください。

「Canari」は、地元の大気質データを光のパターンに変換するランプです。

「カナリア」という鳥は大気が汚染された時に、誰よりも先に察知し鳴いて警告してくれるため、炭鉱夫がカナリアを連れて労働を行っていたことがあります。そのようなカナリアのエピソードからインスピレーションを受けた作品です。

時折「見えない殺人者」と呼ばれる大気汚染は、ほとんど肉眼で感知することができません。政府機関や大学が長らくデータを測定していますが、そのデータは限定的かつ複雑で、馴染みがない人にとってはわかりづらい部分が多くあります。

「Canari」プロジェクトの一つであるテーブルランプでは、大気汚染のデータをランプの光やその速度によって可視化できます。その目的は、市民に情報を提供するだけでなく、警告により彼らが即座に行動できるようにするためです。

このプロジェクトを通じて大気汚染への意識を高めることも望んでいます。石炭鉱のアナロジーを使用することは、過去と現在、鉱山と大気汚染、産業進歩への信仰とそれに伴う被害を結びつけることを意味しています。



ー「Canari」のようなテーマで作品を制作するに至った経緯はなんですか?

私自身が喘息持ちというのもあり、空気が私たちの生活圏をどのように形作り、それを経験しているのかを常に考えていたためです。私はベルギーのブリュッセルという街に住んでいますが、そこはかなり汚染された都市の1つでもあります。そして同時に、クリーンな空気を求めるために多くの市民が活動を行っている都市でもあります。

ー「Canari」の美しい形は、どこからインスピレーションを受けましたか?

ブリュッセルは豊かなデザインの歴史を持っていて、今も多くのアールデコやアールヌーヴォー様式の建物があります。そして頻繁にフリーマーケットが開催されていて、そこでも様々な形やスタイルに触れることができるんです。そういった事柄がより形式的なデザイン教育と結びついて、Canariの創造につながったんだと思います。

ーGuillaumeさんは他にも多くのコンペティションを受賞されていますが、コンペに参加するモチベーションはなんでしょう?

コンペティションに挑戦することで、自分のプロジェクトを第三者に伝わるよう整理するきっかけを得ることができます。そして、受賞すると仲間から評価してもらえることも大きいですが、コンペの賞金も大切だと感じています。金銭を得ることで、自分の創作活動だけに集中する時間を生むことができるので。

創作活動を始めたばかりの時は、自分が身を置きたい分野で信頼性を作り注目を集めることが大事です。その手段として、コンペティションへの参加は素晴らしい方法だと思います。



ーコンペティションに参加した中で、最も思い出深いことはなんですか?

以前、とあるコンペに2回ほど挑戦したことがあります。そこでは賞を獲得することはできませんでしたが、審査員の1人から個別に連絡をいただき、一緒にプロジェクトを作る機会がありました。

公募やコンペに応募することは、予測できない面白い展開に繋がることがあります。



ー普段、ほかにはどのような制作をしていますか?

私の制作は、デザイン、デジタルアート、および製造プロセスの交差点にいます。現在はデジタルセラミックグレージング、セラミック3Dプリント、垂直UVプリント、炭素感知型デジタルインフラ、および森林に関する研究プロジェクトなど、複数のプロジェクトに携わっています。

また、私は人工知能とも多くの仕事をしており、最新の展覧会「promptism: the art of talking with machines」では、新しい画像合成モデルの潜在的な技術および倫理的限界を探究しました。



ー制作の中でもっとも重要視しているところや、こだわりはありますか?

私はほとんどの創作は、常にコレクティブの一部であると考えています。そのため、他の人々と協力し、彼らから知識を得て一緒に創り上げることができるプロジェクトを考えるようにしています。

「La grandeur d'un métier est peut-être, avant tout, d'unir les hommes : il n'est qu'un luxe véritable, et c'est celui des relations humaines.」(仕事の偉大さは、おそらく何よりもまず人々を結ぶことである。それは真の贅沢であり、それは人間関係の贅沢である。)
ー アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ, 『Terre des hommes(人間の土地)』, Le Livre de Poche, 1939, p. 42

これ以外にも、知的で美的な好奇心を感じることができるプロジェクトを見つけるように心掛けています。


ーGuillaumeさんはプロジェクトや作品制作を手がけるにあたって、テクノロジーと異素材を様々な形で組み合わせています。そのような手法に至ったのはなぜですか?

デジタルテクノロジーと共に仕事をしている傍ら、常に画面から逃れようとしているからだと思います。

また、私は物質的な世界がどのように作られているかに興味を持っていて、新しいプロセスや方法を学んでオブジェクトやインスタレーションを作り出すことに熱意があります。物事に特定の形や特異な形状を与えることは、私にとって非常に重要なことです。


最新の展覧会「promptism: the art of talking with machines」より

ー制作を始めたきっかけはなんでしょうか。また、いつ頃から活動をしていますか?

