文:吉澤瑠美 / 編集:FabCafe 編集部
本記事では、2019年11月19日にFabCafe Tokyoで開催されたイベント「今、企業が考えるSDGs – Global Goals Jam Report –」の内容をお届けします。
2015年に国連総会で採択された、世界共通の17の目標「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」。ターゲットとする2030年に向けて、世界各国では大小さまざまな取り組みが動き出しています。Global Goals Jamとは、MediaLAB Amsterdamのデザインメソッドを使いながら、このSDGsに向けてローカルな社会問題に取り組む世界的なデザインワークショップです。今回は、2019年9月にFabCafe Tokyoが主催したイベント「Global Goals Jam Tokyo 2019」を振り返りながら、年々高まるSDGsへの注目度と企業の関わり方について、示唆に富んだレポートが共有されました。
「厄介な問題」だからこそデザインの力が可能性を切り拓く
初めに、国連開発計画(UNDP)駐日事務所に在籍しユース連携コンサルタントを務める大阿久裕子氏より、SDGsの概要を改めてご説明いただくとともに、UNDPの取り組みを伺いました。SDGsがスタートした2016年時点では国内でも認知拡大が優先される状況でしたが、近年では認知がかなり拡大し、具体的な行動が求められるフェーズへと移行しています。
国連開発計画(UNDP) 大阿久裕子氏
では、SDGsに対する具体的な行動とはどのように取り組めばよいのでしょうか? FabCafeをプロデュースした株式会社ロフトワークに所属する加藤修平は「SDGsにデザインを取り入れる」ことを提案しました。ここで言う「デザイン」はパッケージデザインなどに留まる話ではなく、サービスデザインやビジネスデザインのような上位概念を指しています。
ロフトワーク 加藤修平
「Wicked Problem(厄介な問題)」という言葉があります。問題もソリューションも定義できず、また解釈が人によって異なるので統一された対策を取ることができない、という意味合いで、代表的な例として戦争が挙げられますが、「これをすれば良い」という明確な解が定義できません。こうした問題に対して、プロトタイプを通して体験を考える「デザイン思考」の手法が有効なのでは、と指摘します。
デザイナーは、プロトタイプを作ることによって「あり得る未来」を社会に提示することができます。Studio Formafantasmaは、スタイリッシュなデジタルツールを分解し、再生可能なパーツの少ない現状を作品として示しました。また、国土交通省は効率的な介護や子育てのため紙おむつを下水道で処理する未来を多角的に検討する「Deasy カンファレンス」を開催しました。各々が関われるポイントを見出し、デザインの力を使って可能性を模索することがSDGsに対するアクションの有効な第一歩になりそうです。
子どもから大人まで参加するGGJが生み出す、次なるアクション
今回のタイトルにも冠している「Global Goals Jam (GGJ)」は、冒頭でもお伝えしたようにSDGsに向けて世界規模で行われているデザインワークショップです。GGJ Tokyo / Hong Kong / BangkokをモデレートしているFabCafe Global コミュニケーションコーディネーターのKelsie Stewartが、先日100BANCH(東京都渋谷区)で開催されたGGJ Tokyoを振り返りました。
FabCafe Kelsie Stewart
約90都市で6,000人以上が参加しているとされるGGJのキーポイントは「Think BIG, Start SMALL, Act FAST」。各国の事情にとらわれすぎず世界規模で考えること、身近にできるものや必要なものから始めること、そして議論や構想で終わらせずに実行へと移すことに重点を置いています。
今年のGGJ Tokyoには9歳の子供から60代まで、国籍も年齢も問わない幅広い層の人々が参加。2日間という短い期間ながらも、課題を解決しSDGsを達成につなげるさまざまなアイデアが飛び交いました。また今年は世界初の試みとして、FabCafeの関連サービスであるオンラインプラットフォーム「AWRD」を通じ60以上のアイデアがオンラインで共有されました。
