コマーシャルムービーからソーシャルな映像プロジェクトまで、「心に刺さる」映像を手がけるくろやなぎてっぺいさんのインタビュー、後編です!
テレビ番組のジングル映像やコマーシャル映像、ミュージックビデオのディレクションなどを多数手がけながら、アートユニット『1980YEN(イチキュッパ)』としてビビッドなパフォーマンスをしている映像ディレクター・くろやなぎてっぺいさん。
クライアントワークとは別に、2013年から続けている『あいうえお作文RAPプロジェクト』では、「音楽と平和」をテーマにソーシャルな映像を制作しています。
そんな、くろやなぎさんの創作活動の源泉をさぐるインタビュー。後編では、兵庫県の里山・多可町のPRムービー共創プロジェクト『TAKA VIDEO CAMP』と、そこから生まれた映像作品『TAKACHO PHYSICAL PROMOTION』のお話を伺います。さらに、アートユニット『1980YEN』のお話やこれからの野望(?)についてもお話してくれました。
前編はこちら
ことばやロジックを飛びこえる「音楽のちから」
『TAKACHO PHYSICAL PROMOTION』:兵庫県の里山・多可町(たかちょう)の公式PRムービーを共創する映像キャンププロジェクトで、awrd.com を通じて映像作家が募集された。キャンプに参加した映像作家による企画コンペの結果、選ばれたのが本作品。https://takavc.project.cc/にて完成した映像を公開中。
―(AWRD編集部、以下略)多可町のPR映像共創プロジェクト『TAKA VIDEO CAMP』で撮影された『TAKACHO PHYSICAL PROMOTION』について。やはり、『あいうえお作文RAP』と同じように「演出なし」で撮影したのですか?
(くろやなぎてっぺい、以下略)最初に身体をほぐすのに、スタッフも演者の方も一緒にみんなで踊りましたが、テロップの文章と振り付けは、出演するみなさんに自由に考えてもらいました。
多可町のプロジェクトで発見したことは、「ダンスにはその人の積み重ねてきた歴史が見える」ということです。青春時代にディスコに行った人はディスコっぽい振りつけで、お祭りが好きな人は盆踊りのような動きになります。その人の記憶に残っているものが、無意識のうちに身体に刻まれているんです。
―音楽を糸口に、人の歴史を紐解いてい感覚ですね。おばあちゃんも、気難しそうなおじさんや役所の方も、みなさんノリノリで踊っていてびっくりしました。
不思議なことに、はじめは恥ずかしがっていた人も音楽を流すと身体が乗りはじめます。特に男性の方たちはちょっと堅い表情でしたが、音楽をかけた瞬間すごくいい顔で踊ってくれました。
ーまさに、音楽のちからを実感する瞬間。
音楽って不思議ですよね。『TAKACHO PHYSICAL PROMOTION』も『あいうえお作文RAP』も、音楽を使うことで言葉だけでは伝わらないエモーショナルな部分を伝えられました。
クライアントワークでも、ことばやロジックだけで話し合うと分かり合えないことも多いですが、音楽をひとつの媒介にすることで、スッと企画意図を理解してもらえるケースがあります。
多可町のコンペでは「テンション超たかい、多可町」というキャッチコピーを使いましたが、このコピーと企画書だけでは町役場の方や審査員に納得してもらえなかったかもしれません。最終審査のビデオコンテで音楽と映像を組み合わせたことで、伝わったんだと思います。
文化庁『著作権者不明の場合の裁定制度~みつからないときの詩~』:難しい裁定精度のルールの概要を歌詞に込めて映像化。クライアントとの2度目の打ち合わせで歌詞と音楽を提案したところ、方向性が決定。これも音楽で企画アイデアがスムーズに共有できた好例だそう。文化庁長官(当時)のラップは必見です。
コンセプトは「ドンキ」? 増殖するアートユニット『1980YEN』
―『1980YEN(イチキュッパ)』というアートユニットで、音楽活動もしていますね。ディスカウントショップのドン・キホーテのようなカラフルで情報過多な世界観が圧巻ですが、活動を始めた経緯を教えて下さい。
デザインの学校で習う、西洋型のミニマルデザインに違和感を感じていて、僕らのDNAにはちょっと合わないんじゃないかと思っていました。東洋が持っている独特な「盛り文化」にこそ僕らのビジュアルアイデンティティーがある気がして、食品まつりと一緒にこのユニットを立ち上げました。
もともと2人で活動していましたが、いまは、ファストボーイ、シシヤマザキ、佐藤ねじ、光戦士、と新しいメンバーも加わり個性豊かな7人で活動しています。
―2人から7人に! 大所帯ですね。
このメンバーでブレストするの、すっごく楽しいですよ。みんなアイデアを持っているから、どんどんカオティックになっていきます。
1980YENのコンセプトはドン・キホーテ的な世界観で、ミニマリズムと対局。いろんなメンバーがいるのもドンキ感がありますよね。
―1980YENとして、映像やインスタレーションなどジャンルを横断した表現活動もしています。
音楽のみならずいろんなことができるチームなので、アート活動もどんどんやりたいです。今年は六本木アートナイトで『館内放送GIG』というプログラムをやりました。ミッドタウンの館内放送をハックして、アナウンスの境界を探る試みです。
アーティストとソーシャル活動、仕事のバランス
―クライアントワークをしながら、アーティスト活動。忙しそうですが、それぞれの活動にいい影響がありそうです。
音楽の楽しさは、一度はまると抜け出せませんね。ライブで人前に立つのが気持ちいい。道路警備員の頃の「注目されたい!」という感覚から、変わっていないのかもしれませんね。
音楽から映像まで、自分で作れるのもすごく楽しい。いまは音楽づくりはほかのメンバーにまかせて、ぼくは企画やビジュアルに専念することが多いですが、それでも音楽が生まれる瞬間に立ち会えるのはうれしいです。
毎年一年間のワークバランスをどうするかは考えていて、今年はクライアントワーク6割、アーティスト活動2割、ソーシャル活動2割ぐらい。『あいうえお作文RAP』をはじめた年はソーシャルが7割。お金を稼ぐ時間がなくて大変でした。
―これから、新しく挑戦したいことはありますか?
これまで、4年周期ぐらいで活動内容が変わっているんです。20代で警備員とラインマンをやって、デザインをやって、映像、音楽。いまは、これまでやってきたことを寄せ集めて、混ぜながら仕事をしている感じです。
アクションを起こすには、ジャンプの飛距離が大事だと思っています。音楽と映像は距離が近いから、なかなか大きくは変化しない。だから、次の4年間はぜんぜん違うところにジャンプしたいです。いま「いいな」と思っているのは、雀荘。音楽と映像と雀荘って、合いそうじゃないですか?
―音楽と映像と雀荘! 見たこともないような場が生まれそうで、楽しみです。
Profile:
くろやなぎてっぺい/映像ディレクター
2005年からフリーランスの映像作家として活動を開始。ミュージックビデオ、TVOP・ アニメ ーション・プ ロダクト・ゲームコンテンツなど多方面で活躍。「映像作家100人」 選出。またNOddINのメンバーとして 「あいうえお作文RAPプロジェクト」を企画。 芸術分野でも広く活動しビデオアートやインスタレーション 作品を発表。文化庁メディ ア芸術祭、アルス・エレクトロニカ、SIGGRAPHを初め、国内外のメディアアートフェスティバルに多数参加。またアートユニット1980YEN(イチキュッパ)を旗揚げし、音楽、 映像、現代美術をミックスした独自のスタイルで活動。
Website:http://nipppon.com