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interview:全日空(ANA)の挑戦。日本のものづくりよ、世界に羽ばたけ!イノベーターを創出するWonderFLYとは

2018/07/09(月)

インタビュー

全日空(ANA)「WonderFLY」 ✕ ロフトワーク「AWRD」によるクリエイティヴ・アワード「こどもを夢中にさせる新発明!〜スマホに代わるこどもの夢中アイテムを募集〜」が開催中です。

WonderFLYとは、優れたアイデアを募るクリエイティブアワードとアイデアを実現するためのクラウドファンディングを掛け合わせたハイブリッドなプラットフォームです。ANAが2016年にスタートしてからわずか2年弱ですが、これまで数々の素晴らしいアイデアを製品化へと導いています。

一見、フライト事業とは結びつきにくいプロジェクトをANAがチャレンジしているのはなぜだろう?WonderFLYの仕掛け人であるANAデジタルデザインラボ 梶谷ケビン氏とロフトワーク二本柳との対談から見えてきた、エアライン事業への華麗なる紐付け方やプロジェクトに込められた思いをお届けします。

右)ANAデジタル・デザイン・ラボ梶谷ケビン氏 / 左)ロフトワーク 二本柳友彦(「WonderFLY」 ✕ ロフトワーク企画担当プロデューサー)

「飛行機」がくれたワクワク感を思い出したい

ー(ロフトワーク・二本柳友彦、以下略)早速なんですが、ANAでこんな大胆な企画を実現しようと思うモチベーションとか、ケビンさんのキャリアが気になります。

(梶谷ケビン氏、以下略)私は元々飛行機が大好きなんです。それがきっかけで、大学は航空宇宙工学を専攻して最初の仕事は飛行機を設計するボーイング社に就職しました。初めは理系のエンジニアでのスタートでした。

ある時、飛行機は夢があるものだったのに、普及してくると、ただの移動手段となってしまっているのではないか?と疑問を持ち始めたんです。

飛行機は世界中の人たちへ、ビジネスチャンスや、リレーションシップ、インスピレーションを提供する夢のある乗り物です。私は飛行機を軸にした新しいビジネスを、もっと多くの人たちと行うことで世界をより良くしていきたい、という気持ちでこの企画を考え出しました。


WonderFLY公式サイト

誰かの、新しいチャレンジを応援したい!いろんなチャンスを届けたい。やるからにはA→Zまで

ー エアラインであるANAがこのようなプロジェクトを立ち上げると聞いたときは本当に意外でした。一体どんな状況で生まれたんでしょうか。

私の所属するデジタル・デザイン・ラボは、2016年に誕生した部署で、将来の収益源となる新しい可能性を探るミッションを担っています。WonderFLYは、そのなかから生まれたプロジェクトです。

ちょうどその頃、アメリカ最大級のクラウドファンディングサイトKickstarterが日本にも導入されるという話もあり、クラウドファンディングという資金集めのサービスが世間に浸透していく気配を感じていました。

クラウドファンディングを通して、ANAとお客様が一緒に、アイデアを持ってチャレンジする人を応援することで、より良い世界が作れないかと思ったんです。

ただ、そういうエンジンみたいなものを作りたいと考えた時に、お金だけ集めた資金提供だけにしてしまうと、チャレンジャーへの本質的な支援にならない。無責任に感じてしまったんです。それなら、アイデア創出→企画→プロトタイプ→資金集め→改良→パートナー探し→量産→販売までのプロセスをサポートしよう、AからZまで取り込もう、という発想に転換しました。


ー Wonder FLYのような新規プロジェクトを立ち上げるのって大変なエネルギーが必要ですよね。強い意思がないとできないことだとも思うのですが、どんなチームで始まったのでしょう? 

このプロジェクトは、当時マーケティング部に所属していた同僚の深堀昴と二人で立ち上げました。その後同じラボに所属しましたが、それまでは部署を超えてのビジネスパートナーとしてプロジェクトを行っておりました。

例えば、社会起業家をサポートするフォームBLUE WINGや既成概念を超え、新たな移動手段を創造するプロジェクトANA AVATARなども一緒に立ち上げています。

かつて誇りと憧れを感じていた日本ブランド。その誕生にどう貢献できるか

彼は帰国子女で、私は日系アメリカ人として26年間アメリカに住んでいました。

子供の頃は、日本はとってもクールに映っていました。例えば、任天堂のゲームやアニメ、ファッション、たまごっちなどのブームを生み出すソフト面。ハード面だと、ウォークマンやヘッドフォンはソニーだよね。車はやっぱりトヨタだよね。という日本への憧れを抱いた環境で二人とも育ってきました。

日本ブランドはとても誇りに思っています。しかし、最近それを聞かなくなってきた気がしていたんです。その原因はなんだろうと考えたときに、もしかしたらモノづくりの資金が不足しているのかもしれないと仮説を立てたんです。それで日本の投資について調べてみたらまさにその通りでした。