GGJを開催することによって、フリーマーケットやミートアップなど、参加者の間では草の根運動的なアクションが世界各地からボトムアップで生まれています。本イベントの会場となったFabCafe Tokyoでも、ファッションからサステナビリティを考えるというテーマでMaterial Meetupというイベントが催されました。GGJはアクションを起こす人々のコミュニティを醸成し、アクションを促す場としても機能しています。
今年のGGJ Tokyoに参加した日本航空株式会社の甲守弘氏は、「違う業種や違う世代、普段の仕事では接することのないメンバーと組むチームのシナジーで、思いも寄らない結果にたどり着く快感は企業にも必要な体験」とその意義を熱く語りました。
日本航空株式会社 甲守弘
GGJは国連の定めるGlobal Goals Weekと連動し、秋に世界中で一斉開催するイベントですが、その縮小版である「Mini Jam」は一年を通していつでも開催することができ、FabCafeでも開催されています。多様性のあるメンバーが集い議論を深めるGGJやMini Jamは、世界中に10以上の拠点とクリエイティブなネットワークをもつFabCafeとも好相性。今後もコミュニティの拡大やさまざまなアクションの発信が期待されます。
「リアクション」から「アクション」へ、各国企業の取り組み
これらのレポートを振り返り、FabCafe プロデューサーの野村善文はSDGsについて「理解する、認知する」というフェーズは終わった、と指摘します。では、私たちはこれからSDGsとどう向き合えば良いのでしょうか。
FabCafe 野村善文
オランダ航空(KLM)は、「次の100年間を考えて、『責任ある航空』を」というキャンペーンを打ち出し、デルフト工科大学(TU Delft)との共同研究により少ない燃料で航行できる新航空機を開発。キャンペーンで終わらせず実際にアクションを起こしている姿勢が話題となり、入社希望者が大幅に増えたといいます。
また、デニムブランドのunspunでは、3D出力できる織り機によってデニムの世界から「サイズ」の概念をなくす試みに取り組んでいます。サイズやデザインが合わないために発生する「余剰な生産」を減らすことが地球環境の保全につながるという考えです。
これらの事例のように、サステナビリティに訴求するベンチャーは世界中で続々と増えています。私たちには、リアクションではなくアクションにすることが求められている時代なのです。
FabCafeでは「What do you Fab?」をタグラインとして、外部と連携しさまざまな活動に取り組んでいます。飛騨を拠点とするFabCafe Hidaではその地域資源を活かし、ニューヨーク州立大学バッファロー校を迎えて、デジタルファブリケーションと伝統技術を学ぶ教育プログラムを提供しています。
また、40か国以上の国々から応募が集まるグローバルクリエイティブアワード「YouFab」では、テーマ賞を通じて企業とクリエイターをつなぐ試みも行われています。サステイナブルな食や産業を提案するフードクリエイターともコラボレーションし、単なるカフェとしてだけではなく、新しい食を発信するきっかけの場としても注目を集めています。
消費者からも注目を集めるSDGsは「事業機会の宝庫」
FabCafe CEOの諏訪光洋は「SDGsに取り組む企業が8割を超えている」と語り、CSRの一環としてではなく新事業のヒントとしてSDGsと向き合う企業が増えてきていることを指摘しました。ESGやSDGsに注目して購買、投資の対象を選ぶ消費者も増加傾向にあり、企業にとってSDGsは「さまざまな事業機会の宝庫」と言えそうです。
FabCafe CEO 諏訪光洋
とはいえ、これまでまったくSDGsと接点のなかった企業はどこから着手すべきか迷うところ。諏訪はこの日のプログラムを振り返り「GGJのような実践的なフレームワークから始めてみては」と提案します。デザイン思考のくだりにも触れ、「企業内で完結させるのではなく、クリエイターやデザイナーといった外部視点を取り入れる」ことがブレイクスルーの秘訣であるとして、プログラムを締め括りました。