2024年12月6日(金)に渋谷のロフトワークで「Year End Party 2024(YEP)」が開催されました。
今年のテーマは「2050 ーPluriverse(多元世界)」。2050年の未来は、すでに答えがあるように感じるけれど、きっとそうじゃない。YEPで乾杯しながら、ひとつじゃない世界の可能性を一緒に探求します。
会場は、来場者が自由に交流し、未来のビジョンを共有するきっかけとなるように、ロフトワークが携わってきたさまざまなプロジェクトにまつわる展示が行われました。AWRDのブースでは「怪談」を切り口に、窒素にまつわる環境問題を伝えるプロジェクトで注目を集めた「Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素」の一部を展示し、体験いただきました。来場者の感想も交えて、会場の様子をレポートします。
「怪談」を切り口に窒素問題を伝える展示「Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素」を振り返って
「Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素」は、目に見えない存在である「窒素」と「怪談」を題材に、研究者とクリエイターが共創したプロジェクトです。
私たちの生活や地球環境に大きな影響を与えるものの、普段は意識されにくい「窒素」に対する認識を作品を通して見つめ直すことを目的にスタートしています。
2024年9月にFabCafe Kyoto、11月にFabCafe Tokyoで開催された展示「Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素」。窒素は空気の78%を占め、アンモニア生成に貢献します。20世紀はじめに窒素からアンモニアを合成する技術を獲得した人類は、化学肥料を手に入れ、たくさんの作物と家畜を育てられるようになり、食生活の豊かさを追求してきました。
しかし一方で、私たちの社会からたくさんの窒素が環境に漏れ出し、人や自然の健康を損ねています。陰ながら私たちを支えてくれていた存在に対して欲をかきすぎた結果、しっぺ返しをくらってしまうという訳です。
このプロジェクト「窒素と怪談」では、研究者とクリエイターが物語や五感を刺激する作品を通じて窒素問題を表現。展示は京都・東京で好評を博し、AWRDでは制作プロセスをアーカイブし、賛同したクリエイターが参加できる仕組みで、プロジェクトをオープンにしています。
この展示に参加したのは、怪談師、サウンドアーティスト、水と蒸留をテーマにしたカクテルスタンドの3組のクリエイターたちです。それぞれが「怪談」と「窒素」をテーマに、ユニークな作品を制作しました。
YEPで紹介した、水と蒸留をテーマにしたカクテルスタンド フレくのThe Mingle「混ざる」
The Mingle 混ざる
水と蒸留をコンセプトとするカクテルスタンド フレくは、人間の欲や豊かさと窒素の関係からインスピレーションを受けた「インセンス(お香)」を制作。
見えない畏れを香りで感じ、祈りと擬似対話で意識が混ざり合う体験が生まれました。
このように、異なるクリエイターたちがそれぞれのアプローチで窒素問題を表現した「窒素と怪談」プロジェクトは、科学的なテーマをアートとして具現化し、観客に深い思索を促すものとなりました。
https://awrd.com/creatives/detail/16043503
プロジェクトのコラボレーター、怪談師、サウンドアーティスト
怪談師の深津さくらさんは、窒素問題の「トレードオフな関係性」から着想を得て、これまでに集めた怪談を「百物語」として展示。
怪談という娯楽の表裏、刺激や興奮を得る対価を見つめることを伝えます。
Inhaled and Exhaled - 吸気と呼気 -
サウンドアーティストの佐野風史さんは、呼吸を通して、目に見えない窒素の存在を音で感じる体験型のインスタレーションを制作。
普段意識することなく、呼吸を通して体内に取り込み、また外へと放出している窒素が、空気中を漂い、私たちと世界を静かに繋いでいるシーンを表現します。
YEP来場者に新しい視点とインスピレーションを提供
「窒素と怪談」というテーマに初めて触れた来場者の多くが「怪談と窒素がどう関係するのだろう?」と不思議そうに首をかしげていました。しかし、説明を受けることで、「なるほど、おもしろい取り組みだ!」と納得される方が多く見られました。
展示を通じて、窒素という環境問題を扱いながらも、クリエイティブなアプローチで難解なテーマを親しみやすく表現している点が評価され、「おもしろい!」という声も。
窒素を題材とした作品を制作したことのあるアーティストにも興味をもってもらい、新たなコラボレーター候補も見つかりました。YEPを通じてクリエイティブな交流が生まれています。
また、「怪談師」や「カクテルスタンド」のようなユニークなクリエイターを巻き込んだアプローチにも、関心が寄せられました。このプロジェクトを紹介することで、来場者に新たな視点を提供できたのではないでしょうか。
クリエイターとの共創が生み出す未来への可能性 - 担当者の振り返りと展望
食物生産をはじめ、代替エネルギーとしても利用が検討されている窒素。私たちの社会の発展や豊かさを陰で支えてくれている一方で、欲張りすぎるとしっぺ返しをくらう。そんな問題提起を「怪談」に見立てて伝えるプロジェクト。
3組のクリエイターとの共創によって《窒素の存在を知覚する》《問題の片鱗に触れる》《余韻とともに怪談を持ち帰る》という一連の体験をデザイン。研究者が論文で訴えるのとは異なる切り口で「窒素」を語ることで、無関心の壁を突破する。ロフトワークらしいアプローチで来場者の心を動かし、対話の機会がつくれたことを嬉しく思います!