ベンチャーキャピタルとエンジェル投資の市場規模をアメリカと比較すると、日本は1/35 しかありません。しかも日本はコーポレート系投資が多いので、企業の制約に縛られた自由度の低い活動になってしまいます。一方、アメリカは個人投資家が主流です。更にそれを加速しているのがクラウドファンディングなのです。

ー日本の投資事情がモノづくりにも影響していたんですね。

日本には伝統技術や文化など、日本ならではの素晴らしいモノやコトがあるんです。すごく良いものがあるのに、その良さが世界に発信できないのはもったいない。「日本をもっと元気にしたい」と思いました。

私は日本へ移住して9年経つのですが、ビックリしたことがあって、本当に色々な取り組みをしている企業や人がたくさんいらっしゃるんです。ロフトワークもそうです。そのムーブメントをもっとスケールして日本発アイデア、クリエイション、イノベーション全部を海外にもっていき、日本の素晴らしさを発信したいと考えています。

企画は1日で!企画書も居酒屋で一気に書き上げた

ー クラウドファンディングという仕組みは既にあるとしても、WonderFLYは本当によく作られたサービスですよね。どれくらい期間で企画しましたか?

1日です。

ー1日!?

はい。最初の打ち合わせで、「絶対うまくやる」と深掘と決めました。

当初30分のミーティングだったのですが、あっという間に時間がなくなり会議室を追い出されてしまいました。私たちは、仕事が終わった後に居酒屋でしゃぶしゃぶ食べながらパソコンで資料を作り、翌日には社内のキーパーソンの人たちに協力してもらえるように相談していました。

2週間後には、社長へのプレゼンの場をいだだくことができました。そしたら社長がこの新しいチャレンジに共感していただいてOKが出ました。そこから次のステージに進むことができました。

ー すごい!企画の速さもさることながら、決定まですごくスムーズに決まりましたね。

ヘリコプター2機からスタートしたベンチャー時代を経験しているANAには、今も挑戦を重んじる企業風土がアイデンティティとして息づいているんです。

「あの時にANAが支援してくれたから、あの活動を応援したいから、出張や旅行は青い翼に乗ろう。」ANAがアイデアから製品化、販路のサポートまですると、エアラインビジネスに繋がる

-クラウドファンディングだけ、アワードだけをやっているケースは多いけれど、両方を繋げてECで売る、というサービスは本当になかったなと思います。クラウドファンディングが起点になったっていうのも面白いですね。そんなWonderFLYですが、具体的な事例をご紹介いただけますか?

代表的な事例が2つあります。一つ目は最初に行ったクリエイティブアワードの「旅の常識を覆す」というテーマから誕生したケースです。

これは、歩行が不自由になり旅を諦めていた人も気軽に使えるモビリティースクーター(電動車いす)「SCOO」です。軽量でコンパクトに折りたためるので、飛行機をはじめ、電車、バス、タクシーにも乗せられ、国内はもちろんヨーロッパ、アメリカの安全基準で設計しているので、旅先でも安心して使用いただけます。

発案は、高橋製瓦という瓦屋なのですが、そこで培った技術とノウハウを活用して電動車椅子を考案しました。このアイデアは、モビリティへ市場へのアプローチも見据えた優れたアイデアとして選出されました。

賞金100万のプロトタイプの保証金を付与し、この資金を使って3Dプリントしたモックアップを作りました。次にクラウドファンディングで1000万の目標でトライし、見事調達サクセスしました。

今、製品をANAが運営するオンラインショッピングサイトA-styleで売れないか、という調整をしています。そうなるとAからZまでの一つのパッケージが本当に実現します。

高橋製瓦は、SCOOがきっかけで事業をスピンアウトさせ、新しく別会社の株式会社キュリオを設立しました。今では海外での福祉イベントへの出張が増えたり、工場がある台湾へ行ったりと、ANAを利用いただき世界中を飛び回っています。

ーなるほど!このプロジェクトをANAがやらねばならぬところって、なんだっけ?と思った疑問がスッと解消されました。

はい。もしかしたら、「あの時にANAが支援してくれたから、あの活動を応援したいから、出張や旅行は青い翼に乗ろう。」という気持ちになる方が、一人でも増えるのではないか?と考えたんです。遠いですが、それが航空事業に結びつくわけです。

話を戻して、2つ目のアイデアはですが、同じテーマの募集で上がった別のアイデアです。 

これは、機内での退屈な時間をちょっと幸せにする、”エスプレッソのようなお茶”を作れるお土産品「SHIZUKU」です。

一番甘味が出る「氷出し」という時間のかかるお茶の抽出方法を採用したアイデアです。「氷出し」という昔からある知恵を使い、「フライト中の待ち時間の長さ」と「氷出し茶の抽出時間の長さ」をリンクさせ、機内で退屈と感じる時間をワクワクした時間へと変えてくれる製品です。

このアイデアは名古屋工業大学の大学院生が考案しました。彼は初めての挑戦で賞金100万円を手にしました。そのお金でプロトタイプを作り、それをクラウドファンディングして目標金額40万円を設定したのですが、蓋を開けたら金型を作るのに1000万くらいかかることが判明して。「これ作るのに、俺死んじゃいますよ」みたいな事態になってしまって。笑