これは難しい質問ですね。本質的な養育対文化の影響だともいえますし...。私がそれを楽しんでいたからでしょうか。私はそれが得意だったからでしょうか。ある日誰かが私を励ましたからでしょうか。これだと言い切るのは難しいですね…。

私は常に創造的な実践を行っていましたが、数年前に自分の会社を設立したときに、制作が私の生活の中心になりました。今ではそれに全時間を費やすことができて嬉しいです。(管理業務などはまだたくさんありますが :) )



ー1番思い出深い代表作はなんですか?

私の最新の作品「Stack」です。この作品は、私の知識に対する執着心と、我々人間がそれを作り出し、共有し、利用するという種としての側面を象徴したアートピースです。

「Stack」

ー影響を受けた人やプロジェクトなどはありますか?

家族や友人は大きな影響を与えてくれています。

また、高校時代の美術のマーティン先生にも非常に大きな影響を受けました。彼は何か魔法のようなものを持っていて、どの生徒も最善の成績を出したいと思わせるような人です。彼の指導を受けた多くの人が素晴らしいアーティストになりました。彼は新しいアーティストについて教えることで文化的な視野を広げるだけでなく、授業を通じて本当に私たち一人ひとりに興味を持ってくれました。そんな美術の授業や先生自身が、私の思春期に重要な要素を与えました。



ーアートで社会の抱える問題やそれを提起するにあたって最も大事なことはなんだと思いますか?

社会問題に関するとき、デザイナーやアーティストの役割には常に二律背反の思いがあります。私たちは作品を通してそれらを強調するか、明らかにすることができますが、本当の活動はおそらく政治的な行動にあると思います。

時折、美徳を示すことには警戒心があります。社会的な問題に対処する際、私は規制や行政、または他の見かけ故に退屈で目に見えないようなテーマを、異なる形状や形式を与えることで周囲に興味を持たせることが、私たちの役割の一部であると考えています。



ー最後に、開催予定の展覧会や新しいプロジェクトなどありましたらあれば教えてください。

現在、下記の三つの展示を控えています。

Promptism until the 9th of december in Leuven (BE)

Impakt until 7 January 2024 in Utrecht (NL)

Exhibition Woodland at Schloss hollenegg July 2024 (Austria)


ーGuillaumeさん、ありがとうございました。

Guillaume Slizewicz

Profile:

デザイナー

Guillaume Slizewiczは技術で語りますが、そこに感情豊かな物語を伝えます。彼は地元の空気の質からオンライン監視などの複雑な社会問題を、デジタルと物理的な(im)素材を組み合わせたオブジェクトやインスタレーションに翻訳します。ガラス、アルゴリズム、木材、社会科学、セラミック、回路基板、文学、写真、コード、植物園、ロボット、コンピュータの声、光――Guillaumeの心と手において、これらはすべて興味津々なアマチュアから要求の厳しい専門家までを対象とした魅力的な体験に形作られるべき素材です。

2013年に政治学、哲学、経済学を卒業した後、Guillaumeは戦略家およびコンサルタントとして働きました。これらの年月の中で、彼はデザイン思考、プロダクトデザイン、最終的にはデータ可視化と機械学習に傾倒し、それがCopenhagen School of Design and Technology(KEA)でのプロダクションテクノロジーの学士号の取得とNamurのインタラクティブデザインスタジオSuperbeでのインターンにつながりました。ブリュッセルに到着した彼は、ブリュッセルのLUCA School of ArtsおよびULBによるUrban Species研究グループのデザイン研究員として働き始めました。同時に、2020年に彼は自身のスタジオを設立し、テクノロジー、自然、社会の複数の関係について考察するデザインプロジェクトを制作および展示しています。現在はMAD Brusselsでインキュベートされ、Guillaume SlizewiczはAlgolit、Anaïs Berck、またTropozoneなどのコレクティブで活動しています。彼の作品はImpakt(ウトレヒト)、Design Museum(ガント)、Le Pavillon(ナミュール)、BioArt Labs(アイントホーフェン)、Fake/Authentic(ミラノ)などの機関、およびブリュッセル、ルーヴェン、バーゼル、香港の大学、さらにはブリュッセルの地元の都市環境に深く入り込んだBiestebroekbis、La Maison du Livre St Gilles、Constantなどの草の根の会場で紹介されています。

Links

Guillaume Slizewicz ウェブサイト
studio.guillaumeslizewicz.som

AWRDプロフィールページ
https://awrd.com/creatives/user/11706593

編集:AWRD編集部

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