YEPでは、窒素から得たインスピレーションで香水をつくってくださった方にも出会えました。今後もAWRDのアーカイブページを通して、ゆるやかにセレンディピティが起きることを期待しています。
「どうして怪談なんですか?」とよく尋ねられるこの企画ですが、その素朴な問いを投げかけてもらえばこっちのもの。
「窒素って、当たり前に近くにいるけど見えないもの。わたしたちにとって守護霊のようないい影響を与えるかと思えば、逆に我々が関係をこじらせれば、悪霊のようにもなりえてしまうんです。」そのように説明すると、窒素についてあまり知識がない方々でも、「なるほど!」と納得していただけます。
本プロジェクトで窒素問題を語る時、「怪談」は、窒素と人間の関わり方の摂理を抽象化して説明する手段でもあり、また、クリエイターによってアウトプットされた展示作品を通して、さらに窒素について鑑賞者の内なる想像力を呼び起こす媒介になりました。
窒素問題に限らず、目に見えない、あるいは顕在化していない課題や価値を扱う場面や、複雑な因果関係が絡む厄介な問題(wicked problem)においても、単に事実やロジックで説明するのではなく、あるいは一つの正義を語るのではなく、オルタナティブなアプローチを模索し続けていきたいと考えています。
クリエイティブな共創は、なにを生み出すのでしょうか?
専門的な課題ほど、その内容は一般的ではなく、説明が難しくなってしまいます。丁寧に説明しても、興味を持ちづらいかもしれません。そこで、最初は「これは何だろう?」と感じてもらえるような体験から、興味を引き出すきっかけを生み出せないでしょうか。
コラボレーションするクリエイターにとっても、専門的な課題は難しいですが、作品制作においてその課題を深く理解したり対話することが、新たな発想や手法を生み出すこともあります。
AWRDでは、賞を目指すコンペティションだけでなく、興味のある人を募るようなプロジェクトも開催されています。もし、窒素に興味が湧いた方や、すでに作品を制作している方がいれば、ぜひアーカイブに参加してみてください。新たな出会いや刺激が得られるかもしれません!
関連情報
【アイデア&作品募集】『Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素』のオープンアーカイブス
『Sense of the Unseen Vol.1 怪談と窒素』では引き続き参加クリエイターを募集中。「みえないもの」や「窒素」をテーマにしたアイデアや作品をご応募いただき、オープンアーカイブスプロジェクトにぜひご参加ください。
募集期間:2025年3月31日(月)まで
応募資格:どなたでもご参加可能です。
応募費用:無料
応募方法:https://awrd.com/award/sense-of-the-unseen
※AWRDのユーザー登録が必要です(無料)
研究者とクリエイターが共創し、目に見えない存在を知覚するプロジェクト「Sense of the Unseen Vol.1」
地球研・教授の林健太郎さんとゲストアーティストとして参加した佐野風史さんをお招きし、ロフトワークプロデューサーの山田富久美とともに、作品制作のプロセスを振り返る座談会を実施。「怪談と窒素」展の開催にいたるまでの過程を辿りながら、参加クリエイターとともに「窒素問題」について議論し続ける、オープンな場としてのプロジェクトの展望を語り合いました。
https://awrd.com/blog/2024/11/sense-of-the-unseen-01
撮影:村上大輔
執筆・編集:AWRD編集部