ゴールへの距離が遠すぎて、途中挫折しそうにもなったのですが、なんとか成功させたくて、彼と企業パートナーを一緒に探しました。甲斐あって無事パートナーが見つかり量産も実現できました。私も2個買いました。とても素敵なセットです。

悪戦苦闘した彼ですが、今では大学が投資し起業しています。

- 大学が投資を!へぇ。

ちょうど大学が学校発ベンチャー企業に投資を行う取り組みを行っていたんです。さらにA-styleでも販売の検討を始めています。これからも必要に応じてサポートしたいと思っています。

-WonderFLYを通して世界に羽ばたくイノベーターを創出してますね。

このような支援はANAだけじゃなくて、お客様と一緒にできるところがWonderFLYの特徴です。ANAにはマイレージ会員約3000万人というお客様がいます。その方々にクラウド(群衆)になっていただき、ANAのマイレージでクラウドファンディングができるという仕組も考えました。

今ではANAの媒体、SNS、機内誌などでもプロモーションし、WonderFLYから生まれた製品をラウンジでで展示したこともあります。お客様との接点をつくりPRを行っています。ANAのクラウドファンディングの大きな特徴の1つでもあります。

一企業ができることは少ないけれど、みんなが100円出せばすごいお金になりますし、企業全部を一つのプラットフォームに集めて提案すれば必ずパートナーは見つかると思います。

日本のお互いを助ける文化がこのような形で、新しいアイディア、チャレンジを応援することに繋がっているんです。

― WonderFLYはどのように収益を得ているのでしょうか?

次のチャレンジャーに継続できるモデルビジネスとして回るように、クラウドファンディングの手数料、ビジネスマッチングの手数料と販売手数料だけいただいています。全部成果報酬です。

「一緒にシーンを盛り上げてからライバルになりましょう」ムーブメントをつくるには、他者や同業サービスとのコラボレーションから

- 今回、AWRDと一緒にアワードを開催していますが、他にも共同プロジェクトで朝日新聞社が運営するクラウドファンディングのA-portなどとも共催されてますね。他のサービスとのコラボレーションをしようと思ったのはどんな発想からですか?

そうですね、AからZという仕組みがやっと型になってきたのですが、いくらクラウドファンディングが素晴らしいプラットフォームだとしても、多くの人達が参加して、支援されなければ成り立ちません。そういう意味ではまだまだWonderFLYの認知度が低いというのは現状だと思います。

そこで、プラットフォーム同士が完全にタイアップして、パートナー同士がお互いのプラットフォームに同じプロジェクトを発信して、完全連携させようと思いました。

クラウドファンディングは、市場的にはこれからなので、お互いのサービスをライバルとして意識しても意味がないと思うんです。ムーブメントを作るには1社だけではなく、いろんな人たちと組むのが一番いいパフォーマンスが出せると思っています。

ー AWRDでもご一緒できてよかったです。今回はアワードにクリエイターVS.という、これまでにない手法を取り入れたのも新たしいチャレンジですよね。

そうですね、人気クリエイター佐藤ねじさん率いるブルーパドルVS応募者という新たしい手法を取り入れたことにより、ハイクオリティなアイデアが集まるのではないかなと思います。これまでの賞金が10分の1になってはいますが、我々にとってもチャレンジです。

-今のこの形をちゃんと追求していって、ちゃんと正しい人たちに訴求していければ、賞金だけではないところで挑戦者を巻き込んでいけるプラットフォームになると思っています。そのサポートがAWRDでできたらと。

それはすごく嬉しいです。お金はクラウドファンディングのプラットフォームでもいいと思っています。本質的に思いはあるけど、ハードルが高くて苦戦している人たちをこれからもたくさん支援してきたいと思っています。そこに一番面白い案件が眠っていると思うので。

-そのケビンさんの思いは、絶対私たちが一緒にやれる部分だと思います。本当にこうやってできるのが、ありがたいと思います。

引き続きよろしくお願いします。これからどんなアイデアが集まるのか楽しみです!


編集後記

2機のヘリコプターからスタートしたというANAの創業当時から続くベンチャーマインド“努力と挑戦のDNA”は、ケビン氏の中にも脈々と受け継がれているのだと感じたひと時でした。

ビジネスチャンスを考えていたり、将来のロードマップを考えていたりする人にとっても、これからの可能性を広げてくれるヒントが詰まっていたのではないでしょうか?

さて、ANA WonderFLY✕AWRDのクリエイティブアワードは7/30まで募集中です。アイデアを考えたり、クラウドファンディングで応援したり、もちろん両方でも。色々な参加方法が楽しめます。未来を担うこども達のためのアイデア募集。みなさんならどんな形で参加しますか?(二本柳)

■WonderFLY:https://wonderfly.jp/

■全日本空輸株式会社:https://www.ana.co.jp/

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