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[前編]人間をエンパワーする、思考のツールとしてのデータビジュアライゼーション:「QUICK Data Design Challenge 2023」審査員らが語る未来像

2023/10/02(月)

インタビュー

株式会社QUICKが主催となり、データから読み取れる内容をクリエイティブなアイデアで表現する作品を募集した「QUICK Data Design Challenge 2023」。インフォグラフィック、データビジュアライゼーション、動画、写真、ウェブサイトなど、応募者ならではの視点でデータの新しい見せ方に挑戦した176点の作品が寄せられ、グランプリ作品1点、準グランプリ3点、QUICK特別賞の1点が選出されました。

数字や専門用語の羅列など、一見すると理解しにくく、分かりづらいと感じてしまう「データ」を、誰もが自由に学びを得られるようにできないだろうか?そんな問いからはじまった本アワードを振り返りながら、QUICK常務執行役員の山口芳久さんと審査員を務めたTakram代表取締役の田川欣哉さん、企画運営を行ったロフトワーク代表取締役の諏訪光洋の3人が、データ活用の現状と未来について語り合いました。前編となる本記事では、アワードの開催経緯をはじめ、応募作品から感じられたデータ×デザインの現状について語られた内容をお届けします。

データ×デザインの可能性を発信するアワード

-今回のアワードの開催経緯をお聞かせください。

山口芳久さん(以下、山口):私たちQUICKは、データ活用を通して社会をより良くすることを使命にこれまで事業を展開してきました。一方で、新しい展開に取り組んだり、会社として成長したりするためには、これまでと同じような考え方では十分ではないと考えています。2021年からQUICKは、デザインをキーワードとする新しい組織の活動をはじめており、今回のアワードを「QUICK Data Design Challenge 2023(以下、QDDC2023)」と名づけたのは、単にデータを提供するだけではない、デザインの力を組み合わせた新しい取り組みへの姿勢をアピールしていきたいという想いを込めたからです。アワードの活動を通してQUICKのメッセージを社会に発信すると同時に、応募していただくクリエイターの方たちとのつながりが、社員にとっての新たな気づきとなり、「昨日と同じ明日では駄目だ」ということを問いかけるきっかけにもなればと思っています。

株式会社QUICK 常務執行役員 マーケティング&デザイン担当 山口芳久
株式会社QUICK 常務執行役員 マーケティング&デザイン担当 山口芳久

諏訪光洋(以下、諏訪):いみじくもQUICKさんからとてもいい言葉が出てきましたね。昨日と同じ明日では駄目だ、と。僕らも普段から思っているのですが、アワードは企画運営側にとって大きな学びの機会になるんですよね。応募作品から「なるほど、そう来るか!」という気づきが得られますし、さまざまな視点や考え方に触れるきっかけになることがアワードの価値のひとつだと思います。

もともとロフトワークが運営する「AWRD」は、創業時にオープンした「loftwork.com」内のクリエイターコミュニティのプラットフォームとしてはじまった経緯があります。時代とともにさまざまな変遷があり、役目を終えた機能を減らす中でも、最後まで残ったのがAWRDでした。なぜ僕らがAWRDを残したかというと、新しい才能やクリエイターにとっての後押しとなる場をつくることに強い想いがあるからなんです。

株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪光洋
株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪光洋

今回のアワードのように、審査員である田川さんや、QUICKさんのような大きな企業が若い才能を認めてあげる場があることが重要で、それこそが次の時代のクリエイターや企業が生まれるきっかけになると考えています。QDDC2023の開催は、データ×デザインの領域で活動する方々にとって有意義な機会だったんじゃないかと思っています。

-審査員には、QUICKさんのご指名で田川さんが就任されました。田川さんは今回のアワードの依頼を受けた際に、どのような印象を持ちましたか?

田川欣哉さん(以下、田川):まずはデータ×デザインというテーマでアワードを開催する、このアイデアがすごいなと思いましたね。QUICKさんとは、これまでに3年ほどお仕事をご一緒させていただいていて、今後はデータを扱うことができるデザイナーの存在がとても重要になってくるという課題意識を共有していましたが、そんなQUICKさんの姿勢や考え方を、アワードを通して発信していくのはとてもいいなと感じました。

メディアでもデータサイエンティストやエンジニアが足りていない現状が取り沙汰されていますが、いわんやデータを扱うことができるデザイナーは本当に希少種です。Takramもまさにデータを活用したサービス開発に取り組んできましたし、データ×デザインの領域の仲間を増やしたいという思いがずっとあったので、なにかしら貢献できることはあるんじゃないかなという気持ちで審査に臨みました。

Takram 代表取締役 デザインエンジニア ディレクター 田川欣哉
Takram 代表取締役 デザインエンジニア ディレクター 田川欣哉

データ活用を広く開放するデザインへの期待

-QDDC2023の募集作品では、データを「自身の視点で捉え直し、新しい見せ方」を考えることがチャレンジ内容に掲げられました。これはデータを扱うビジネスにおいて特に重要なテーマなのでしょうか?

山口:データを取り扱うビジネスをこれからも展開していくにあたり、データの見せ方や使い方、伝え方において、さまざまな工夫が必要になるだろうと思っています。その際に、新しい視点や解釈を取り入れていくことがひとつの鍵になるのではないだろうかと考えたんですね。アワードのテーマに掲げることで、応募作品を通して私たちにとって学びが得られるんじゃないだろうかという期待がありました。

-田川さんはデータビジュアライゼーションにおける「新しい視点」についてどのように感じていますか?

田川:たとえば金融系のプロフェッショナルの人たちが使っている画面を見ていると、ものすごい情報量のテキストと数字の嵐で、傍から見ていると何をやっているのかさっぱりわからないですよね(笑)。そういったプロフェッショナルのツールにWebの技術が入ることで、当初のターゲットユーザーとは異なる方が触れる機会が増えることが随所で起こっていると思います。これからは事業会社やコンサルティングファームなど、常にデータに触れているわけではない人たちがデータを活用するようになり、新しい視点の発見や、考えを深めることができるようになるかもしれない。その時に、ツールの使いやすさはデータ活用の可能性の広がりに大きく関わるので、デザイナーの役割が重要になると思います。

Takramでは「ヒューマナイゼーション(humanization)」という言葉を使っているのですが、テクノロジーはそのままの状態だと難解で使いにくいので、エンジニアやデザイナーといったプロフェッショナルが、より人間に近いインターフェースをデザインする必要があり、そうすることではじめてツールとして世の中に浸透することができます。今後デザインがデータに関与していく可能性があるのは、そういったユーザーの裾野を広げていくための使い勝手やUIの場面だと思います。

一方で、金融のプロフェッショナルたちにとっても、デザインが入ることで新たな可能性が開かれるのではないかと感じています。普段からデータに触れているプロフェッショナルの方々の中には、いつも定型の作業だけをしていることも多いですよね。先輩から代々口承で伝わってきている秘伝のレシピのような(笑)、独自のルーティンでデータを使っている方も少なくないはずです。今後ヒューマナイゼーションによって、データを扱うツールを人間の側に引き寄せることができれば、専門家にとっても、これまでとは異なる新しい視点やインサイトを導き出せるようになるんじゃないかなと思います。

山口:私たちのメインのサービスはまさに数字と文字の羅列で、馴染みのない方からすると、何が何だかわからないものだと思います。私たちとしては、多彩なデータを正確で、より早く、タイムリーに扱うことが役割だと考えてきましたが、個人投資家向けにスマホで株式取引などができる証券会社のようなサービスも生まれてきている中、これからはいわゆるマーケットに関わる投資家や金融業界の方々だけではなく、一般の方に向けてデータを伝えていくことが、新しいビジネスにつながるのではないかと思います。その際は田川さんがおっしゃるように、デザインの存在が大きな違いを生むのではないかと考えています。

田川:デザインの力は、データという抽象的なものを人間的なものに落とし込む際に発揮されるので、専門家たちの間だけに閉じられていたデータの使用場面を、広く開放していくことにつながるんじゃないかなと。今回のアワードは、QUICKさんがデザインの領域にぐっと踏み込んでいく意思表示であると同時に、現在の時流を反映した出来事でもあると思います。さまざまな人が意思決定や思考を深めていくツールとして、データが使われていくフェーズになったんだなと感じますね。

応募作品から感じるデータへの関心の高まり

-第1回の開催を振り返った感想をお聞かせください。

田川:真っ先にこの応募数と作品の質にびっくりしました。これまでに僕は、いろんなアワードの審査に入らせていただいているので肌感覚としてわかるんですが、よくこれだけの数とクオリティの作品がこの期間で集まったなと。募集締め切り後に、応募作品のラインアップをご連絡いただいた際に、「もうこの時点で成功ですね」とすぐにお返事したんです。むしろロフトワークさんがどうやってこれを達成できたのかを聞いてみたい(笑)。

諏訪:いや、最初は大丈夫かなってちょっと不安だったんですよ(笑)。実はロフトワークは定量的なことが苦手な会社なんですね。審査のプロセスで田川さんの話を聞いていても、ロフトワークとTakramは同じデザインのフィールドにいるのに、なんて真逆の会社なんだろうと思って(笑)。

どちらかというとロフトワークは、外部接点の多さやコミュニティをつくることで人を巻き込んでいくような、定性的なことが得意なんです。デザインやアートの分野の方にはリーチできている実感がありますが、今回のテーマで作品が集まるのかには少し不安がありました。結果的に、これだけ素晴らしいクオリティの作品がたくさん集まってよかったなと思います。とはいえ今回の結果は、これまでQUICKさんと田川さんがデータ×デザインにかける想いやメッセージを発信してきたからこそだと思いますね。

山口:それではここで応募総数をデータで申し上げますと……。

一同:(笑)

諏訪:さすがですね(笑)

山口:最終的に176点の作品が集まり、複数応募いただいた方もいらっしゃったので、参加人数は161名でした。実はアワードの実施にあたり、当初の社内資料では目標応募数を60と書いていたんです。さらにいえば60でも不安で、その後30まで下げていたほどでした。これだけの数が集まったのは驚きでしたし、受賞作品を一覧で拝見しても、動画もあればインフォグラフィックスもあり、作品のバリエーションも使用しているデータの種類も多様で、すばらしい結果だと感じています。

田川:たとえば大学の情報デザイン系のコースで作品を募集するよりも、1段も2段もクオリティの高い作品が、今回の応募作品のボリュームゾーンだったと思います。それだけ全体のレベルが高いのに驚きましたし、データ×デザインに興味のある方は増えてきていて、データを扱うことが一般化しつつあるのを感じましたね。オープンソースのデータも増えてきているので、データという着眼点さえあれば、すぐに制作をスタートできる状況が整いつつあることに希望を持ちました。

後編に続く

執筆:堀合俊博
撮影:加藤麻希
編集:AWRD編集部

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